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外伝4話 浴場で

「フエルテは戸惑っているのですよ」


 夜の食堂で私はシンセロお父さんから話を聞きました。そもそもフエルテを働かせるなんて可哀そうと思ったからです。フエルテが住んでいた村でひどいことをされていたのは知っています。


「彼は今まで虐げられてきました。これは村人から聞いた話です。彼にとって優しくされることは異常なことだと思っていますね」


「優しくされるのが異常なのですか?」


「そうです」


 お父さんはきっぱりと言いました。ちなみに食堂は私とお父さん、それにお母さんとアミスターしかいません。普段のコンシエルヘ叔父さんたちは別の場所で食事を取っています。

 あくまでこの家の主はフエゴ教団の司祭であるお父さんなので、叔父さんたちは使用人として振る舞います。ただしお父さんにもしものことがあれば叔父さんが跡を継ぎます。もっとも叔父さんは司祭の仕事は面倒なので執事の方がいいとぼやいていました。


「今の彼は目的が必要です。普通に食事をするのも命令がないと彼は口にしなかったのです。今は仕事と称して筋力トレーニングと座学を中心に行います。来年になれば司祭学校に編入させますね」


「私と同じ学校にですか」


「はい。彼には不思議なポテンシャルを感じます。何しろ五大悪魔の名前を付けられたのですからね。彼は司祭の杖になれると思います」


 司祭の杖とは司祭を護る役職です。なぜ剣や盾ではないのか。それは剣と盾は有事にしか使えないからです。杖は生活にとっての必需品なので、司祭の杖と呼ばれています。

 これは同年代から、家族などがなります。セルティン叔母さんやハンゾウ小父さんも司祭の杖で特別な能力を持っています。


「今のフエルテに必要なのは目的を作ることです。今までは虐げられてきたため、人生に希望がありませんでした。フエゴ教団の教えを学び、自分が生きる意味を見つけ出すように手助けをします」


「そうでしたか」


「アモルはフエルテと同年代です。あなたは同年代の友達が少ない。無理をせずに少しづつ距離を縮めてくださいね」


 そう言ってお父さんは優しく微笑むのでした。


 ☆


 私は部屋でプレートピンチをしていました。プレートピンチとは、プレートをつまみ持ち上げることでピンチ力を鍛えるトレーニングです。プレートの重量設定によってはハンドグリッパーよりも高い負荷を与えることができて、さらに静止時間を伸ばせばホールド力の向上にも有効なのです。


 やり方は簡単でまずプレートを二枚重ねます。次に親指と4本の指で挟むように持ち上げます。この時は10センチほど浮かせるのです。持ち上げた状態で2~3秒間静止します。

 これを片側10回、3セット行うのです。


 なぜ私はトレーニングを行うのでしょうか。決まっています、私は不安なんです。

 私の容姿はますます女性に近くなってきました。初対面の人は私を女の子と勘違いするのがほとんどです。

 私が上半身を脱ぐと女の子がはしたないと言って怒られます。


 徹底的に筋力トレーニングを行っているにもかかわらず、私は細マッチョでした。

 プレートピンチを終えて、私はベッドの上に寝ころびました。特に汗はかいてません。でも後でお風呂に入りましょう。


 私はお風呂場に行きました。ちなみに浴場は共有です。男女に分かれており、一度に10人ほど入れる広さがあります。使用人も使ってますね。私はあまり人と入るのは好みません。裸を見られるのが嫌なのです。


 私は男の脱衣所に向かい服を脱ぎました。そして浴場に入ります。

 すると先客がいました。フエルテが一人で体を洗っていたのです。

 彼の身体はとてもたくましく、私と同年代とは思えないほど整った肉体です。巨大な岩に彫刻したような感じで見惚れてしまいます。


「あ……」


 フエルテは慌てて浴槽に風呂桶を入れてお湯を取り出します。そして身体にかけてすぐ出ていこうとしました。

 私はそれを止めました。彼の手はとても太く、力強かったです。私の握力でなければ振りほどかれていたでしょう。


「はっ、離して……」


「だめ。一緒にいて」


 なぜ私はフエルテを呼び止めたのでしょうか。本当は裸を見られてとても恥ずかしいのに、なぜかフエルテなら見られてもいい気持ちになりました。


「ねえ、一緒に浴槽に入りましょう?」


「いや、俺はもう……」


「だめよ。これは命令なの。一緒に入りなさい」


 ああ、私はなんて浅ましいのでしょう。フエルテに対して脅すような尊大な口調で命じるなんて。

 こんなことは初めてです。他の使用人にすら言ったことはないのに。


 ……なんだか胸がドキドキします。それにフエルテのアレも大きいし……。

 いえいえ、私は何を言っているのでしょうか!!

 私と比べればフエルテのアレも可愛い物……、そうじゃなくて!! 別に自分の物を自慢したいわけではなくて!!


 恥ずかしい……。こんな破廉恥な考えが浮かぶ自分が恥ずかしい……。穴があったら入りたいくらいです。


「大丈夫、か? 顔が熱いが」


 フエルテが心配そうに私に近づきます。


「ひゃあ!!」


 思わず飛びのいてしまいました。


「ごっ、ごめん。気持ち悪かったよな」


「そんなことはありません!! むしろ近づいてほしかったような、もっと密接になりたいというか!!」

 

 あわわ、私は何を言っているのでしょうか。もう頭の中が真っ白です。私は思わずフエルテに抱きつきました。

 まるで大木に抱きついている気持ちになります。なんだかとても安心できます。


「あっ、あの……」


 フエルテは慌ててます。多分私をどう呼べばいいのかわからないのでしょう。


「アモルです。私の事はアモルと呼んでください」


 私はぎゅっとフエルテを抱きました。私よりも逞しい彼に抱きつくのがとても心地よいです。ずっとこのままでいられたらいいな……。


「あらあら、アモルはフエルテがお気に入りのようですね」


 ドキン!! 後ろから聞きたくない声が聴こえました。

 それはお父さんでした。付け髭を外して、裸になると均整の取れた女性にしか見えません。お父さんも身体を鍛えているので腹筋は割れています。


「あまり羽目を外さないようにね。2人はまだ10歳だからね」


 お父さんは怒らずににっこりと笑顔を浮かべています。あわわ、どうしよう。でも放っておいたらフエルテが私を惑わしたと思われてしまいます。


「ふっ、フエルテは私の彼女ですから!! 一生私のお嫁さんですから!!」


 うわ~~~~~~~!! 私はどうかしてしまったんですか!! 何口走っているんですか!!


「あっ、アモル……。末永くお願いします……、かな?」


「違います!! うえ~~~~~~ん!!」


 フエルテの的外れな発言に私は泣きました。ええ、泣きましたとも。お父さんはとても楽しそうに笑うだけです。

 ええい、もう私は覚悟を決めました!! フエルテは私が一生養います。もう手放しません!! 彼に不幸が舞い降りてきたら私がすべて殴り飛ばします!! 

 この鍛えた握力でフエルテの敵はすべて潰しますから!!

 外伝はこれでおしまいです。今回は握力関係のトレーニングが中心になりました。

 なんとなくですね。お正月だから何か書きたくなったのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)いやぁ……すごい独特な世界観に圧巻されました(笑)「マッスル・タイフーン!!」にすごく吹きましたが、みようによっては凄くカッコいいのかな?まず本作は世界観がしっかりしているなぁと思い…
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