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迷宮と竜の牙 その7

 地下二〇階を過ぎたあたりから、物騒な姿をした魔物が増えてきた。角の生えた獅子だとか、剣や斧を持った悪魔がそこらじゅうに歩いている。

 なるべく遠巻きにしながら、さらに地下へと潜っていく。

 みんな強そうなのばかりだ。こいつらもブラックドラゴンに比べたら雑魚だというのだからもうおどろくしかない。


 本当に倒せるのかなあ。大見得切っちゃったけど、本当に倒せるという裏付けはない。

 いーや、やらなきゃダメだ。ここで僕がやらなきゃイアンは売られてしまい、カレンは悲しむ。

 しっかりしろ、リオ、お前がやらなくて誰がやるんだ。


 顔をびしゃんと叩いて、弱気の虫を追い払う。

 さあ、行くぞ。

 ブラックドラゴンは目の前だ。


 地下三十五階にたどり着いた。ギルドのおじさんによるとここが最下層、ブラックドラゴンのいる階だ。

 階段を降りきると細長い通路が続いている。『贈り物(トリビュート)』を使いながら慎重に歩いていく。いよいよブラックドラゴンとご対面か。

 緊張で心臓が爆発しそうだ。


 道は一本道になっていた。何回か角を曲がると奥に光が見えてきた。少しだけ速度を落としながら進むとやがて、大きな空洞に出た。

 ごつごつした岩に囲まれた洞窟は地下とは思えないほど広かった。小さなお城なら丸ごと入りそうなくらいだ。


 洞窟の隅には小山くらいの黒い大きなかたまりがうずくまっている。

 ブラックドラゴンだ。

 大きな体に、一枚一枚が盾のような黒い鱗、僕の体よりも幅広くとがった白い爪、腰からは城壁のように長い尻尾を垂らしている。


 ギルドのおじさんが話していた通り、いや、それよりもっともっと大きくて、存在感というものにあふれていた。まるで見えない壁がぐいぐい僕に向かってのしかかってきているみたいだ。

 僕の額から冷や汗が出る。のどがカラカラだ。そこで初めて僕の足が勝手に後ずさっていたことに気付いた。


 ブラックドラゴンは目を閉じて顔を地に伏せている。どうやら眠っているらしい。こいつが動き出したら、僕なんかひとたまりもないだろう。火なんか吐かなくったって一瞬でやられてしまう。裂けた口からは白い牙がのぞいている。

 そこで僕はくじけそうな気持ちを奮い立たせる。


 そうだ、おびえてたってしかたない。

 僕はあの牙をもらうために来たんだ。それにこいつを放っておいたら『迷宮(メイズ)』の影響がどんどん広がって、いずれはあの町も草木も生えない荒野になってしまう。

 恨みはないけれど、みんなのためだ。


 ブラックドラゴンは目をさますどころか身じろぎ一つしない。『贈り物(トリビュート)』が効いているのか、僕なんかに何もできないとたかをくくっているのかまではわからない。


 ブラックドラゴンの側まで来た。ちょうど横腹のあたりだ。遠くから見ても大きかったけど、間近で見ると巨大な黒い壁が立っているみたいだ。しかもこの壁は生きていて簡単に僕を押しつぶせる。

 僕は歯で右手の皮手袋を外し、素手を固い鱗へと近づける。


 どうかうまくいきますように。

 もしダメだったら全速力で逃げよう。

 恐る恐る手を伸ばし、手のひらでブラックドラゴンのおなかをぽんと叩いた。


 その瞬間。


 まるで地の底から響くような唸り声が上がった。僕はあわてて飛び下がる。ブラックドラゴンが身もだえしながら口からよだれを流し、暴れはじめた。どすんどすんと体を動かすたびに地響きが起こる。僕は倒れそうになるのをこらえるので精一杯だった。


