何でも屋
更新が遅れてしまいました……
今まで1日更新を目標にして来ましたが、書き溜めがなく、最近忙しくなってきて厳しいと判断したので、これからは不定期の更新になると思います。
これからも『トレース・ファンタジー』を宜しくお願いします。
宿に戻ってティアと一緒に朝食を食べる。
「それで、今日は家を探そうと思う。従って、まずは情報を集めなきゃいけない」
「どんな?」
「まずは物件を売っている店が無いかを探そう」
この世界にも不動産屋とかあれば良いんだけど……あったとしても場所が分かんないし、結局誰かに聞くか歩いて探すしか無いんだよな……
「よし!早速これ食い終わったら手分けして行動開始だ!」
「おー!」
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「とは言ったものの、誰に聞けば良いんだ?」
ギルドに聞くのはなんか違う気がするし、かと言って誰か聞く人がいるのかと言われればいないわけで……つまり、早々に詰んでいる状態だった。
「くっそ!俺の人脈無さすぎだろ……」
「お?そこにいるのは、あん時の新人冒険者か?」
俺が頭を悩ませていると、どこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。何となく嫌な予感がして振り向くとそこには、金髪をなびかせ爽やかな笑顔を振りまくイケメンがいた。
「よぉ、久し振りだな!」
「あの……どちら様でしょうか?」
「おいおい、俺だよ俺!」
いや、こんな爽やかイケメンフェイスの男、知り合いにいたか?
「いや、初対面の人間にオレオレ詐欺とか、斬新過ぎると思うんですが……」
「その"オレオレ詐欺"が何なのかは分からないが、馬鹿にされてるのだけは伝わった」
「いや、割と本気で知らないんですが……」
「グリードだよ!緊急クエストの時一緒にいたDランクパーティーのリーダーの!」
Dランクパーティーのリーダー?何となくそんな奴もいたような気がするな……あ、思い出した。
「あ〜、あのやたら俺に突っかかって来たやつか」
「あの時は悪かったよ……あの洞窟でお前達の戦いを見て以来、俺達は心を入れ替えたんだ。それにしてもあれは凄かった!」
「はぁ、それはどうも……」
なんか前とは印象がかなり違うんだが……今の所、違和感しか感じられない。
「それと、洞窟では俺達を助けてくれてありがとな。お前達が来てくれなかったら、今頃俺達はトカゲの魔物のエサになってた所だった」
「あの時は勝手に体が動いたんだ。礼を言われる程の事じゃないよ」
素直に俺に礼を言いに来たのを見るに、本当に改心している様だ。顔も良くて性格まで良くなったら、もう誰もこいつを止める事が出来なくなってしまう……!
「それで?何かに困ってた様だけど、どうしたんだ?」
「あ、あぁ。ちょっと家を探しててな……」
そして、緊急クエストによって大金が入った事、そのお金で自分達の拠点を作りたいという事を話した。
「なるほど、家か……」
すると、グリードは少し考えた後––––
「それなら、こっちに物件を売ってる店がある。そこまで案内するよ」
「本当か!?それは助かる!」
「なに、命を救ってもらったお礼だ。これ位大したことじゃない」
そう言うと、グリードは後についてくる様促す。それに従い、俺はグリードの後をついて行った。
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「ここがその店だ」
グリードに案内されて着いたのは、普通の一軒家だった。特に目立った印象は無く、用がなければ素通りしてしまう様な感じだ。というか、店なのに看板の一つも無いってどういう事だ?
「なぁ、ここって本当に店か?」
「あぁ。ここのオーナーは限られた客にしか商売をしたく無いそうで、店を知ってるのも限られたヤツだけなんだ。俺も、別のヤツから紹介されてこの店の存在を知ったんだぜ」
そうなのか。でも、こんなに細々と店を経営してて儲かるのか?
「それに、ここは別に物件だけを売ってるわけじゃ無いんだ。性能の良い武器や防具、有益な情報なんかも取引していたりする。要は『何でも屋』だな。結構贔屓にしてるヤツは多いらしいぜ?」
そりゃそうか。限られた客にしか商売しないのに、物件だけ売ってても利益にはならないよな。逆に物件の方がオマケなのかも。
「なるほどな。ありがとう、グリード。早速家を探してみるよ」
そうして俺はその家へと入っていった。
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中に入ると、そこには綺麗なカウンターがあり、その奥で男性が何かを漁っていた。
丸く刈り上げた頭と、蓄えた顎髭が特徴的だ。体格はがっしりしていて、その容姿は歴戦の戦士を彷彿とさせる。
「すみません、少し宜しいでしょうか?」
俺は更に足を踏み入れ声をかける。
すると、カウンターの奥から声が掛けられた。
「見て分からねぇのか?今は忙しいんだ」
「何かあったんですか?」
俺はその後ろ姿に声をかける。
「お前には関係ねぇだろ」
「ですが、忙しいうちは俺の話は聞いてくれないでしょう?俺はできるだけ早く自分の用事を済ませたいですから、話を聞かせてもらえませんか?」
そう言うと、男は少しの間考える素振りを見せた。そして––––
「獣人族が人族の奴隷として重宝されてるのは知ってるか?」
「……えぇ。話くらいは」
「最近、その動きが活発になってきている。日に日に入ってくる獣人が増えてきてやがるんだ」
そうだったのか。俺が追い返した様なヤツらが他にもいたなんて……
「問題なのが、それを王族が主体で行っているらしいという事だ」
「王族が!?」
マジか!あの城の連中悪事にまで手を染めてやがったか!
「奴隷制度が悪いわけじゃ無いが、流石に今回はやり過ぎだな」
あ、そうか、この世界では奴隷は結構当たり前の事として考えられてるのか……
「そして最近になって、この国に"エルフ"がいる事が分かったらしくてな。その手の連中が必死になって探してるって訳だ。俺はそれを食い止める為に色んなツテを漁ってる」
「そうなんですか」
この人は奴隷制度をあまり良くは思っていないみたいだし、なんか気が合いそうだな。
「その話、俺にも手伝わさせて貰えませんか?」
「……何?」
「俺は貴方の仕事を手伝って早く自分の用事を聞いてもらいたい、貴方は奴隷商の活発過ぎる動きを止める為の戦力が欲しい、双方の利益になるwin–winの関係ですよ」
「"ウィンウィン"と言うのが何かは分からんが、確かにそうだな。だが、お前に出来るのか?」
「これでも前に1人奴隷を解放してますから。なんとかなると思いますよ」
ティアの事があってから、俺にとっての奴隷商のイメージは良くない。出来るものならこの手で食い止めたい。そしてあの城に直接乗り込んで、他種族の奴隷化を即刻辞めさせてやる!
「ほぅ、そいつは頼もしいこった。じゃあそいつらの動きを封じる事が出来たら、お前の言う事を何でも一つ聞いてやるよ」
「言いましたね?」
「男に二言は無しだ。それ位の大仕事だからな」
「分かりました。絶対に阻止してみせます。楽しみにしててください、えっと……」
「ネフトだ。今はそいつらの動きを探ってる所だから、明日また来い。何かわかったらその時に教える」
「わかりました、ネフトさん。俺は勇人です」
「おう、頼んだぞ、ユウト」
そうして俺はネフトさんの店を後にした。




