弱者の苦悩
ブックマークが45件を突破!
ありがとうございます!
1日にこの作品を見てくれてる人も着実に増えてくれていて、嬉しい!
だからと言って、ポンッ!といい話が浮かんでくるわけでは無いんだけど……
宿でティアと落ち合い、先程の内容を伝える。
「そんなに頻繁に奴隷が……」
元奴隷だった為か、思う所があるようた。
「そして、成り行きで俺がその活発化している奴隷商の動きを止める事になった」
「……え?どうして?」
「いや、物件を売ってるおっさん、ネフトさんって言うんだけど、その人がこの件が解決しない限り俺の話を聞いてくれないみたいなんだ……だから俺が手伝う事で早く家を手に入れようと考えた訳だ」
「何というか……ユウトさんはすぐに面倒事に首を突っ込むよね……」
なんかティアに呆れられてしまった。俺としては首を突っ込むと言うより、俺が行く先に面倒事があるって認識だったんだが……
「ま、まぁそういう訳だ。ティアにも手伝って欲しいんだが、どうかな?」
「ユウトさんがやるって言ってるんだから、私が断る訳ないでしょ?」
「そうか、ありがとな。詳しい事は明日ネフトさんから聞く事になってるから、それまでは静観だな」
「じゃあそれまでは暇なんだ?」
「いや、今日はEランクのクエストを受けようと思ってる。大金が入ったからってクエストを休む訳にはいかない。家を買ってから文無しになりました、じゃ格好がつかないからな」
「折角の休むチャンスが……」
ティアは休みが潰れてかなり落ち込んでいた……そこまで休みたかったのか。それならいい機会かもしれない。
「もし休みたいなら休んでもいいぞ?クエストは腕試しの為でもあるから、一度は俺だけで挑んでみたかったし」
「え!?もしかして私、見捨てらた…?」
「そうじゃないって!ティアには結構無理させてたなと思ったから、この機会に休んでもらおうと思っただけ。俺がティアを見捨てるとかあり得ないから」
「よかった……」
ティアは心底ホッとした様に胸を撫で下ろしていた。どんだけ怯えてたんだよ……
「そういう事だから、今日はゆっくり休んでてくれ」
「分かった。気をつけてね」
そう言うと、ティアは宿へと戻っていった。
「さてと、じゃあ俺は一仕事頑張りますか!」
初めて受けるEランクのクエスト。きっとFランクとは比べ物にならない位難しいんだろう。それでも俺はどんなクエストが待っているのか、楽しみで仕方がなかった。
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
ギルドへ向かった俺は、早速Eランクのクエストを1つ受けた。種類は魔物討伐クエスト、内容は『洞窟に棲むリザードマンを3体倒す』と言うものだ。
緊急クエストの時、他のEランクのパーティーが倒していたのを見たが、そこまで苦戦している様には見えなかった。だから、俺は少し侮っていたのかもしれない。魔物の恐ろしさと言うものを……
ガギィィン!!
「ぐっ!!」
洞窟の魔物–––リザードマンは、手にした曲刀で俺の片手剣を弾いた。
続けて振り下ろされる曲刀を、大きく後ろに飛ぶ事で回避する。
リザードマンが曲刀を振りかぶりながらこちらに向かってくる。
その動きに合わせて、俺はガラ空きの腹へと剣を叩き込む––––筈だった。
リザードマンは俺の攻撃の軌道が分かっているかの様に、急停止し凄い速さでその軌道へ曲刀を滑り込ませる。
そして俺の攻撃を受け止めると、自身の後方へ受け流した。
「なっ!?」
受け流されるとは思ってなかった俺は自身の攻撃の勢いを殺す事ができず、大きく体制を崩してしまう。
そうして大きく隙ができてしまった俺に、リザードマンは強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ゴボァッ!!」
凄まじい激痛が俺を襲い、勢いよく血を吐き出してしまう。
意識が朦朧としてきて、もう立ってるのもやっとの状態だ。
洞窟にやって来た時、運良くリザードマンを見つける事が出来た俺は、颯爽と攻撃を仕掛けた。
1体、2体と不意打ちの様な感じでリザードマンを倒した俺は意気揚々と3体目のリザードマンを探した。そして興味本位から、俺はそいつと正面から戦う選択をしてしまった。
結果が先程の状況だ。俺が戦いの中で使った技を、そいつは俺の動きを見て、見よう見まねでこなし俺を圧倒するまでに成長していた。
魔物は学習し成長するのだ。特に命が懸かった戦いでの成長速度は尋常じゃない。
確かに、Eランクのパーティーはその事が分かっていたのか、こういった魔物と戦う場合は、適度に戦闘スタイルの違う人間と交代し、魔物を混乱させる様な戦い方をしていた。
それに加えて俺のステータスは低い。それでも勢いに任せた攻撃をしている魔物は倒せるが、強靭な肉体を持った魔物が人間の技を会得したら、まさに鬼に金棒。そうなったら、俺には手が付けられない。
やはり俺は調子に乗っていたのかもしれない。ジャイアントリザードマンの時も、トドメを刺したのはティアだし、魔族を追い払ったのだってティアの固有スキルを使ったからだ。俺が強い訳ではない。
やっぱり俺は弱い。それでも、自分の大切なものを守る為には強くなるしかないんだ。
そう考えると、今回はいい教訓になったな。でも、俺はこんなところで死ぬ訳にはいかない。
そう考えてリザードマンを睨むと、不敵に笑った様な気がした。自分が負ける事など考えていない勝者の目だ。
なりふり構っていられない。俺は剣を背中の鞘に収め、『神速』の態勢に入る。ティアとの鍛錬の成果で、俺はこの技に改良を加えより強くする事ができたが、改良を加えたこの技は使った後に大きな代償を伴う。
今までの俺の『神速』は、力を重視し敵を叩き斬るものだったが、本来の『神速』は速度を重視し、敵を貫くのが特徴的だ。
昔の俺では、『神速』に至るまでの速度を出す事が出来なかったが、ティアの動きから【加速】を使う時の足の運び方を学び、人が認識出来ない速度を出す事に成功した。
これも日々の鍛錬によって強化されたステータスのお陰だが、いざその速度を出すと体が悲鳴をあげ、暫くは身動きが取れなくなってしまう。
戦闘においてこの隙は致命的だ。出来れば、余り使いたくは無かった。
でもこいつは俺の技を吸収し続けている。今倒しておかないと俺の命は無い。
重心を低く保ち、俺は一気に地面を蹴る。
シュバッッ!!
