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望まれない再会


 村の教会にフエルテとアモルはたどり着いた。建物は火山灰を混ぜて作った真っ白いコンクリート造りで、三角屋根の三階建ての教会である。てっぺんには鐘が備え付けられていた。屋根の上には何やら不思議な光沢を放つパネルが備え付けられている。扉の上にはフエゴ神を象る炎の紋章が飾られていた。


 その隣には赤いレンガで造られた二階建ての建物がある。これは学校で村の子供たちを集めて勉強を教えているのだ。外にはブランコだの、シーソーだの、鉄棒だの、砂場だのの遊具があった。

 二人は教会の中に入った。中は広々とした礼拝堂である。五人ほど座れる長椅子が二十ほど置いてあった。礼拝堂の奥には一体の石膏像が立てられている。全裸の男で髪型が炎で象られていた。フエゴ神の像である。


「おお、アモル様でございますな。ようこそいらっしゃいました」


 そこには一人の男が立っていた。それは五十代ほどの中年男性で、茶色の鬘に丸メガネ、ワシ鼻に出っ歯の顔つきだ。この村の教会の司祭だ。名はオルディナリオという。


 オルディナリオはアモルと握手をした。オルディナリオは前任のシンセロと交代した司祭である。アモルとは昔から知っている仲であった。当然フエルテとも顔見知りである。


「フエルテもひさしぶりです。少し見ない間にずいぶんたくましくなったものだ。これもシンセロ様の教育の賜物ですね」


 フエルテは頭をぽりぽりと掻いた。


「はい。ですがオルディナリオ様が俺……、私を覚えていたのは意外でした」

「覚えているさ。司祭というのは人を知らなければできない仕事だ。アモル様も十八歳の身で司祭になれたのもそれだな。親の七光りで昇進できるほど、フエゴ教団は甘くはないのだよ」


 オルディナリオは真剣な目でフエルテに言った。


「さてお二人とも、奥の部屋でどうぞ。まずはお茶を馳走しましょう。先客も待たせてありますからね」


 そう言ってオルディナリオは二人を奥の部屋へ案内した。部屋は応接間でソファーとテーブルが用意されている。テーブルの上には陶磁器のカップが置かれていた。皿にはクッキーなどのお茶菓子も置いてある。

ソファーには一人の老人が座っていた。アモルはぺこりと頭を下げて挨拶する。フエルテもつられて頭を下げるが、その顔を見て驚愕した。


「おお、フエルテか。ひさしぶりだな」


 それはこの村の長老であった。フエルテはこわばった。かつてフエルテを村八分にしたのはこの老人である。


「はい、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」


 フエルテの丁寧な挨拶に長老は意外そうな顔になる。


「なるほど。氏より育ちというわけだな。人と熊の間に生まれても躾け次第で従順になると見える」


 長老の失礼な物言いに、アモルはむっとなった。


「お言葉ですが、亜人は私たちと同じ人間です。あなたの発言は差別そのものです。フエルテに謝罪してください」

「よせ。俺は慣れている」


 噛みつくアモルをフエルテがなだめた。


「その通りだな。フエゴ教団にすべてを教えてもらったから、知っている。だが世の中は謎が解けても長年染みついた思考はなかなか取れないものだ」


 長老はため息をついた。そこにオルディナリオが入ってくる。


「まあまあ、立ち話もなんですからね。二人とも座りなさい。おーい、コーヒーと紅茶を持ってきてくれ」


 オルディナリオは声を上げた。そしてしばらくするとお盆を持ったシスターがお茶を持ってくる。陶磁器のカップにはコーヒーと紅茶が湯気を立てていた。


「コーヒーか……。このような飲み物はフエゴ教団が来るまで飲むことはできなかった」


 長老はカップを眺めながらつぶやいた。そこにアモルが口を挟む。


「コーヒーの原料は海をまたいだ南の大陸、ナトゥラレサから輸入されたものです。西のオラクロ半島ではトマトなど色々輸入されていますね」


 長老はカップを両手で持ち、ぷるぷると震えていた。


「そうだなぁ、村にはいろいろなものが入ってきたよ。よそ者はおろか、化け物どもがやってきて我が物顔で村を闊歩する。こんな現実あり得ないと思ったね」


 長老は震えながらも立ち上がる。


「そうだ! こんな現実はあり得ないんだ!! 村の景色は一変し、生活さえも変えられてしまった! わしらはずっと獣を追い、木の実を採取して暮らしたかったのだ!! それをお前たちフエゴ教団がめちゃくちゃにしたのだ!! しかも目の前には混じり物の化け物が座っている。こんな忌々しいことはない。わしはこんな現実を認めない!!」


