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まわりまわって…… その12

二回連続投稿の二話目です。

 結局、僕は誤解を解くことは出来なかった。否定すればするほど、ニコラは僕が本物の王子様だと確信していくようだった。


 とにかく王子様うんぬんは絶対に他言しないように伝えておいた。王族を名乗るのは重罪だ。僕はともかく、ニコラまで巻き添えになってはかなわない。


「ぜったいにー、誰にも言わない-。一生の思い出ー」

 決意を込めた顔で言われた。


 僕はもう笑うしかなかった。

 まったく、どうしてこんなことになっちゃうんだろう。


 外に出た僕はがっくりと肩を落とした。


「ギルドに行こう……」

 とにかく依頼は成功したんだ。

 あとは割符を報酬と交換してもらえばそれで終わりだ。


 笛吹き横町を出て、手鏡町を通ってクロウラー通りに出る。冒険者ギルドに行くには遠回りだけれど、キースさん親子の様子も気になっていた。


 建物の陰からおそるおそる家の前をのぞいて心臓がどきりと高鳴った。キースさんの家の前に人だかりが出来ていた。みんな何事かざわめきながら家の中をのぞいている。


 まさか。

 一家心中、首くくり、という物騒な単語が頭の中を駆け抜けていく。


「す、すみません。どいてください」

 あわてて人混みの中に飛び込み、人と人の間をかき分けて前に出る。


 最前列に出て、目の前の光景に僕は目を奪われた。


「今日という今日は容赦しないよ、このごくつぶし!」

「うるせえ、やれるもんならやってみろ!」


 キースさんと奥さんが取っ組み合いの大げんかをしていた。キースさんは赤ら顔で奥さんの髪の毛を引っ張りながら馬乗りになっている。奥さんも負けじと、爪でキースさんの顔や腕ををひっかいている。


「せっかく借りてきた金をアンタはまた飲んできて。どうすんだい。せっかく何度金貸しをごまかしても台無しじゃないか」


「知るかボケ。あんな連中どうとでもならあ。シーナがうまいことやって徳政令さえ出れば……」

「またそんな夢みたいなこと言ってんのかい。子供の芝居なんかにだまされるような貴族なんているもんかい!」


 二人とも大げんかに夢中で僕のことにも気づいてないみたいだ。

「ねー、母ちゃんおなかすいたー」


「後におし!」

「ちぇー」


 僕のことをあんなに必死で叩いていた男の子は両親のとっくみあいにも構わず、台所の壺の底から掻き出したニンジンの切れ端をかじっている。


「まーた、やっているよ、こいつら」

「いい加減にしてくれよな」


 人だかりの人たちも見慣れた光景なのか、すぐに興味を失って一人、また一人とその場を離れていく。


「あの、キースさんたちは……」

「ああ、あれね」

 僕が声を掛けると、口ひげを付けた男性が振り返った。


「放っておきな。いつものことさ」

「いつも、ですか?」


「あの親父ときたらろくに働きもせずに博打ばかりで借金まみれでな。そのせいで、年中夫婦大げんかさ。協力するのは金貸しの取り立てから言い逃れるときくらいだよ。すごいよ。そこらの役者より上手いんじゃないかってくらいの熱演だからね。今じゃあ息子も手伝って親子三人の劇団だよ」


 僕はめまいがしそうだった。


「それで、あの、徳政令がどうとかというのは」

「妄想だよ」

 おじさんは肩をすくめた。


「あいつには領主様の館で働いている娘がいてね。徳政令が出れば借金がチャラになるってんで、領主様に徳政令を出させるよう娘に命令しているってんだよ」


「娘さんに、ですか?」


「純粋な子だったからねえ。親父に言い含められたことを本気にしちまったのかもね。あの親父が言うには、お偉い人にかわいがられているって話だけどねえ。そんなことあるわけないよねえ」

「……」


「ま、ケンカならそのうち飽きるさ。放っておきな。巻き込まれでもしたら目も当てられないからな」


 わはは、と笑いながらおじさんは去って行った。すでに人だかりはほとんどなくなり、見物しているのは三人だけだった。家の前ではまだキースさんと奥さんが取っ組み合いを続けている。上になったり下になったり、同じところで転がっている。


 ぐるぐるぐるぐる。

 僕の頭の中も同じところを回り回って止まりそうもない。


 僕はその場を離れた。

 ただ足を引きずるようにして割符を片手に冒険者ギルドに向かった。


   第七話 まわりまわって…… 了

お読みいただきありがとうございました。


次回、第八話「危険な二つ名」は執筆が遅れているため、

10/3(火)午前0時頃に更新の予定です。


次回もオトゥールの町が舞台となります。

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