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トレース・ファンタジー  作者: 青の剣士
第0章 導入部
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始まりの朝

9/26 誤字があった部分を修正


いつものように起きて、いつものように朝ご飯を食べ、いつものように家を出る。いつも通りの朝を迎えた俺「叢雨勇人むらさめゆうと」は愛用の竹刀を片手に変わり映えしない道を一人歩いていた。一人というのは友達がいないわけではなく単に道場の朝練があるためである。決して友達がいないわけではない(重要なことなのでニ回言うが)。周りを見渡せば一面真っ白に覆われていて本格的に冬の訪れを伝えてくる。


「はぁ〜、寒い」


何とかかじかんだ手を温めようと、手に息を吐きながら俺は呟いた。

早朝の人気のない場所というのが、さらに冬の寒さを一段と感じさせる。これ以上外にいると本格的に風邪を引きそうになるため、歩くペースを上げ道場へと急いだ。


高校二年生の今、小学校二年から始めた剣道は今年で九年目に突入したが未だその才能は開花せず、成績も中の下。何をやっても中途半端で、運動は得意と言っていいのかは分からないがそこそこ動ける。ついたあだ名は"the 平均"。俺という人間は、そんな至って平凡な学生だ。


そんな俺にも、得意なことがある。それは、「人の動きを見て、それを模倣すること」だ。もっともどこぞの世代の黄色い人のように派手な動きをするわけでもなく、足の運びや腕の使い方をほんの少し真似る程度のことしか出来ないため、大したものでは無いのだが。それでもこの特技の凄い所(勇人自身は凄いと思っている)は、やったことの無い事でも経験者を動きを観察する事である程度出来るようになる所だ。そのため、剣道を始めたばかりの頃は、「本当に初心者?」と驚かれた位だった。

しかし、自分で鍛錬を行っても全くと言って良いほど技術は向上せず、どんどん周りに追い越されていった。自分には才能が無いのかもしれないと、止めようと思った時もあったが、九年間続けることが出来たのは––––


「おはよう!叢雨君」


「あぁ、おはよう鳴神なるかみ


この鳴神光里なるかみひかりのお陰なのかもしれない。


彼女の名前は「鳴神 光里」。俺の幼馴染で同じ高校二年生。俺が剣道を習っている鳴神道場の一人娘で鳴神流めいしんりゅう剣術四段(ちなみに八段以上になると、剣術の奥義が使えるらしい)を持っている。しかし、実力的には八段の人にも劣らないらしい。段というのはどれだけ剣術に打ち込んできたかを表すらしいので四段なのだとか。奥義とかカッコよすぎだろ!?俺も使ってみたいな。

あ、俺も剣術四段ですが何か?実力はそれ以下だけど…。


鳴神の凄さはこれだけでは無い。彼女の成績は学年トップ。腰の辺りまで伸びた艶やかな黒髪と、モデルのようにスラッとしているにも関わらず出るとこは出ているという体型の百人に聞いたら百人が美人と答えるだろう外見のお陰で、月に4〜5回は告白される学園のアイドル的存在となっている。


「どうしたの?叢雨君」


「いや、鳴神はやっぱ凄いなと思って」


「急にどうしたの?褒めても何も出ないよ?」


鳴神が小学生の頃から道場で一緒に鍛錬してくれたお陰で、俺は剣道を続けることが出来ている。いや、決して鳴神が美人だからとかそういう理由じゃないよ?マジで。まぁずっと一緒に鍛錬してきたからか、中学生になった辺りから周りの嫉妬やら妬みやらの感情を含んだ視線が痛くなって来たんだが。

彼女は強い。それこそ俺が全力で戦っても手も足も出ない位に。だから彼女との鍛錬の中でその動きを観察し、取り入れることで俺も強くなりたい!と思っている。とりあえずは彼女に一太刀入れる事を目標に頑張っているが、先は長そうなのが辛い所だ。