 そう言って長老はカップを壁に投げつけた。カップは割れ、中身は床にぶちまけられる。

 オルディナリオはぱんぱんと手を叩くと、ドアが開いてちり取りと箒を持ったシスターが入ってきた。そして破片を手際よく片づけると、別のシスターが長老の前にカップを置く。新しく淹れたコーヒーだ。


「これはどうですかな。おからで作られたクッキーでございます」

「これはこれは。どれいただきますかな」


 長老は何事もなく座り、お茶請けを食べる。フエルテとアモルは茫然としていたが、オルディナリオは平穏そのものであった。


「それが長老の憂さ晴らしなのか」


 フエルテが訊いた。長老は無言で頭を縦に振る。


「先ほどは暴言を吐いたが、実のところ今の村は快適になっている。レンガ造りの家のおかげで冬の寒さを凌げるし、炭のおかげで薪と比べて長持ちしていた。綿入りの服は暖かいし、水路のおかげで川まで水汲みに行かずに済んでいる。何より食べ物が劇的に変化した。保存のきく缶詰や瓶詰の食料のおかげで、子供が栄養失調で死ぬことがなくなったのだ。その点では感謝しているよ」


 長老は涙を流している。今まで村は貧しく、子供は病でよく死んでいた。それがフエゴ教団の介入で一変したのである。

 だがその点を踏まえても村人にしみ込んだ差別意識は拭えなかった。フエゴ教団では人間も亜人も同じ法律の下で定められるという。しかしそれが納得できないものも多い。それで教団に逆らい、逆に逮捕され強制労働の刑にされるのである。

 現にフエルテが村に来た時も、いまだ差別意識を持つ村人たちに出迎えられた。彼らは牢屋の中で強制労働を強いられたが、それでも減ることはないだろう。ますます恨みを抱くものもいるに違いない。


「おそらくは三世代目にならないと無理でしょう。そして教団の教育を根気よく続けることが大切ですね」


 アモルが補佐した。長老はすまないと頭を下げる。おそらくは長老としての重課で身も心もぼろぼろなのだろう。たまにオルディナリオの元に訪れて、大声を張り上げていたのだ。オルディナリオもそれを理解して、相手をしているのである。


「それはそうと、長老に聞きたいことがあります。エビルヘッドのことです」

「エビルヘッド……、ですか? 子供の頃から聞いたことがあります。確かビッグヘッドを率いる神だとか」

「正確には人を襲うビッグヘッドを生み出す存在です。スマイリーなどはその代表なのです」


 アモルが補足する。エビルヘッドとは閉鎖的な村でも一度は聞いたことのある名前なのだ。よく行商人が村にやってきて、どこどこの村はビッグヘッドに喰われたとか噂話をするのである。


「そうでしたか。村の者は今の状況をフエルテのせいであり、エビルヘッドが遣わしたと言っておりますな。ですが村ではある噂が持ちきりなのでございます」

「噂ですか?」

「はい。なんでもオソが蘇ったとの話です」


 その瞬間フエルテは穴に潜るヌートリアの如く、びくっと体を震わせた。そして恐る恐る質問してみる。


「オソ……、だって? あの人は八年前に死んだのでは……」

「……確かお父様に殺された方ですね」


 アモルは口ごもる。アモルの父親シンセロは見せしめのために拳銃で村人を撃ち殺したのだ。死んだ事実はもちろんだが、雷鳴のような轟音も村人の耳に深く刻まれたことだろう。


