二人で鍛錬
またしてもギリギリ。
もう0時間際に投稿する癖がついちゃってるかも……
シグレとの面会が終了した後、俺達はFランクの簡単なクエストを終えてから宿に戻ってきた。Fランククエストで稼いだお金は2000アル。丁度俺達の宿代に消えた。
俺の部屋に集合した後、俺達は今後の予定を話し合う。
「やっぱり、私達の新しい装備を整えるのに使ったほうが良いんじゃない?」
ティアがそう提案してきた。確かに今のままの装備でクエストをこなして行くのは地味に厳しい。俺の剣なんか既にボロボロだしな……もはやクエストの度に買い替えてるまである。
ティアの短剣も目立つ損傷は無いが、安物だしな。いつ壊れるか分からない。
でも、それよりも俺には優先したい事があった。
「それも良いんだが、俺はこの大金を使って"拠点"を作りたい」
「この宿屋じゃ駄目なの?」
「確かにこの宿も値段の割には設備が整ってる。でも、やっぱり欲しくないか?誰にも遠慮することのない、安心できる空間がさ」
宿も設備は良いが、他に泊まってる人がどうしても気になってしまう。やっぱりプライベートな空間の確保は最優先に行いたい。それに、いつまでも宿暮らしじゃ格好がつかないしな。
「私とユウトさんの拠点………」
すると、ティアはなぜか考えるようにして黙り込んでしまった。
「ティア、どうかしたか?」
「え!あ、いや、拠点、良いと思うよ!それに宿暮らしだと毎回お金を払わないといけないし」
「そうか?じゃあ、当面の目標は家探しという事で。それまでは、それなりにクエストをこなしつつ、気になる情報はチェックしていこう」
「分かった!」
明日から俺達の拠点探しが幕を開ける。
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翌日、俺達は町を出てすぐの平原に来ていた。ティアと朝の鍛錬を行うためだ。
最初は俺が普段どんな風に鍛錬をしているかティアに見学してもらう。いつものように準備運動から始め、片手剣を取り出し、それを両手で握って素振りを始める。ティアはさっきからじっと俺の動きを静かに見つめている。
「ふぅ……」
日課である素振りを終えると、ティアが駆け寄ってきた。
「今のは何?」
「これは素振りだ。これをする事で単純な筋力や剣を振る速さが向上し、太刀筋が綺麗になるんだよ」
「ヘぇ〜、凄いね!私もやってみて良い?」
「あぁ、良いよ。でもあまりやり過ぎると良くないと思う。ティアは短剣を使ってるから、俺が今振ってる片手剣で素振りをすると、変な癖がついちゃうかもしれない」
もし俺が教えた事が原因でティアが弱くなったりしたら申し訳ない。
すると、ティアは俺が渡した片手剣を逆手に持ち替えて振り始めた。それなら確かにティアの普段の振り方からかけ離れることはない。でも、その状態で振り辛くないのか?
そう思ったが、意外にも動きは様になっている。10回ほど振った後、ティアは俺に剣を返した。
「これを毎日続けてるの?」
「まぁこれだけじゃ無いが、基本毎日やってるよ」
「私には出来そうに無いや……」
ティアはこういった反復練習は苦手みたいだ。
「ティアには俺と模擬戦をして貰いたいんだけど」
「模擬戦?」
「普通に1対1で戦うんだ。ただし、攻撃は必ず寸止めにする事。相手を傷つけてはいけない」
「分かった。武器は何でも良いの?」
「あぁ、ティアが使いやすい武器でやってくれ」
そう言うと、ティアは普段使っている2振りの短剣を取り出し構えた。俺も素振りで使っていた片手剣を構える。
「じゃあ行くよ?」
「あぁ。よろしく」
辺りが静けさに包まれる。ティアは2振りの短剣を両手で逆手に持ち、右手を前、左手を横に構えている。2つの得物に注意しなくてはいけないためかなり厄介だ。加えて俺のステータスを全て上回る実力と、豊富なスキル。正直瞬殺される未来しか見えない。それでも強者との戦闘で得られる経験値は多い。この模擬戦を通して、俺はもっと強くなってやる!
そして次の瞬間、目の前からティアの姿が消えた!
どこいった!?目は一度も逸らさなかった筈なのに!
すると、上から凄まじい殺気が感じられ、反射的に剣を上げる。
キィィン!!
得物同士が交差し金属音が鳴り響く。
てかあぶねっ!今本気で殺しに来ただろ!
