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白猫と虹の杖 その15

 僕たちはその後、気絶したままのカーティスを抱え、『瞬間移動(テレポート)』で領主様のところへ飛んだ。


 長い間寝たきりだったせいかまだ顔色は良くないものの、すぐに領主の仕事に復帰した。

 法律で禁止されている『蝿悪魔の腕』に手を出したとのことで、カーティスを即座に領主代理の代理の座をくびにした上、牢屋に入れた。


 カーティスの屋敷を調べたところ、ほかにも禁止されているマジックアイテムがいくつか見つかったらしい。

 当然、マジックアイテムも全て没収された。


 どのくらいの刑罰になるかは今後の裁判しだいだけれど、おそらくはジンデル島の鉱山で穴掘りをさせられるらしい、とのことだ。

 当のカーティスは暴れるどころか、すっかり放心状態のまま、何を言っても無反応になってしまった。


 『蝿悪魔の腕』を使った副作用なのだろう。僕としては屋台のおじさんに心の底から謝らせたかったので、残念でならない。

 イモージェンも禁止されているマジックアイテムの密輸にかかわっていたとして、牢屋に入れられた。


 彼女もその罪にしかるべき罰を与えられることだろう。

 まあ、僕にとってはそっちはどうでもいい。

 問題はグリゼルダさんの方だ。


 領主様のお声掛かりで、新しい工房が作られることになった。その主にグリゼルダさんが就くことになったのだ。空飛ぶ靴を作らせたとかいう例の貴族というのもすでに他界しているので横やりが入る心配はないそうだ。もちろん警護の人間もたくさん付けてくれるという。ずっとグリゼルダさんをかばってきた人だから、カーティスのようにムリヤリ作らせることもないだろうし、まずは安心だ。


「腕のいい『付与魔術師(エンチャンター)』を遊ばせておくほど酔狂ではないからな」

 そう言って領主様は笑っていた。


 僕はもっと別の意味があるんじゃないかと思ったけれど、そこに突っ込むほど野暮ではないつもりだ。僕はもうオトナだからね。

 あとはオトナ同士に任せよう。

 

 カーティスを捕まえてから三日後、僕は次の町に行くことにした。

 マッキンタイヤーの町の門の前でグリゼルダさんが見送りに来てくれた。

 グリゼルダさんは名残惜しそうにしていた。


「ずっとこの町にいてくれていいのに」

「作っていただいたのは旅をするためですから」

 と、僕は杖を掲げる。


 杖もできたし、町も一通り見て回った。もうそろそろ次の町を見てみたい。

 領主様が次の町まで馬車を出してくれるといってくれたが、丁重にお断りした。

 馬車なんてもったいないし、そんな時間と人手があるなら別の仕事に使うべきだ。


「またお金が貯まったら来ますよ」

 杖に慣れたら、また新しい魔法を付けてもらうつもりだ。『瞬間移動(テレポート)』なら一瞬で来られるからね。


「くれぐれも気を付けてね。それより、ロズはどこに行ったのかしら。今日、出発するって言っておいたのに」

「ええ……」

 まさか見送りに来てくれないくらい嫌われているとは思わなかった。正直がっかりだ。


「昨日も夜中一人でごそごそやってたみたいだし、全く何をやっているんだか」

「僕も最後に一度、会いたかったのですが……」ふと、頭のつむじをさわってみる。


「ママ!」声のした方を向くと、大通りをロズが息を切らせて走ってくるのが見えた。途中、何度か人にぶつかりそうになりながら、腕には包みを抱えている。

「よかった、間に合ったわね」


 ロズは肩で息をしている。荷物が重そうだ。まるで旅支度だ。


「あちこち旅をして色々な物を見て回りたい」


 ロズの言葉が頭の中でよみがえる。もしかして……。

「どうしたのよ、一体。それに、その荷物は一体何なの?」


「あのね、ママ。私、どうしても伝えたいことがあって……」

 期待なのか、不安なのか。僕の心臓が急に高鳴る。

「この前、リオが戦っているのを見て、私、自分の本当に気持ちに気付いたの。ううん、前から気づかないふりをしていたのね。あのね、私……」


 トクトクトク。ああ、心臓の音がうるさい。こんなに大きくなるものなのか。


「私ね、私、マジックアイテム作りがやりたいの」


「へ?」と、間の抜けた声が僕の口から出たものだと気付くのに時間が掛かった。

 ロズは袋から小さな杖を取り出した。柄の部分に布が巻いてあって、先が細い。もしかして、魔法の杖?