 尻尾を壁に叩きつけ、黒い巨体をよじりながらあおむけになったりうつ伏せになったり、地面を転がりながら苦しみもがいている。長い首を二度揺するとのど元を何かがせりあがるのが見えた。僕は全速力でその場を離れると、地面にうつぶせに倒れ込む。ブラックドラゴンは一度息を吸い込むと、壁に火をはいた。熱風が僕の頭の上を通り過ぎる。髪の毛がちりちりする。一瞬洞穴の中が昼に変わったようなまぶしさに一瞬、目がくらむ。


 壁は溶けたりしないものの炎は生き物のように壁を伝って天井まで這い上がり、火の粉を洞穴に降らせた。

 僕の背中にも落ちてくる。あちち! まったくこいつは災害そのものだ。山火事と竜巻と地震と津波とカミナリと……ええと、とにかく全部だ!


 ブラックドラゴンの大暴れは続いている。苦しんではいるけれど、倒れる様子はない。

 まだダメか。

 僕は立ち上がり、巻き込まれないよう気を付けて近づく。少し待つと、黒いしっぽが地面を三度打ち付けた後で動きが止まる。


 いまだ。

 僕はダッシュで駆け出すとしっぽの付け根あたりをもう一度右手でぽんと叩いた。

 素早く後ろにジャンプすると同時に、雷鳴のような耳をつんざく悲鳴が洞穴にこだまする。

 ブラックドラゴンは全身を震わせながら天井に向かって首を伸ばした後、白目をむいてそのまま地に崩れ落ちる。


 そして二回瞬きをした後で目を閉じ、そのまま動かなくなった。

 僕は倒れたブラックドラゴンの体によじのぼり、胸のあたりに耳を当てる。心音も聞こえない。

 今度は顔の方に向かい、まぶたをこじあける。巨大な目玉はうつろで、生気というものはまるでなかった。


 ごめんよ。

 僕はブラックドラゴンの魂に祈りをささげる。

 どうやらドラゴンにも僕の『贈り物(トリビュート)』は効いてくれたようだ。


 僕の『贈り物(トリビュート)』は気づかれなくなるだけじゃない。こんな使い方もできる。

 この使い方に気付いたのは四年前のこと。『僕に気づかなくなる』とはどういうことか、と考えたのがきっかけだった。

 本を読んだりそれとなく副村長さんに聞いたりして、色々調べた結果、次の結論にたどり着いた。


 『贈り物(トリビュート)』は僕の考えたウソを信じ込ませ、その人のものの見方や感じ方を操る力を持っている。


 『僕に気づかなくなる』というのはその一つに過ぎない。

 僕は相手にさわると、『贈り物(トリビュート)』の力をその人に直接伝えることができることに気付いた。

 今のはブラックドラゴンに『五体がバラバラになった』というウソを事実だと思い込ませた。体がバラバラになったと思い込んだブラックドラゴンは、そのショックで心臓を止めてしまったのだ。


 簡単に言うと、僕はさわっただけで生き物を殺すことができる。


 あまりにおっかないので人間に試したことは一度もないけれど、その気になればどんな強い人でも触るだけで殺せるだろう。

 殺すだけじゃない。思い込ませるウソを変えれば体をしびれさせて動けなくしたり、僕と一緒に他人から見えなくすることもできる。


 実をいうとこの前、盗賊たちを退治したのもこの力だ。

 さわったりひっぱたいたりしながら「体が動かなくなる」というウソを盗賊たちの体に信じ込ませた。昨日のすりもそうだ。思い込んだだけで目の前の僕に気付かなくなったり、心臓を止めてしまうんだから思い込みというのは怖いものだ。


 こういうとまるで僕が無敵の殺し屋みたいだけど、ちゃんと欠点もある。

 まずこの力は気づかれなくなる方とは違って、直接相手の体にさわる必要がある。服や鎧の上からだと通じないし、僕自身も手袋をしていたら力は伝わらない。

 それに、この力が通じない相手もいる。


 幽霊やゾンビのようなアンデッド、スライムやゴーレムのような単純な魔物にはほとんど効かない。

 村にいた頃、色々試したことがある。色々な魔物にさっきと同様『五体がバラバラになった』というウソを思い込ませようとした。ゴブリンやオークは心臓を止めたけど、スライムは一瞬動きを止めたもののすぐに元に戻った。おかげで僕はあやうく右手をもっていかれるところだった。

