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王子様、あらわる その11

二回連続投稿の二回目です。

「昨日、僕は町で二人の男に後を付けられました。一人はあなたの家来の黒服さん。もう一人はネズミさんです」

「ネズミ?」

「僕がつけたあだ名です。名前を知らないので。そのネズミさんがですね、さっきわかったんですけど、盗賊の仲間だったんです」


 一緒にいただけでなく、馬に乗って僕におそいかかって来たのだ。仲間と考えて間違いないだろう。

「ここで問題は、どうしてネズミさんが僕の後をつけていたのか、です。その時、僕は盗賊となんの関係もなかった。もちろん、この町に来る前もです。ネズミさんが後を付け始めたのは黒服さんとほぼ同時です。なら理由はともかく、きっかけも黒服さんと同じではないでしょうか」


 つまり、僕が伯爵の馬車の前に現れたことが、ネズミさんが後を付けるきっかけになったのだ。どうやら僕が現れたのは伯爵だけでなく、ほかの人にとってもびっくりする出来事だったらしい。伯爵も苦い顔をするわけだ。


「じゃあ、ネズミさんはどこで僕と伯爵と出会っているのを見たのか? あの時ネズミさんらしき人は周りにいませんでした。だとしたら、あの時僕たちの周りにいた人から命令されたというのはどうでしょうか」


 ネズミさんは盗賊の仲間だ。昨日は僕の後をつけ、今日はミルをさらうよう誰かから命令されていた。昨日の今日で主人が変わるとは考えにくい。

「つまり、その時ネズミさんに命令した人が、今回の誘拐を命令した人でもある。僕はそう踏んでいます」

「一体誰だ?」


 伯爵の声に知りたがっている気持ちが混ざる。興味を持ってくれてよかった。僕も話すかいがあるというものだ。

「名前は知りません。でも誰かはわかります」

 おどろいて馬から落っこちなければいいけど。

「実は僕、昨日の晩にネズミさんをもう一度見かけているんです」

 ミルヴィナ姫と一緒だったことは言わない方が良さそうだ。僕にだってそのくらいの分別はある。


「その時、僕はちょいと宿の二階から飛び降りましてね。ええ、一回だけですよ。そんな顔しないでください。その場の雰囲気というやつです。ところがですね、その後、その場にいなかったはずの人から言われたんです。『なんという小僧だ、本当に山猿のようではないか?』ってね、おかしいとは思いませんか?」

 僕は小僧なんかじゃなくてオトナだというのに。


「どこがおかしい?」

「『本当に山猿みたいだ』って言葉は、その前に誰かから僕のことを『山猿みたいだ』と聞いてないと出て来ません」

 僕が飛び降りた時、近くにいたのはミルと護衛のバクストンさんたち、そしてネズミさんだ。

 ミルたちは今朝から、伯爵にもいとこさんにも会っていない。つまり、僕のことをしゃべる機会もないわけだ。


「ネズミさんは僕を物陰から覗いていました。つまり、その人はネズミさんから僕のことを聞いたんでしょう」

 僕が飛び降りたのを『山猿みたい』と思ったネズミさんが、そういう表現を使って報告した。だからテラスから飛び降りた僕の姿を見て『本当に』なんて言ったんだろう。


 伯爵はまだ誰か思い当たらないらしい。まあ、そんなものだよね。

 悪口は言った方は忘れても言われた方はよく覚えているものだ。

 僕は言われた方だから覚えている。

「それを言ったのはですね、伯爵のいとこさんです」


「バカバカしい」

 伯爵が下らない、とばかりに切って捨てる。

「ええ、お気持ちはわかります。ご自分のいとこがこんな恐ろしい企てに加わっていたなんて信じられないと思います」


 けれど、いとこさんはあの時伯爵と一緒に馬車の中にいた。その後でネズミさんにも命令できる。

「理由は何だ。それに、なぜナディムがお前の後を付けさせねばならぬ」

 ナディムというのがいとこさんの名前らしい。


「それは伯爵の方がお詳しいと思いますが、そうですね……今回の結婚に反対している人たちから頼まれたとか。お姫様がさらわれて、今回の婚約がつぶれれば伯爵も責任を取らされることになりますよね。伯爵をやめさせられるか、もしかしたら領地を取り上げられるかもしれない。その後でいとこさんが領地の一部、あるいは全部を自分のものに出来るという約束を反対派の人たちとしていたとか。あなたには後を継ぐお子さんもいらっしゃいませんし。そう考えれば、ネズミさんに命令した理由も同じなんじゃないですか? きっと伯爵の弱みをつかみたかったんですよ」