「私が作ったの」ロズは興奮した面持ちでグリゼルダさんに手渡す。「リオが杖で戦っているところを見て、すごいって思った。こんなにすごいマジックアイテムを作れるんだって、私も作ってみたいって。私、ママみたいな『付与魔術師(エンチャンター)』になりたいの。ママみたいにすごい『付与魔術師(エンチャンター)』にはなれないかもしれないけれど、お願い」


「まあ、ロズ」グリゼルダさんが愛娘を抱きしめる。「もう、バカね、この子ったら。あなたならなれるに決まっているじゃない」

「ありがとう、ママ。私がんばるわね」


 仲のいい親子の姿に道行く人たちも微笑ましそうだ。

 僕はどういう態度を取っていいかよくわからず、とりあえずつむじをなでる。


「ゴメン、せっかくの旅立ちに変なこと言って。でも、どうしてもリオにも伝えたかったのよ。その、アンタには一応背中を押してもらったわけだし」


「いや、うん、そういうことなら仕方ないよ。気にしないで。僕は気にしてないから」

 僕は心にもないウソをついた。本当はものすごくがっかりしている。

 でも、それがロズの選んだ道なら僕は応援してあげたい。


「そういえば、リオ」とロズが急に僕の方を向いた。

「せっかくだから、その杖に名前を付けたら? そんなにすごい杖なんだから、ただの杖じゃもったいないわよ」


 ロズの言うとおりだ。『治癒(キュア)』・『瞬間移動(テレポート)』・『麻痺(パラライズ)』・『失せ物探し(サーチ)』・『水流(アクア)』・『大盾(シールド)』・『強化(リインフォースメント)』と七つの魔法が使える、特別な杖だ。いい名前を付けてあげたい。それに、これからずっと旅をするんだから名前を付けてあげた方がもっと愛着がわくというものだ。

 杖をためつすがめつ見て、色々考えた末に僕は名前を決めた。


「今日からこいつは『虹の杖』だ」


 雨上がりにかかる虹とは色の種類が違うけれど、魔法を使う時『(コア)』が七色に輝くからだ。不思議なもので、一度名前を付けてあげると、もうそれ以外の名前が思いつかない。だからこの杖は『虹の杖』で決まりだ。


「あら、いい名前ね」グリゼルダさんがほめてくれた。

「ふーん、まあ、いいんじゃないの?」ロズもまんざらではなさそうだ。

「それじゃあ、僕はこれで」と言いかけた時、背中に何かが飛びついてきた。


 にゃあ、とかわいい鳴き声の持ち主は僕の肩まで登ると、喉を鳴らしながら僕のほっぺにすり寄る。

「そうそう、君も一緒だよね。スノウ」


「ああ、そうだ。私からアンタたちにせんべつがあったのよ」とロズは袋に手を突っ込む。

 はいこれ、と取り出したのはピンク色のリボンだ。

「私が作ったの」


「いや、気持ちはありがたいけれど、僕はその……リボンをするほど髪は長くないし」

「アンタじゃないわよ。この子によ」とロズはスノウの首にリボンを巻いてあげる。

「これなら野良と間違われることもないでしょ」


 白い毛にピンクのリボンが映える。うん、すてきだ。かわいいスノウがもっとかわいく見える。スノウもうれしそうだ。

「その子が一緒ならマヌケなアンタも大丈夫よね」


 まったくだ。僕はもう二度も助けてもらっている。何より、一緒にいられるのはすごく楽しい。

「こいつのことお願いね、スノウ」

 スノウが鳴いた。了解ってことでいいのかな。


 僕はスノウを抱えて、僕の顔の前まで持ってくる。

「それじゃあ、改めて聞くよ。僕と一緒に来るかい?」

「にゃあ」

 スノウはまた僕に頬ずりした。


 門を出るとなだらかに丘が広がっているのが見えた。空も透き通るように青く、雲も薄くたなびいている。

「次はどこに行こうか、スノウ」


 スノウは僕の肩に乗っている。耳をぴんと立てて、飛んでいるチョウチョを目で追いかけている。小さな体が落っこちないようにゆっくり歩いているので遅めだけれどこれはこれで悪くない。急ぐ旅じゃないし、ゆっくり景色を見ながら次の町を目指すのもたまにはいいだろう。


「南に行くのもいいかもね」

 スノウは南の町から来たそうだから、そっちに行けばほかの『猫妖精(ケット・シー)』にも会えるかもしれない。


「もし、そこに君の仲間がいたらどうしようか。その子たちとも旅ができたらいいね」

 たくさんの『猫妖精(ケット・シー)』に囲まれながら旅をするのもいいなあ。きっと色々な子がいるんだろうなあ。黒にまだらにしましまにブチ。白黒も悪くないなあ。ふへへ。


 かぷ。

「あいたっ!」

 スノウが僕の耳たぶに穴を空けるのもそう遠い日ではないかもしれない。

お読みいただきありがとうございました。

よろしければ感想、ブックマーク、評価よろしくお願いいたします。


次回、第四話『ひなどりは拾われた』は10月14日午前0時頃に開始の予定です。

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