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彦根アンダーグラウンド

作者: 重荷 耐子

 さて、お前が何も成し遂げられなかったからといって、私がお前をどうにかする気はさらさらないんだよ。だから、帰っておいで。前みたいに、気さくな笑顔を見せてごらんよ。確かに、藤川はエマージェンシーボタンを押した。それは紛れもない事実さ。呪われていたからね彼は。そして、それはサヨナラを意味していた。もうこれ以上は何にもないってね。私は悲しくなんかなかった。藤川と出会った時から、あいつの薄ら笑う感じが気に食わなかったし、それからもずっと迷惑をかけられっぱなしだったしね。

今生のくされ縁で付き合ってただけに過ぎないんだ。

 お前は、あいつと初めて出会った時のことを覚えているかい?私もお前も、田舎を出たのは初めてで高揚してたな。一瞬一瞬が何か意味のあるようなことのように思えて、くだらない話で馬鹿みたいに笑っていた。その時、私たちが乗っていた電車の席の斜め前の窓際の席に座ってたのが藤川さ。ウディ・アレンみたいな黒縁のメガネをかけて彦根の景色を見ながら薄ら笑っていた奴だ。奴はくだらない顔を窓ガラスに擦り付けてニンマリしていたし、少年のような雰囲気もあった。

駅では私たちと藤川しか降りなかった。まだ、昼を過ぎたばかりでクソみたいに暑かったな。私たちは藤川に気付いていたし、この先も一緒になるだろうとわかっていたけど話をかける気にはなれなかったな。こんなクソ暑いのに、馬鹿みたいにニヤニヤしやがって!と私は思っていたよ。でも、次の乗り換え電車が来るまで1時間程あって、とうとうあいつの方から話かけてきたな。もしかして、君たちも〇〇かい?ってね。だから、私たちもニヤニヤしながら、やぁー君も〇〇かい?って言ったな。本当に馬鹿みたいだった。


それから施設に着いた時、もう講習は始まっていて忍び足で教室に入った。この時点で勘の良かった私たちはえ!?ってなったんだ。教室に充満するスメル。教壇に立つ紳士と受講する我々のコントラストに違和感を感じた。そう、私たちは路頭に迷っていたんだ。それから自己紹介があって、受講者には、何故か旦那が金髪の老夫婦、何故か怒っている元パン屋のdqn、買い物依存症の女、ベッドメイカー、ズボンがシミだらけの青年、ニヤニヤする藤川、など、有象無象のクズどもがいた。もちろん、私たちも例外ではない。


やらかしたんだよ私たちは。だから、帰っておいで。行き過ぎたんだから、戻ってくれば良い。お前はまだそこにいるのかい?




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