 ゾンビも似たようなものだったし、幽霊にはそもそもさわれない。


 どうやら僕の力は頭が悪かったり、単純な生き物や魔物には通じにくいみたいだ。単純なものほどごまかすのは難しい。僕の姿を見えなくすることはできても、殺したり動きを止めるのはダメみたいだ。

 逆に言うと、ある程度の知性を持っている相手だとこの上なく効いてしまう。

 ブラックドラゴンのように人間以上の知性を持っている相手ならなおさらだ。


 気づかれなくなるのも、生き物を殺したり気絶させたりするのも同じ『贈り物(トリビュート)』の力だ。ややこしいので、気づかれなくなる方をそのまま『贈り物(トリビュート)』もしくは「かくれんぼ」、さわる方を「おにごっこ」と呼んで区別している。


 他人から見れば、僕はさわっただけでブラックドラゴンを倒してしまった奴、ということになる。やっぱり『贈り物(トリビュート)』のことは秘密にするしかない。

 もし知られたらみんな怖がって、僕と手をつないでくれる女の子はいなくなってしまう。


 おっとこうしてはいられない。早くここに来た目的を果たさないと。

 僕はブラックドラゴンの口の辺りに近付く。

 大きな口から泡を吹いている。口元には子どもの背丈くらいの牙が半開きになった口からこぼれている。


 ドラゴンの牙や鱗には、魔力を通せば通すほど硬くなる性質を持っているそうだ。そしてドラゴンの魔力は力も量も人間と比べ物にならないほど大きくて多い。だから牙はとても硬くて岩でも鋼でも噛み砕くし、鱗は剣も魔法も弾き返してしまう。


 けれどそれは生きている時の話だ。

 死んでしまえば魔力は止まり、硬さは元に戻る。

 そうでなくては牙の加工なんかできないだろう。


 手のひらで牙にさわってみる。確かに硬いけど、これなら何とかなりそうだ。

 僕は杖を立て掛けると剣の柄に手を掛け、一気に抜き放つ。

 振りぬいた剣に一瞬遅れて、白い牙が宙を舞い、地面に落っこちる。


 剣を鞘におさめ、牙を拾い上げる。重い。子どもを抱き上げているみたいだ。

 これで僕の目的は果たした。さて、残ったブラックドラゴンのなきがら(・・・・)はどうしようか。


 牙は一本だけじゃないし、鱗や爪も高値で取引されている。

 『迷宮(メイズ)』で死んだ魔物は、『迷宮(メイズ)』に吸収され、次の魔物を生み出す養分になる。

 このまま放っておけば『迷宮(メイズ)』に吸収されてしまうだろう。

 そう考えると、ちょっともったいない。


 僕はカバンを肩から外し、かぶせを開けてブラックドラゴンに近付ける。

 入ってくれよ、と考えているとブラックドラゴンの体が動き出した。すぽっと、カバンの中に頭が入っていく。ずるずると巣穴に飛び込む蛇みたいに飲み込まれていき、しっぽまで中に入った。

 僕はカバンを開けて『裏地(・・)』の中を見る。


 黒いかたまりがぎゅうぎゅうに詰まっている。けっこうぎりぎりだったな。

 こいつは僕が十二歳の誕生日の時に母さんからもらったものだ。母さんが作ってくれた、魔法のカバンだ。


 カバンにはものを入れるところが二つある。いつも使っている収納口と、ものすごく大きな袋につながっている入り口だ。袋の中はものすごく広くって、たくさん物が入る。おまけに重さも感じない。僕はそこを『裏地』と呼んでいる。


 『裏地』には、今みたいにものすごく大きなものを入れることだってできる。とても便利なんだけど、生きているものは入れられない。あと、『裏地』にものを出し入れできるのは僕と母さんだけだ。カバンに魔法をかける時に僕と母さんの髪の毛と血を混ぜているから、らしい。