 馬車での伯爵の態度を怪しいと感じたいとこさんことナディムは、ネズミさんに僕の後を付けさせた。仮に僕が本物なら、伯爵はろくに調べもせずこの国の王子を追い払ったことになる。それが王様に知られたら伯爵の立場も悪くなるだろう。下手すれば王家への反逆と見なされるかもしれない。ナディムはそれを確かめたかったんだ。ネズミさんは一度は見失ったものの夜になって僕を見つけ、ナディムに報告した。そんなところだろう。


 もしかしたらナディムの方でも僕を誘拐する計画を立てていたのかもしれない。僕の身柄をおさえれば伯爵の弱みを捕まえられると考えていたのかも。

「貴様の言うことは全て妄想だ。何の証拠もない」

「そうですね、証拠はありません」


 今まで言ってきたことは全部僕の想像だ。凶器の刃物だとか、誘拐するよう指示した書状だとか、形のあるものは何もない。

「でも盗賊たちがいます。彼らが話せばはっきりすると思います」

「しゃべらなかったらどうする? しゃべっても貴様の想像とは違う事実かもしれないぞ」

「それは今からはっきりすることでしょう。それに証拠は見つかったようですよ、ほら」


 僕が指差した先には、いとこさんが黒服さんに取り押さえられているのが見えた。

「あれは……?」

「僕が黒服さんにお願いしておいたんです」

 黒幕がいやがるのは盗賊たちが全部しゃべることだ。悪い人ってのはそういう都合の悪い人を殺すか逃がすか、するものだ。


 けど、みんなの見ている前でまさか二十八人も一度には殺せないし逃がせない。もし誰か一人だけ選ぶとしたら親分か、実際に会っていたであろうネズミさんだ。その二人はもう僕が縛ってある。たとえ剣術に自信がなくても、殺すのは簡単だろう。


「ネズミさんたちを見張っててくれるよう頼んでおいたんです。もし、殺そうとする人がいたらその人が黒幕か、その仲間だから取り押さえてくれと」

 どうやらいとこさんは短剣を使って刺そうとしたらしい。これは何かの間違いだとか、無礼者とか必死に叫んでいるみたいだ。


 僕は伯爵に向き直り、せいいっぱいの笑顔を作って微笑みかける。

「いかがでしょうか? だいたい、こんなところです」

 伯爵はくやしそうな顔をする。一体何が気に入らないんだろう。


「それでどうでしょう、報酬はいただけますか? あと、ついでにそちらから持ち出した眠り薬の代金もチャラにしていただけると助かります。あ、馬はご存知でしょうけど、今は殿下が乗っていますから」

 もう一度短剣を差し出す。伯爵はまだ迷っているようだ。


「お願いします。ではないと僕は、ウィルフレッド殿下の前で同じ話をしないといけなくなります。あと、あなたといとこさんがあの館でしてた話なんかも色々と」

 それで伯爵は折れた。王家の紋章入りの短剣をひったくると、忌々しそうに短剣を懐にしまい込んだ。

 僕はにっこりとほほ笑んだ。伯爵は唇をかみしめる。


「ところで、伯爵は僕の母さんと何かあったんですか?」

 伯爵は母さんのことをあまり快く思ってない風だった。母さんのことだから何かやらかしてしまったのかも。

 僕に対する敵意というか不快感のようなものもそれが原因なのだろうか。

「……何もない」

 伯爵は顔をそむけてそれっきり黙ってしまった。これ以上聞いても話してはくれなさそうだ。


「そうですか。それでは僕はこれで。もう二度とお会いすることはないと思いますが、どうかお元気で」

 伯爵にぺこりと頭を下げ、背を向ける。この町に来た目的も果たすことができた上に、殿下のお顔も見ることができた。

 また牢屋に閉じ込められるのもゴメンだし、長居は無用だ。

「待て、どこへ行くつもりだ!」

 待つもんか。

「僕を閉じ込める貴族のいないところです」


 僕はそのまま道を歩き、曲がり角のところで僕は姿を消した。

 曲がり角の先は下り坂になっている。転ばないようゆっくり歩いていると後ろから馬に乗った騎士たちが僕の横を駆け抜けていった。

 伯爵の命令かな。


「戻れ、殿下のご命令だぞ」

「リオ、どこだ!」

 騎士たちが僕を呼んでいる。ウィルフレッド殿下の声もした。ミルがいたら僕の名前を呼んでくれただろうか。名残惜しいけれど、これ以上関わると僕の素性がわかってしまうかもしれないし、伯爵もいい顔はしないだろう。町にも戻れないからこのまま、次の町に向かうつもりだ。


 徒労に終わる僕探しを申し訳なく思いつつ、山道を下る。

 もう完全に日も沈み、星空が広がっている。

 今日は野宿になりそうだ。 

 満天の星と白い月が照らす夜道を僕は独り、次の街へと歩き続けた。


   第一話 王子様、あらわる 了

お読みいただきありがとうございました。


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よろしくお願いします。


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