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舌の槍使い

「大健闘しているようだな」


 村の北口にたどり着いたフエルテが独語した。

 村は東西南北に入り口が分かれている。それぞれ別の村へ繋ぐ街道だ。普段は騎士が二人待機している。一日に三人交代しており、隊長と控えも含めて三十名の騎士がいた。どれも真っ赤に染めた全身甲冑に身をまとっており、槍だの、剣だの、クロスボウなどを装備している。


 現在、騎士が四名戦っていた。相手はビッグヘッドのスマイリーだ。全部で三体いる。どれも同じ顔つきはいない。共通しているのは歯をむき出しにして笑い、視線が定まっていないのが不気味であった。

 同じ人の顔なのだが、何分、頭だけに手足が生えた存在だ。同じ人間と似通っているだけに気味悪さを感じるのである。だからこそ恐怖を抱くのだろう。


「たぁーーー!!」


 騎士の一人が剣を振り上げる。スマイリーはニヤ笑いを浮かべながらイノブタの如く駆けてきた。手をぶらぶら震わせながら、舌をべろべろ垂らしながら迫る姿は恐ろしい。

 だが騎士たちは正規の訓練を受け、様々な実戦経験を積んでいた。例えばがけ崩れで承認の荷馬車がつぶれていたら、上官が「片付けろ」と命じられたら一心不乱で作業に没頭する。崖が再び崩れかけようとも関係ない。やめろと命じられるまで片づけはやめないのだ。


 騎士たちはスマイリーの突進をひらりと躱すと、頭部に剣を振り下ろす。ビッグヘッドはその構造上、脳の部分にすべての内臓が詰まっている。そこを狙えば一発だ。

 スマイリーの頭部に重い鉄の剣がめり込む。その瞬間、スマイリーは目をぎょろぎょろ動かし、舌をべちゃべちゃと蠢いた後、ばったりと倒れた。


 そして舌を天高く伸ばすと、舌にぽつぽつと緑色の疱疹みたいなものが浮き上がる。木の芽だ。

 大の字に伸ばした手足は根となり、地面を張る。そしてあっという間に木に変化してしまったのだ。

 それに触発されたのか、他の騎士三名もスマイリーに立ち向かう。騎士の一人がとびかかるスマイリーに噛まれそうになった。だが槍を横にして防いでいる。その後ろを別の騎士が頭を突き刺した。残るは一体だけである。


「ひやぁぁぁ!!」


 後ろから悲鳴が上がった。残りの騎士が大地に寝転んでしまい、スマイリーに足を掴まれたのである。スマイリーはにやりと笑うと、口を大きく開いて、ばりばりと騎士の拗ね当てと鉄靴をかじり始めたのだ。

 アモルはそれを見て、目を手で覆った。だがフエルテは違和感を覚える。騎士は足をかじられているのに恐怖の雄叫びをあげないのだ。


 ところがスマイリーが苦しみだした。はてな、なんであろうと思いきや、スマイリーの口が燃えているのである。スマイリーの口は焔に包まれ、苦しんでいた。足をかじられた騎士は拗ね当てを外す。なんと、そこにはかじられたはずの足首がぴんぴんとついているではないか。ではスマイリーは何を食べたのだろうか。


「あれは油入りの義足です。スマイリー対策の秘密兵器です」


 フエルテとアモルの後ろから声がかかった。それは赤い全身甲冑に、白い鶏冠の飾りを付けた兜をかぶっている。さらに白いマントを覆っていた。村に出会った隊長である。


「足首の部分に油が詰まっており、スマイリーの歯で発火する仕組みになっています。あいつらは樹の化け物。教団が製造したものですね」


 隊長は自慢げに答えた。なるほど人間はスマイリーにただ黙って喰われる無力な存在ではなかったのだ。

 スマイリーは口を燃やされ、苦しそうに地面をゴロゴロ転がっていた。そして同じように木になった。ただ火で焦げているので、先ほどのスマイリーとは違い、小さめである。


「さすがフエゴ教団の騎士だ。練度が高い」

「本当にさすがです。ビッグヘッドなど物ともしないね」


 フエルテとアモルは感心していた。自分たちの出る幕はなかった。


「なんだ、なんだ!! オイラの出番はないのかよ!!」


 後ろから怒鳴り声が聞こえる。振り向くとひと際大きな騎士が立っていた。それは虎だった。耳の位置は人間と同じだ。他の騎士と違い、防具は赤色の胸当てだけである。はち切れる肉体で全身鎧は邪魔でしかないのだろう。両手で丸太の如く太い槍を握っている。