 魔法のカバンはとても珍しいものだからあんまりカバンを見せびらかしちゃいけない、と母さんに言われたっけ。

 ついでにさっき切り取った牙も入れておく。


 用事も済んだし、戻ろうかと思った時、奥の壁にに大きな穴が空いているのに気付いた。さっきまでブラックドラゴンが横たわっていたから見えなかったみたいだ。どうやら通路になっているらしい。ここまで来たんだ。ついでだから見ていこう。


 穴の中に入ると道はななめに傾き、ぐるぐる回りながら更に下の階へと続いている。ここが最下層のはずなのにまだ奥があるなんて。一本道なので迷う心配はなさそうだ。ぐんぐん穴の中を進む。

 結構歩いたけど、まだ終点には着かない。地の底まで続いているんじゃないかとうんざりし始めた時、光が見えた。


 おかしな部屋だった。広さは二階建てのお家くらいだろう。天井も壁も床も真っ白。まるでガラスみたいにつるつるしている。さわってみるとちょっと温かい。硬いのかと思っていたら、綿みたいに柔らかかったり、沼のようにどろどろしているところもある。そのくせ水とは違い、手に付くこともない。一番おかしなことに、部屋の真ん中に子どもの頭くらいの水晶玉が浮いている。赤くなったり青くなったり黄色くなったり緑色になったり、一瞬ごとに色を変えながら輝いている。


 なんだろう、これ?

 なんとはなしに手を伸ばしてみると、水晶玉の輝きが変わった。点滅が激しくなる。まるで危険を告げているようだ。

 びっくりして後ずさると、光り方は元に戻った。

 どうやら人が近づくと光り方が変わるらしい。


「もしかして、これが『迷宮核(メイズ・コア)』ってやつかな」

 だとしたら、これを壊すか取ってしまうかすればいいはずだ。

 壊すのは簡単そうだけど、珍しいもののようだしどうせなら持って帰りたい。

 今度は『贈り物(トリビュート)』を使いながら近づいてみる。


 今度は輝きが変わらなかった。

 よし、うまくいきそうだ。

 僕は忍び足で近付くと両手を伸ばし、ぱっと水晶玉をつかみ取る。

 その瞬間、部屋の明かりが消えた。ほのかに輝いていた天井や壁から光が消えて部屋の中が真っ暗になる。


「え、なに、どうなっているの?」

 もちろん、僕の問いかけに返事をする人はいない。奇妙なほどに静まり返っている。

 なんだろう、これ。さっきまで感じていた『迷宮(メイズ)』独特の雰囲気がきれいさっぱり消えている。

 ただの洞窟だ。


 もしかして、これで『迷宮(メイズ)』を攻略したことになるのかな?

 僕の手の中では水晶玉はまだ輝きを放ち続けている。おかげで暗闇に取り残されることはないけれど、ちょっとまぶしすぎる。

 僕はカバンからランタンを取り出し火をつける。代わりに水晶玉を麻袋の中に入れてからカバンにしまう。

 このまま真っ暗なところにいるのもこわいので僕は上に戻ることにした。


 ブラックドラゴンのいた洞穴まで戻ってきた。壁や天井の明かりが弱まって今までよりも薄暗い。まるで黄昏時だ。

 更に地上までの帰り道を進むと奇妙なことに気付いた。さっきまであちこちをうろつき回っていた魔物の姿が消えている。一匹も見当たらない。途中で魔物がいっぱいだった部屋も覗いてみたけど、影も形もなかった。


「ダメだ、あっちの部屋のも消えていた。どうなっているんだよ、これ」

「どうやら間違いなさそうだな……『迷宮(メイズ)』が倒されたんだ」

 途中でトレヴァーさんたちのパーティを見かけた。いきなり暗くなるわ魔物はいなくなるわでびっくりしているみたいだ。ほかの人も目をぱちぱちさせて、何が起こったのかわからずに弱っているみたいだった。