「ほう、シンセロ様のお子さんですか。わしらはあの方を恨んではおりませぬ、気になさるな」


 長老はアモルを慰めた。まるで飼っていたペットのイエネコのような感じである。その態度にアモルは戸惑う。


「あの人は村の掟を破ったのだ。村八分である俺をいじめていたからな」


 フエルテは当時子供だったが、周りの大人たちの態度は感じ取っていた。他の村人たちはフエルテを空気扱いしていたのだが、オソはフエルテを村の広場に連れてきては、暴行を加えたのである。それはまるで地獄の鬼のようであった。村人はオソに抗議した。村の掟を破ることが問題であり、フエルテの身を案じているわけではないのだ。


 村にとって掟は絶対であり、村八分でもいじめてはならないのである。


「オソは近く殺すつもりでした。宴と称して果実酒に毒を盛る予定でしたね。それがシンセロ様の拳銃で死んだから万々歳です」

「同じ村に住む者同士なのに、冷淡なのですね」


 アモルが冷めた目で言った。


「同じ村同士だからです。掟を守ることは命を守ること。オソはそれを破った。だからわしらはオソたちの処刑を決めたのです」


 長老の言葉にアモルが首を傾げた。少し間を開いて理解したようだ。


「もしかしてオソさんの家族も対象にしたのですか?」

「もちろんです。オソの血縁の者は生かしてはおけません。あの男は妻と息子がおりましたが、こちらは眠るように死ねる毒を入れるつもりでしたね」

「つもりでした? つまり命を奪ってはいないということですね」

「はい。あの後オソの家族はフエゴ教団に連れていかれました。そして別の村で再婚したそうです。わしらとしては掟を破った家族がいなくなったから、良しとしておりますがね」


 長老は笑顔で答えた。おそらくこれは村の習慣なのだろう。長い間自分たちの規則で過ごしてきたから違和感などないのだ。もちろん外部から来た人間にとって自分たちと異なる文化は理解するのに時間がかかる。

 八年前に村はフエゴ教団によって迎合した。その間フエゴ教団は様々な技術を村人に教え込んでいる。若者の間では理解する者は多いが、年配だと頑なに考えを変えないものが多い。長老は思考が若干柔軟だが、それでもすべてを納得していないのだ。


「話がずれているが、オソさんが蘇った話はどうなったんだ?」


 フエルテが話を戻した。


「ああ、それでしたな。実はここ一年前から村人が目撃しておるのです。狩猟の途中でオソと出会ったと。昔と変わらぬ姿でふらふらと徘徊しているのを見たと申しておるのです」

「長老殿、この村では死者が蘇るといった言い伝えはありますか?」


 アモルが質問した。


「それはあります。うちは土葬でしたからね。無念の死を遂げた者はゾンビとなって蘇り、温かい血と肉を欲し、人を襲うとあります。確かにオソは無念の死を遂げたかもしれませんが、もう一人の息子のほうが蘇ってもおかしくはなかったですね」

「もう一人の息子ですって?」

「はい。実はオソがフエルテをいじめたのに理由があります。オソはその前に自分の子供を虐待していたのです。そして下の息子を虐待死させたのですよ」


 意外な事実にアモルは目を見開いた。フエルテは視線をずらす。


「オソが豹変した直後、自分の息子二人をよく殴っていました。母親はかばおうとしましたが、三回ほど殴られると反発しなくなったのです。腹を蹴るのはもちろんのこと、高いところから放り投げ、地面に叩き付けたりしていました。その内、下の息子がにらんだという理由で、頭にかかと落としをして殺したのです。わしには病死だと言って誤魔化していましたが、母親ともう一人の息子の顔にある痣を見れば一目瞭然でした」


 長老に息子を見せたのは、彼が医者の役割を果たしていたのだろう。もちろん詳しい医術など知らず、薬草の調合をしたり、整体をする程度である。

 アモルは絶句した。自分の子供をどうして痛めつけられるのか理解できなかった。フエルテも当時のことを思い出したのか、うつむいたままである。


「わしが違うのではと言ったらにらみつけてきました。そして、壁に穴をあけたのです。自分にとって都合のいい答え以外は聞かないという意思表示でした。オソはさすがに他の子供には手を出しませんでしたね。そこで新たな獲物がフエルテだったのです」


