閑話 私の大切な人
一度書き終わった瞬間に、書いていたデータが消滅、一から書き直すハメになりました……
投稿遅れてしまい、申し訳ありません…
最初は凄い人だと思った。私を運ぶ馬車を護衛していた屈強な男2人組を無傷で倒し、私の"隷属の首輪"まで外して奴隷から解放してくれた。
お礼を言おうとしても、偶々だとか、俺がやりたかったからやっただけと言ってまともに聞いてもくれないし、終いには名前も教えて貰えずその場から去って行ってしまった。何としてでもお礼を言おうと誓った。
彼の匂いを辿って彼が拠点にしてるらしい町までやってきた。ここでは奴隷ではない獣人は珍しいらしく、あっという間に囲まれてしまった。どうしようかと悩んでいると、私に触ってこようとする人がいた。それを見た瞬間、私の中に奴隷として生活してきた頃の記憶が蘇る。慌ててその手から逃れ逃げようとすると、私を囲む人たちの中にあの人がいた。最初は私を見つけてくれたのかもしれないと喜んだけど、どうやら外の騒ぎが気になって出てきただけみたいだった。ちょっとムカついたので、大声でその人の事を"御主人様"と呼んでやった。彼は慌てて私の腕を掴むと、近くの宿屋まで連れ込んだ。不思議と彼に掴まれた時は嫌じゃなかった。
宿屋の中で彼と話をする。私が一緒にいさせて欲しいと頼むと、即答で断られた。かなり落ち込んだが、理由を尋ねると、どうやら彼は冒険者と呼ばれる職業のFランク、なりたての冒険者らしく、自分について来ても何も利益が得られないと考え、私のために断ったらしい。
久し振りに怒りが込み上げてきた。どうして分かってくれないの?私は損得勘定で貴方と一緒にいたい訳じゃ無いのに!
冷静になれなかった私はここで何かを口走ったかもしれない。でも私には、その時の記憶はなかった。
でもその結果、彼は私が一緒にいる事を許可してくれたみたいだ。足を引っ張るかもしれないと言われたけどとんでもない!むしろ私の方が足を引っ張らないか心配だった。
次の日の朝方、ユウトさんの部屋を訪ねたのだが、誰もいなかった。そしてユウトさんが帰ってきた後、朝食を一緒に食べると、私達はギルドに行く事になった。理由は私の冒険者登録と、クエストを受けるため。初めての事で不安だったけど、何とかそれを無視し了承する。
ギルドに向かう途中、ユウトさんはここでは無い別の世界から召喚されたのだと教えられた。もしかして勇者様!?と思ったけど、どうやら違うらしい。何故かもっとユウトさんの事を知りたいと思った。
ギルドに行く前に、私の装備を整える事になった。私は今の皮のドレスでも大丈夫なんだけど、ユウトさんが買ってくれるというので、できるだけ良いものを買ってもらった。何故かユウトさんは涙目になっていた。
ギルドに着くと私は冒険者登録を開始する。手続きが意外と簡単だったのですぐに終了した。これでユウトさんの役に立てると思うとやる気が湧いてくる。登録を完了した後、カードを貰った。これが結構重要らしく、自分の身分を証明するものになるのだとか。あと、ステータス?と言うものも出せるらしい。やり方を教わりユウトさんの元に戻る。
すると、ユウトさんはお互いのステータスを確認しようと言ってきた。先にユウトさんのステータスを見せられるが、私はステータスがどういったものなのかよく分からないので、反応のしようが無い。
ギルドに向かう途中に、ユウトさんは、スキルが一つしか無いから城から追い出されたと聞いたけど、実際のステータスにはスキルが4つあった。
その事を尋ねると、どうやら他の3つは『パッシブスキル』と言うらしく、あまり人には見せてはいけないらしい。ユウトさんのパッシブスキルは、自分が信用した相手にしか見ることは出来ない様になっているのだとか。私が信用されていると分かって嬉しかった。
その拍子に軽い気持ちで私のステータスを開いてしまったが、それがいけなかった。何と、私のステータスは、ユウトさんのステータスの数値を全て上回っていた。自分でもビックリしたのだから、ユウトさんは相当のはずだ。そう思って顔を覗き見ると、唖然とした表情で固まっていた。
どう声をかければ良いのか分からず、戸惑っていると、ユウトさんから修行はした事があるか?と聞かれた。もちろんそんなものはした事が無いが、ふと村にいた頃、村を守るために襲ってきた魔物を1人で相手していた時期があった事を思い出し、それを伝える。するとどこか納得したようで、凄いなと褒められた。慌てて否定すると、また落ち込んでしまった。どうやら私には人を励ます才能は無いみたいだ……
そんなやり取りをしている内にセラさんがやってきて、パーティーの存在と、登録方法を教えてくれた。もちろんすぐにユウトさんとパーティーの登録を行った。
その後幾つかのクエストを受けた。私はとにかく役に立ちたかったから全力で戦ったし、持ち前の嗅覚もフル活用して素材を出来るだけ早く回収した。ユウトさんに「お前のお陰だ」と言われた時は、やっと役に立てたと実感できて嬉しかった。
そして一週間が過ぎたある日、私達は緊急クエストを受ける事になった。クエストの説明中にユウトさんに突っかかってきた男は、唯一のDランクパーティーのリーダーで、名前をグリードと言うらしい。絶対に許さないリストに入れておいた。