風を切るような音を発して、俺はリザードマンの目前まで迫る。虚を突かれたリザードマンは反応すら出来ていない。
その勢いのまま俺は背中の剣を抜き放ち、相手を肩から切断した。
俺の攻撃を受けたリザードマンは、そのまま霧となって消滅した。
「はぁ……はぁ……はぁ……ぐっ!」
新しい『神速』を使った俺は、後から来た激しい激痛に耐えられずその場に倒れてしまう。
「………なんとか、勝てたか……」
服はボロボロ、そして自身の吐いた血がベットリと付着している。剣も何とか原型を保ってはいるが、今にも折れそうだ。
「…クエストも、終わったし、帰るか……早く、回復して、ここから出ないと、また魔物が、やってくるかも、しれないからな……」
今だけはここに魔物が来ませんように。そう願わずにはいられなかった。
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
ギルドに戻った俺は、最近受付を担当してくれるリアさんにクエストの終了報告をする。
「無事クエスト終了しました」
「あ、あの……大丈夫ですか?」
リアさんは、黄緑色のおかっぱの髪が特徴的な可愛らしい女性だ。セラさんと1位2位を争うほど人気らしく、今日も嫉妬の視線に晒されていた。
そんなリアさんが俺を心配してくれていた。結構嬉しい。
「まぁ、体調面では心配無いですが、今回のクエストで実力の無さを痛感しましたから、精神的には辛い所ですね……」
「失礼ですが、お仲間の方は?」
「いえ、今日は1人で行ったんです。緊急クエストの時に他のEランクのパーティーが難なく倒していたので、俺でもやれるんじゃ無いかと少し調子に乗ってしまって……結局この有様です」
「………」
「あの……どうかしましたか?」
なんかリアさんが唖然とした表情で固まってしまった。大丈夫かな?
「あの、とりあえず報酬を貰いたいんですが」
「あ、はい!今回はEランクの魔物討伐クエストという事なので、4000アルです。お確かめください」
「ありがとうございます」
そう言うと俺は自分の実力の無さに落ち込みながら宿へと戻ったのであった。
「……普通、リザードマンはEランクの冒険者が単独で倒せるものでは無いんですが……」
リアの呟きは、誰の耳にも届く事は無かった。
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
宿に戻ると、ティアがやってきた。
「おかえり、ユウトさん。クエストはどうだった––––って!何じゃこりゃ!!?」
ティアは、俺の服装を見ると突然ビックリするような大声を上げた。
確かに今の俺を見たらすげーホラーかもな……服は血だらけ、身体中ボロボロ。そう思ったら、折角引いてきた痛みがまた出てきた。
「あ、あぁ。ちょっと調子に乗ったら、リザードマンに殺されそうになって。何とか勝ったんだけど、自分の弱さを思い知ったよ……」
「と、とにかく、手当てをしないと!ユウトさん、手を貸して!」
そう言うと、ティアは一瞬で俺の手を握った。するとティアから緑色の光が溢れ、俺を覆う。光が晴れた瞬間、俺の身体にできた傷は無くなっていた。痛みも引いている。
この力が発覚してから、ティアは頻繁にこの力を使うようになった。何でも、俺の役に立ててるのが嬉しいんだとか。出来れば他の人には見られたく無いから、少し自重して欲しいんだが……
「ありがとう、ティア。お陰で痛みが引いたよ」
「それなら良かった。でも、気を付けてってクエストに行く前に行ったよね!?帰ってきた時のユウトさんを見た時、私心臓が止まると思ったんだから!!」
「それは悪かったよ……とりあえず、今は1人にしてくれないか?」
「え?うん……」
ティアの返事を聞き、俺は自分の部屋に戻る。
その日は一睡もする事が出来なかった。
これからもこの作品をよろしくお願いします。