 当時オソはフエルテに暴行を加えた。殴る蹴るは当然のことで、高いところから地面に叩き付ける、冷たい池に裸で放り投げる、焼けた薪を押し付けるなどしていた。

それでもフエルテは耐えた。泣きもせず、痛がりもしなかったのだ。そのことがオソの残虐さに火をつけ、ますますフエルテをいじめるようになったのである。


 だがフエルテは頑丈であった。どんなに暴行を受けても痣一つ付かないのである。それにフエルテは腰巻一つで一年を過ごしており、夏の暑さや冬の冷たさなどまったく感じていなかったのだ。


「正直、オソさんの暴行は大したことはなかった。死んだおやじと遊んだほうがよっぽどすごかったな。だが俺が反発すれば暴力の矛先が家族に向くことを恐れたんだ。あの人たちはこっそりと俺に薬草などを届けてくれたからな」


 長老は驚愕した表情になった。どうやら知らない事実のようである。だが処罰しようにもオソの家族はもういない。フエルテはそのことを知ったから暴露したのだろう。長老は苦虫を噛んだ顔になり、フエルテは唇で笑った。


「ですがおかしいですね」


 横からアモルが口を挟んだ。


「確かフエゴ教団が来てからは火葬になったはずです。オソさんの遺体は荼毘にされたのではないですか?」


 それをオルディナリオが首を横にふるった。


「そうではありません。実はそのオソという人の遺体は盗まれてしまったのです」


 それは寝耳に水のようで、アモルとフエルテは驚いた。


「当時、私はシンセロ様の代理で村の司祭をしていました。オソの遺体は村の外にある洞穴に保管してありましたね。火葬場がないから急きょ簡単なものを作っていたのです。ところがその遺体がいつの間にか消えていたのですね」

「全然知りませんでした。どうして黙っていたのですか?」

「当時は獣がオソの遺体を持って行ったと思ったのです。ですが洞穴の入り口には騎士が見張っておりました。人はおろか、獣一匹も入っていないとのことです。ただ……」


 オルディナリオは口ごもった。


「実は騎士はほんの少しだけ眠っていたそうです。コーヒーを沸かして飲んでいたから眠気などなかったのに、急激に眠くなったというのです。そして別の騎士が森の中で奇妙なものを見つけたと言いました」

「奇妙なもの? それはいったい……」

「それは人を担いでいるように見えたそうです。ですが担いでいた者が奇妙だというのです。相手はビッグヘッドだったそうですよ」


 ビッグヘッド!! あの人間の頭に手足が生えた、不気味な怪物が村の近くを徘徊していたというのか。そして担いでいたというのはオソの遺体であろう。ビッグヘッドがその場で遺体を喰わずに、持ち去るなどありえるのだろうか。


 それはありえない。なぜならビッグヘッド、特にこの近辺ではスマイリーという種類がいるが、こいつらは生死に関わらず人間を食らうのである。そして目から白い物質を涙と共に流すのだ。それはカルシウムであり、人骨でできていた。別名涙骨るいこつと呼ばれており、小石ほどの大きさで、ビッグヘッドの涙で覆われた物である。


 スマイリーの目撃される近くに涙骨が山になっていることがある。フエゴ教団はこれらを回収し、セメントや精錬などに使用しているのだ。人骨をも利用するフエゴ教団の貪欲さがわかるであろう。


「当時私は騎士たちに閉口令を出しました。ですがすでに村中、オソは蘇り、自分の足で村を出た。そしていつの日か自分たちに復讐するだろうと噂されていましたよ」

「そんな噂が……。どうして私たちの耳に入らなかったのですか?」

「それは心配をかけたくなかったからですね。そしてこの手の噂はこの村だけではなく、フエゴ教団が布教する百年前から、別の村でも起きているのです。しかも決まって相手は、フエルテのような混血児をいじめた者であり、フエゴ教団の司祭に殺されていました」