「オイラはティグレ!! 不死身の騎士だ!! オイラの出番を奪うなんてひどいじゃないか!!」


 ティグレという亜人は激高した。手柄にこだわっており、まだ若い証拠である。隊長はすぐに事後処理をするよう命じた。

 茂みの中からまたビッグヘッドが現れたのである。それも三体。すべて歯をむき出しにして笑っていた。

ティグレは手柄が立てられると満身の笑みを浮かべた。


 ティグレが槍を持って突進する。隊長はやれやれと首を振り、残った騎士たちに指示をした。フエルテは一目見てティグレの実力がわかる。彼は見た目通りの虎だ。言動は幼稚だが、それでも虎には変わりはない。スマイリー程度では敵ではないだろう。


「ティグレいきます!!」


 掛け声とともにティグレはスマイリー目がけて槍を突き刺そうとした。その時、どこからともなくピーっと音が鳴った。口笛のようだがやたらと高音である。


「オイラは不死身だ!!」


 その瞬間、スマイリーは笑うのをやめた。蛇のように舌をぺろぺろと動かす。そして口をつぼめると同時に、舌を槍のように突き刺したのだ。


「ぎゃー!!」


 ティグレの胸にビッグヘッドの舌が貫通した。背中かられろれろと動く舌が不気味である。そして舌は引き抜かれ、ティグレは前のめりに倒れた。

 それを見た騎士たちは驚いた。スマイリーがいきなり舌を武器にしたのだ。驚かないほうが無理である。その中で隊長だけが冷静であった。


「舌を槍のように扱うビッグヘッド……、舌の槍使い《タング・ランサー》か!!」


 タング・ランサー!! 何とも言いえて妙な名称であろうか。他のスマイリーはすでにタング・ランサーへと変貌している。ビッグヘッドが戦い方を変えるなど初めてだ。


「司祭様、あれはタング・ランサーです。数年前に他の村で発見された亜種です。まさかこの村に出る

とは思いもよりませんでした」


 亜種。基本的にビッグヘッドはスマイリーが多い。笑いながら人間を足から食べる様はまさに悪魔だ。たまに亜種が登場するのである。舌を槍やこん棒のように扱うものから、歯や髪の毛を飛ばすものなど様々だ。

 だがそういった亜種が登場するのはまれである。時期や場所がまるででたらめなのだ。教団も調査はしているが実態をつかめないのが現状である。

 騎士たちは無残に倒された同僚に目もくれず、タング・ランサーに集中することにした。


「まて。ここは俺がやる」


 フエルテが前に立つ。そして後ろに背を向け、力こぶを作る。バック・ダブル・バイセップスのポーズだ。


「マッスル・タイフーン!!」


 掛け声とともにフエルテの後ろが歪む。そしてつんざく音と共に、タング・ランサーたちは三体とも横に切り裂かれたのだ。

 騎士たちが歓声を上げる。アモルは当然だと言わんばかりで鼻を鳴らした。

 三体のタング・ランサーが木に変化したと同時にまた口笛が聴こえたのだ。

 そしてまた茂みの中からビッグヘッドが三体現れたのである。


 この状況をアモルは怪しんだ。

 アモルはすぐに辺りを見回す。先ほどの口笛らしき音はどこか? それはすぐに見つかった。

 それは村の中にいた。正確には屋根の上に立っていたのだ。

 ビッグヘッドであった。他のビッグヘッドより色が白く、真っ赤な鶏冠が印象的である。そして目つきだ。こいつはアモルに視線を合わせている。そして唇でにやりと笑ったのだ。


「フエルテ!! あそこにいるビッグヘッド、赤い鶏冠だからレッド・クレストと名付けましょう。あいつを倒して!! あいつはバンブークラス、プラムクラスを操る指揮官です!!」


 アモルは屋根の上に立つレッド・クレストを指さした。フエルテはすぐにその場を離れる。アモルの言ったバンブークラスは優先的に倒さなければならないのだ。

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