Dランクパーティーが先行した緊急クエストは思わぬ結果を迎えた。なんと、Dランクパーティーが手も足も出ずに1匹の大きなトカゲの魔物によって倒されていたのだ。これには私も驚いた。でも、ユウトさんは違ったみたい。すぐに私に指示を出して、1人でも多くの人を救おうと動いていた。心の底から凄いと思った。
Dランクパーティーが相手をしていた魔物は、私やユウトさんの攻撃を受けても一切傷が付かないほど硬い皮膚を持っていた。
するとユウトさんは何かをしようとしているらしい。指示通りに私が魔物の注意をそらすために動いていると、魔物の後方から凄まじい速度で何かが突っ込んでくる。その勢いに押されトカゲの魔物は反対側の壁まで吹き飛ばされた。その場に残っていたのは、肩で息をしながら剣を振り下ろした状態で固まっている彼の姿だった。
何が起きたか分からずユウトさんに尋ねると、どうやら今の攻撃は彼の奥の手らしい。あんな攻撃方法があるなんて知らなかった。
それでもその魔物を倒すには至らず、背中に大きな切り傷を作るに止まってしまった。速度が足りない。確かにユウトさんはそう言ったはず。私は多少速度には自信がある。もしかしたら、あの硬い皮膚を貫通し得るだけの速度を出すことができるかもしれない。
ユウトさんに提案すると、出来るのか?と確認を取ってきた。技は一度見ただけ、それでも成功させなければあの魔物は倒すことが出来ない。不安を悟られないように返答すると、今度はユウトさんが魔物の注意を引いてくれると言ってきた。本当はもう休んで欲しかったけど、彼の決意は硬い事は目を見れば分かった。彼にお願いし、私は力を溜める。
そうして私が放った一撃は魔物の腹を貫通し、魔物は消滅した。
ユウトさんは満身創痍の状態で、座り込んでしまっていた。慌てて駆け寄り体を支えるために彼の体に触れると、私の体から光が溢れて彼を覆い、傷を塞いでしまった。
その後、壁際に避難していた冒険者達は、皆私の活躍を讃えてくれた。それでも、ユウトさんの事を誰も讃えてくれなかったことがとても悲しかった。
その直後、洞窟が濃密な殺気に包まれる。洞窟の奥に目を向けると、そこには赤い髪が特徴的な中肉中背の男が立っていた。
そいつは何かを探すように辺りを見渡し、そして私と目があった。そして何かを呟き、手をかざした瞬間、紫色の光が私を貫いた。
あまりの痛さに、倒れてしまう。慌てて駆け寄ってくるユウトさんの姿が見えたが、視界が霞んでいく。しかし、ユウトさんに触れられた瞬間、またしても私から光が溢れ、今度は私を包んでいき、傷口を塞いでいた。
魔族の男は、固有スキルを持つ私達を魔族領に連れて行きたいと言う。魔族領なんて聞くからに危なさそうな所に行くわけないだろ!
私達は魔族の誘いを断り、戦闘に突入した。
魔族の男は桁違いに強く、ユウトさんも一撃で吹き飛ばされ、私は体に電撃を流されたせいで気を失ってしまった。
目が醒めると、私の体が地面についていないことに気づく。どうやら誰かに持ち上げられているらしい。すると、誰かが話している声が聞こえてくる。
私の耳に入ってきたのは、Fランク冒険者なのに調子に乗りすぎだとか、獣人と一緒に冒険なんかしたくなかったなど、私達を傷付けるようなものばかりだった。私の事はいい。でも、ユウトさんの事を悪く言うのだけは我慢できなかった。
貴方達を助けるために、命を懸けて戦ったのに、どうしてこんな事が出来るのか、私には理解できなかった。同時に、人間の冒険者はこんな人しかいないんだと言うことに絶望した。そんな時、彼の言葉が聞こえてきた。
「戦う意思もない様な奴らが、あの子を馬鹿にすんじゃねぇ!!!!」
そこからは洞窟にいる誰もが彼の叫びに聞き入っていた。
彼の叫びからは如何に私を必要としてくれているか、大事に思ってくれているかが伝わってくる。その全てが心地良い。嬉しすぎて、泣きそうになった。そして最後に彼が私に言ってくれた言葉を私は一生忘れないだろう。
"お前を守ってやる!約束だ!"
守ってやると言われた事が嬉しかった。獣人として生まれた私をちゃんと女の子として見てくれた事が嬉しかった。そして圧倒的強者を前にしても、私を守ると誓ってくれたその姿を見た瞬間、突然胸が早鐘を打ち、顔が熱くなる。今まで体験した事がない感覚。でも今はそれが不思議と心地良い。
それと同時に、この人にはどうやっても勝てないのだと悟る。彼の強さは、心の強さなんだ。相手がどんなに強くても大切な人の為なら何度でも立ち上がる、そんな意志の強さだ。
そう自覚した瞬間、体の中にある力が抜き取られる様な感覚に陥る。それが彼に向かって流れているのが分かる。同時に彼の体が凄まじい程の風に覆われる。風が霧散し、中から現れたのは、白銀の髪をしたユウトさんだった。
先程とは明らかに違い、遥かに強化されているのが分かる。彼を見た瞬間に体から力が抜け、また意識を失ってしまう。意識が薄れていく中で、知らない誰かの声が頭に響いてくる。
"早く私を解放して頂戴。今回は彼に力を貸したけど、元々は貴女の力なんだから"
誰かの声を聞いている間も、私の心臓の鼓動は早いままだった。
次回は今までの主要な登場キャラの説明。
その次から本編に入ります。