 オルディナリオの言葉にアモルとフエルテは見合わせた。フエゴ教団は約百年前に設立されている。そんな古い時期からフエルテのような子供がいたとは信じられなかった。


「だが本山で、俺と同じ境遇の人間はいたな。話を聞いてみれば、俺と同じ混ざり物で、村八分にされていじめられていたという。世間では同じことをする人間がいるのだなと思ったな」


 フエルテがしみじみ思い出す様につぶやいた。そこで長老が思い出したように言った。


「そういえば豹変する前にオソが誰かと話しているところを見たな。塩を売る行商人だったと思うが、あの時からオソが自分の家族に暴行を振るうようになったと思う」

「塩を売るということはサルティエラ出身なのでしょう。その行商人は今でも来ますか?」


 オルディナリオの質問に、長老は首を振るった。

 ちなみにサルティエラとはビッグヘッドが排出する涙鉱石から塩を精製し、行商する町だ。


「もう来ていないな。それどころか後日サルティエラの行商人から聞いたが、そんなやつは知らないという。ただその男は色々な噂話を持ってきたな。エビルヘッドの話もそうだった。だがあくまで聞きかじりでそれほど突っ込んだ話でないことは覚えている。わしが知るのはそれくらいだ」


 そこで話が終わった。だが先ほどのアモルの話だと死者が蘇るということに違和感を抱いていない口ぶりである。普通はそのようなことはあり得ない。だがフエルテとオルディナリオは一度も「そんなバカな」とか反論はしていないのだ。


 これには理由がある。フエゴ教団が抱える秘密があるのだが、まだ語る場合ではない。

フエルテはすっかりぬるくなったコーヒーを飲み干す。そこへアモルが口を開いた。


「本題ですが、オルディナリオ様。今日は一晩の宿をお貸しください。明日はオンゴの村に向かいますので」

「もちろん構いません。そのための部屋は用意しております。食事と風呂もご用意しておりますので、安心してくつろいでください」


 オルディナリオの好意にアモルとフエルテは深々と頭を下げた。長老はその話を聞いて思案を巡らせる。


「オンゴの村……か。確かお化けキノコの住む村だったな」

「お化けキノコではありません。キノコの亜人です。まあ初めて見た人ならそう見えるかもしれませんね。実際は……」


 アモルが長老に説明しようとしたところ、室内に奇妙な高音が響いた。ビービーと絞り出すような音である。音の発生源はオルディナリオであった。彼はローブの中からある長方形の物体を取り出す。

 それは白く光沢を放つ物質でできていた。それには丸いレンズのようなものが四つほど填められており、十字のように配置されている。その内一番上のレンズが赤く光り、高音を発しているのだ。


「これは北口から緊急事態が発生したようです。私はこれから北口を見張っている隊長に連絡を入れ、他の三か所にも伝達します。皆さんはそのまま休んでいてください」


 オルディナリオは立ち上がったが、アモルとフエルテも立ち上がる。


「人々の平和を守るのは司祭の役目です。私たちにも手伝えることがあるかもしれません。ぜひ協力させてください」

「俺もだ。アモルが無茶をしそうになったら止める。それが俺の杖としての役割だ」


 二人の真剣な目を見て、オルディナリオは思案した。そして決断を下す。


「わかりました。どんな事態かはわかりませんが、決して無理はしないでください。では、急ぎますので」


 オルディナリオは部屋を出た。アモルとフエルテも一緒に出ようとする。そこを長老に止められた。


「フエルテ。お前はこの村に関わるのか。かつてはお前を村八分にしたのだぞ。例え何か非常事態が起きて、それをお前が解決しても村人はお前に感謝などしない。むしろ西組の目を向けるに違いないぞ。それでも行くのか?」

「行くさ」


 フエルテは迷いなく答えた。


「俺はアモルを守るために行くのさ。村のためじゃない。アモルを守るのが俺の仕事であり、役割なんだ。あんたたちのために動く気などないね」


 それを聞いたアモルは複雑そうな表情を浮かべている。そして二人は部屋を出た。目指すは村の北口である。後に残るのは長老だけであった。


「……頑張ってくれ」


 長老はぼそりと呟いた。

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