王子様、あらわる その10
今回は二回続けて投稿です。
空はすっかり暗くなり、太陽も山の向こうへ消えようとしていた。
洞窟から持ち出したロープで親分さんとネズミさんを縛り上げ、次の人にいこうとした時、たくさんの馬が近付いてくる音がした。
もしかしてまた盗賊かとうんざりしたけど、馬に乗っていたのはたくさんの騎士と、伯爵にいとこさん、そしてウィルフレッド殿下だった。
「リオ、無事か!」
「やあ、殿下こっちです」
僕が手を振ると、殿下は僕の数歩手前で馬から降りた。どすどす、って足音の聞こえそうな足取りで寄ってきて、僕の服をつかみあげた。
「貴様、どういうつもりだ。一人で残るなどムチャをしおって。命をムダにするつもりか」
「いえ、その……」
「貴様にも家族か身を案じる者がいるのだろう。ならばその者らのためにも命を粗末にするな。わかったか」
いい奴だなあ。心配されるなんて村を出て以来だからちょっとうれしい。
「なにをへらへら笑っている」
「いえその……そうだ、姫はどこに」
「私の手のものが伯爵の屋敷に送り届けている。心配はいらぬ」
「そうですか、それはよかった」
僕たちの周りでは、騎士たちが倒れている盗賊を見て驚いている。
「これは一体……」
「信じられない、みんな気絶しているのか」
殿下も足元で気を失っている盗賊たちに目を丸くする。
「これをお前一人でやったのか?」
「みんなきっと疲れていたんですよ。伯爵ともやりあったそうですし」
馬上の伯爵が苦りきった顔をする。僕はフォローしたつもりなんだけどなあ。
「さあ、それより盗賊たちをふん縛るのを手伝っていただけませんか。彼らはまだ生きています。取り調べれば、こいつらが誰に頼まれてこんなマネをしたのかすぐにわかるはずです」
僕の言葉にはっと騎士たちが動き出す。盗賊たちをロープでぐるぐる巻きにしていく。
「よし、私も手伝おう」
「わ、わたしも……」
殿下といとこさんが後に続く。
伯爵の顔がますます渋い顔をする。
「殿下、王子とあろうお方がそのようなマネを……」
「いいから貴公も手伝え伯爵。姫に無礼を働いたこやつらの口、絶対に割らせてやらぬとな」
ちょっと興奮しているようだ。張り切っているなあ、殿下。
さて、僕もがんばらないと。
縛り上げるのを手伝いながらふと周りを見ると、騎士たちに混じって黒服さんの姿を見かけた。
ちょうどいい、あの人にしよう。
「やあ、ちょっといいですか」
黒服さんは僕の顔を見るとバツの悪そうな顔をした。誘拐した人から気安く話しかけられるとは信じられないのかな。殴られると思っているのかも。
「いえ、お気になさらず。僕も気にしていませんので。それよりちょっと頼みたいことがあるんです」
と黒服さんに耳打ちをする。
「どういうことだ?」
「お願いします。これは伯爵のためにもなることなんです。うまくいけば伯爵もあなたを見直すかもしれない」
黒服さんは半信半疑という顔だったが、伯爵も見直すという言葉が効いたのか、黙って言うとおりにしてくれるようだ。
「なあ、リオ。貴様、私に仕えろ。貴様なら騎士になるのも夢ではないぞ」
「いえ、僕はその、騎士になるような身分ではありませんので」
殿下の申し出をやんわりお断りすると、僕は用件を果たすことにした。
「伯爵、ちょっとよろしいですか?」
他聞をはばかる話なので僕と伯爵はみんなから少し離れた場所に移動する。伯爵は馬に乗ったまま憎らしそうに僕を見下ろしている。
「何の用だ」
「一つお聞きしたいのですが、伯爵にはご家族はいらっしゃいますか?」
「なぜそんなことを聞く!」
伯爵の顔が険しくなる。ものすごく怒っているみたいだ。
「いえ、ちょっと気になったもので。あの、それで……」
「……子はいない。妻が一人だけだ。それがどうした」
奥さんって普通一人だけなんじゃないかなあ、と思ったけど貴族はたくさんお嫁さんを貰うこともあると聞いたことがある。むしろ伯爵の方が珍しいのかもしれない。
「そう怖い顔をしないでください。僕はただ報酬というものをいただきたいだけです」
「報酬だと?」
「ええ、村を出る時に村長さんに言われたんです。「ただ働きはするな」と」
僕は盗賊たちに捕まっていたお姫様をお助けして、盗賊たちも全て倒した。これはきっと報酬に値する活躍だろう。
「……金ならくれてやる。いくら欲しい?」
「お金じゃあありません」
僕はカバンから例の短剣を取り出し、伯爵に差し出す。
「これを受け取って、僕のことをきれいさっぱり忘れてほしいんです」
伯爵の眉がぴくりと跳ねる。
「僕にはこんなものはいりません。地位も名誉もお金も不要なものです。あなたも僕がこれを持って王宮に行くと困ったことになるんでしょう? だったら僕たちの利害は同じのはずです」
伯爵は黙ったままだ。何を迷っているのだろう。
「ウソは言いません。僕には何のたくらみもありませんし、黒幕って人もいません。今回の件と違ってね」
「何だと?」
「今から僕は独りごとを言います。お聞き苦しいところもあると思いますが、とりあえず最後まで聞いてください。これを聞いたらあなたもこいつを受け取りたくなると思いますよ」
やれやれ、長話の始まりだ。
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