 ケネスがふてくされたように地面に座り込んだ。

「ふざけんなよ。一体誰がやったってんだよ。ここの『迷宮(メイズ)』攻略は俺たちが一番先を進んでいたはずだ。そんな強い冒険者が来たなんて話は聞いてねえぞ」

「だが、この状況を考えれば結論は一つしかないだろう。誰かが『迷宮(メイズ)』を攻略したんだ」


「ちっくしょう……こんなのありかよ」

 ケネスががっくりとうなだれる。かなり落ち込んでいるみたいだ。

 うーん、『迷宮(メイズ)』が攻略されたのにあんまりうれしそうじゃないなあ。

 『迷宮(メイズ)』が消えれば、大地のエネルギーも少しずつ回復して地上の荒野もまた緑の大地に戻るはずなのに。


 あ、そうか。冒険者だもんね。やっぱり自分たちの手でブラックドラゴンを倒したかったんだろうな。

 ケネスのことだから『攻略者(キャプチャー)』の名誉が欲しかったのかも。

 トレヴァーさんたちだけじゃない。途中で何人かの冒険者も見かけたけど喜ぶより、困ったり落ち込んでいる風だった。 


 みんながんばって『迷宮(メイズ)』を攻略しようとしていたのに、僕が横からかっさらってしまったんだ。しかも人には言えない方法でだ。

 イアンを助けるために仕方なかったとはいえ、落ち込む姿を見ると、なんだか悪いことした気がする。ブラックドラゴンを倒して浮かれていた気持ちもすっかり冷めてしまった。

 なんだか申し訳なくなって、僕は地上への道を駆け足で引き返した。


 外に出ると突き刺すような光が目に飛び込んできた。手をかざしながら空を見ると、太陽はすっかり反対側の空に傾いていた。

 どうやら半日も地下に潜っていたらしい。魔物とほとんど戦っていないのに、これだけかかるということは冒険者のみんなは数日がかりなんだろう。


 衛兵さんはまだ『迷宮(メイズ)』の入り口にいた。戻ってきた人たちに地下の様子を聞いたり、反対に冒険者から何か知らないか、と質問されたりと忙しそうだ。もちろん、『贈り物(トリビュート)』を使っている僕に気付くことはない。

 さて、急がないと。早くしないと日が暮れてしまう。


 何とか今日中にはイアンを取り返したい。

 牢屋で寝泊まりなんて一日でも短い方がいいだろう。

 それに、イアンを連れて帰れば、カレンも喜ぶに違いない。


 ダドフィールドの町に戻る頃には夜になっていた。町の門はもう閉まっていたけれど、門の横に衛兵の詰所があって、そこからも町の中に入れるようになっている。ちょっとずるいけれど、『贈り物(トリビュート)』を使ってそこから入らせてもらった。


 町の中に入っても、空には雲が月や星を覆っていて足元も暗い。『迷宮(メイズ)』の中の方がまだ明るいくらいだ。まさか街中でランタンを付けることになるとは思わなかった。行先はもちろん、ヘイルウッドの商会だ。場所は昨日、ギルドのおじさんから聞いてある。


 ヘイルウッドの商会は大通りに面した石造りの二階建ての建物だ。冒険者ギルドが奥行きのある縦長なのに比べて、真四角って感じだった。もうちょっと背を低くしたらサイコロみたいなのに。

 もうお店は閉まっているみたいだけど、場合が場合だ。朝まで待ってなんかいられない。通用口らしき小さな木戸をノックする。


 五回くらいノックを繰り返したところでようやく戸が開いた。

 小間使いらしき十歳くらいの男の子がまぶたをこすりながら顔をのぞかせる。

「ヘイルウッドさんに取り次いでもらえるかな。僕はリオ、旅の者だ。怪しいものなんかじゃないからね」


 なるべく優しい口調で話しかける。店主のヘイルウッドは気に入らなくても、礼儀は大事だ。

 それに何も知らない子供をどやしつけるなんてオトナのすることじゃない。

「イアンの件で来た。ブラックドラゴンの牙を持ってきたと伝えてくれるかな」


お読みいただきありがとうございました。

ブックマーク、評価よろしくお願いいたします。

次回は23日土曜日午前0時の予定です。

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