「そういえば叢雨君。今日で冬休み終わるけど、ちゃんと宿題やったの?」


「あぁ、ちゃんとやったよ。答えが合ってるかは知らないけど」


「じゃあ、今日朝練終わったら叢雨君の家で答え合わせやらない?ちょっとわからない所があって不安なんだよね」


「宿題なんてとりあえず答え書いとけば良いんじゃないか?」


「ダメだよ叢雨君!私はあなたをそんな子に育てた覚えはありません!ちゃんと真面目にやらないと」


「お前は俺の母親か…」


俺は誰かと話すのが苦手だから会話が続かない事が多いが、鳴神が相手だとこうして話題を提供してくれるため、会話のキャッチボールがなんとか成り立っている。鳴神さんマジ天使!この神対応のお陰で何人の男が沈んだか…


「鳴神」


「ん?」


「ありがとな、お前のお陰で毎日が楽しいよ」


「え!?そ、それって、こ––––」


「これからも、"友達・・"として俺と仲良くしてくれると嬉しい」


「だよね、だと思ったよ」


なんか急に落ち込み始めたんだが、大丈夫か?今の会話に落ち込む要素あったか?


「それより忘れないでよ!」


「何を?」


「宿題の答え合わせよ!朝練の後やるってことになってたでしょ?」


「そうだっけか?」


あれ?まだ俺了承してなくね?……まぁいいか


「了解。じゃあ朝練終わったら俺の家に集合な」


「OK!そうと決まったら急がなきゃね!」


「あ、おい!?待てって!」


こんな毎日がずっと続けばいい。この時の俺はそう思ってたんだ。でもそんな日常は唐突に終わりを迎える。そう、あの時の様に。


–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


俺はふと気になったことを尋ねてみた。


「そういや、鳴神は進路はどうするんだ?」


「一応大学に進学しようかなと思ってるよ」


「さすが学年主席」


「でも大学も卒業したら、実家の道場を継ぐことになるかな」


ちなみに今の鳴神道場では鳴神のおじいさんが師範として弟子をとっている。今年で76歳になるが、未だ剣術の腕は衰えておらず、鳴神でもまだ勝てないらしい。

俺もじいちゃん(俺はそう呼んでいる)と一回戦った事があるが、あの気迫と動きは早々真似できるもんじゃなかった。あと一歩の所までは来てるんだが、未だものにできてはいない。


「そういう叢雨君はどうなの?」


「俺は…進学かな。やっぱ大学は卒業したいとは思う」


「じゃあさ!一緒の大学に行こうよ!絶対楽しいって!」


「うおっ!?急に元気になったな?」


「約束だよ?」


「いや、考えてみろって。俺の成績でお前が志望する大学に行けると思うか?」


「そこは叢雨君次第だよ!私も協力するから、一緒に頑張ろう?」


なかなかに厳しいことをおっしゃられるなこのアイドル様は…というかこの協力って一緒に勉強するってことだよな?ってことはまたあの嫉妬やら妬みの視線攻撃に耐えなくてはいけないのか…厳しい戦いが予想されるな。


「まぁ頑張ってみるか」


「絶対だよ?」


「はいはい」


「よし!それじゃあ今日の鍛錬も頑張––––」


そう言って鳴神が駆け出そうとした瞬間こちらに向かって走ってきた大型トラックがスリップを起こして倒れ、俺たちの方に滑ってきた!


「鳴神っ!!」


「え––––」


俺は咄嗟に鳴神を引き寄せたが、その反動で俺がトラックの進行方向に飛び出てしまった。


「やばっ!?」


目の前に迫る巨大な銀色の物体。俺は避けられないと悟って本能的に防御の体勢を取ったがもちろん意味はなく、そのままトラックと正面激突。


「–––––––」


今までに感じたことのない衝撃が俺を襲った。てかこれヤバイな。マジで体が動かねー。声も出ないし。


「ガハッ!!」


やべ、なんか吐いた。すげー赤いんだが。あ、これ血か。って血!?ヤバイヤバイ!!これ死ぬって!?あ、フラフラしてきた。なんか寒いし…視界もボヤけてきた。


「叢雨君!」


あぁ良かった…鳴神は無事だったか…なん…か安心し…たら…気が…抜け……


鳴神が何か言っていたがこの時の俺には全く聞こえていなかった。遠ざかる意識の中頭をよぎったのは、剣道を習い始めた頃彼女と交わした約束だった。どこからともなく現れた青い光に包まれながら俺の意識は沈んでいった。



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