おそらく、【加速】と【天翔】を全力で使ってるんだろう。【加速】で相手が認識出来ない速さまで速度を上げ、【天翔】で空中を移動する。それによって相手からは消えるように見える訳だ。
俺はティアの一撃の衝撃を『流水の型』で受け流す。そのままティアは、俺から距離を取った。
「さすがユウトさん。今の攻撃を受け止めるなんて」
「いや、かなりギリギリだ。今のだって直前までティアの動きは全然見えてなかった」
「今の攻撃は結構自信あったんだけど––––なっ!!」
ティアは一瞬で俺との間合いを詰め、そこから短剣ちよる連撃を繰り出す。上下左右から来る斬撃の嵐を相手の踏み込み、腕の振り、視線から軌道を予測して何とか迎撃する。
「せぁぁっ!!」
「んぐっ!!」
このままではティアに押し切られると判断した俺は、僅かに空いた隙を見つけ、そこ目掛けて剣を一閃する。
俺を頭上から狙っていた右の短剣を弾かれたティアは体勢を崩す。
その隙を狙って剣を振り下ろすも、あっさり躱され、距離を取られてしまう。
なんかティアを見てると鳴神を思い出すな。一撃の重さ然り、全力で取り組む姿勢然り。それに俺を過大評価してる所も似ている。
「なんか、ティアを見てると元の世界の幼馴染を思い出すな」
「どんな人なの?」
「いや、今のティアと同じ様に熱心に鍛錬に打ち込んでてさ。俺よりもずっと強いんだけど、それでもこんな俺と一緒に鍛錬してくれたんだ。俺はその子に追いつきたくて必死に鍛錬してたっけ」
「凄い人なんだね」
「あぁ、そいつは女子の門下生の中でも一番強くてさ––––––」
俺が言った瞬間、ティアの表情が固まった。
「女子?ユウトさんは別の世界でも、女の人と一緒に鍛錬してたの?」
「あぁ、そうだけど?」
「その女性とはどの位仲が良いのかな?」
何だ突然?やけに食いつき良いな。というかティアさん?なんか後ろから黒い靄みたいな物が出てるから!落ち着いて!!
「え、いや、その、どの位仲が良いと言われても……」
「もしかして、その、つ、付き合っていたりとかしてたの!?」
「え!いや、違うよ!あいつとは唯の幼馴染だ!それに俺みたいなやつと付き合おうなんて物好きいないだろ?」
「…や、…ます…。……くと…一人…」
「え?」
何て言ったの?声が小さくてよく聞こえなかったんだが………
「いや、何でもないよ!?それより、そろそろ終わりにさせて貰うよ?」
「来い!」
ティアは短剣を腰の辺りに抱え込む様にして力を溜めている。
っておい!俺に向かって『神速』を打つつもりかよ!?
「私、信じてるから」
いや、ここで信じられても……貴女の『神速』は、Cランク指定の魔物を一撃で葬れる程の威力があるのを忘れたんですか?こんなの絶対俺死ぬだろ!?てかこれは鍛錬のレベル超えてるから、命のやり取りしちゃってるから!!
こうなったら俺も神速をぶつけて相殺するしかない。背中の鞘に剣を収め、力を溜める。あれからステータスが上がったからか、前よりも力や速度が増し、前よりも威力が上がった『神速』なら、あわよくば相殺できるかもしれない。
「じゃあ、行くよ!」
「くそっ!朝から命の危機とか最悪すぎる……」
そして、二筋の光が交錯した––––
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「今後の鍛錬では『神速』は禁止!!」
「ごめんなさい……」
あの後、何とか生き残った俺は、ティアに説教をしていた。鍛錬で、相手の命を奪うかもしれない様な危険な技は、相手と実力差がかなり開いている場合しか使ってはいけない、という事を若干怒りながら教えた。
なぜ『神速』を使用したのか尋ねた時のティアの反応と来たら、久々にキレそうになった。
『ユウトさんなら私より強くて実力差もかなりあると思ってたし、受け止めてくれると信じていたので使用しました』
何が私よりも強いだ!!ステータス明らかにお前の方が上だろ!?100以上も差が開いててよくもまぁそんな事が言えたと思うよ!
俺の『神速』でティアの『神速』の威力を削りつつ、ギリギリのタイミングでティアの攻撃の軌道から体を反らしてなかったら、今頃俺の体にはぽっかりと穴が空いてたよ……そこまでしてさらに俺の剣は全壊だからな……ティアがどんだけ凄いか分かった気がする。
「でも模擬戦自体は良い経験になった。ありがとな、ティア」
「私も色々勉強になったしお互い様だよ」
「じゃあ、宿に戻って朝食食べるか。ティアは、今日の事しっかり反省しろよ?」
「は〜い!」
本当にわかってんのか?かなり心配だ……
胸に一抹の不安を残したまま、俺達は宿へと戻った。




