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大喰い共

神は筋肉の勇者たちに安息を与えるつもりがない様だ。

 ドアが馬車馬に突進されたように勢い良く開く。司祭だった。

 その顔は血相を変えており、激しい息切れを起こしている。


 いったい何事かと思いきや、彼の皺だらけの唇でぼろぼろに抜けた歯の間から地獄のラッパが鳴り響く。

 村に新たなビッグヘッドが出現したというのだ。

 しかも通常より巨大だというのである。


 人手が足りないので手伝ってほしいと要請されたがアモルたちは快く引き受けた。

 さて村の中はさながら戦場の如く慌ただしい上に気持ちを高揚させる太鼓の如く鳴り響いている。

 そこには巨大な異形の怪物が有象無象と暴れていたのだ。


 熊ですらまだ控えめな感じだが、人の顔をした怪物は自然界の法則など最初から関係ないと言わんばかりである。

 全部で三体。腰を抜かして地べたに這いつくばる村人をひょいと手でつかんでは、バリバリと手羽先の如く食べていくのだ。


 スマイリーは笑いながら足から食べていく。こちらは純粋な食欲で動いているように見えた。


「大喰い《グラットン》と名付けよう」


 フエルテが言った。グラットンは人を探しては丸かじりにしようとしていた。

 頭が大きいためか、動きは鈍い。ただ手の動きはまるで獲物を狙う鴉のように素早いのだ。

 ひたすら食欲で動いているように見える。村人曰く、エビルヘッドより一回り大きいという。

 まずフエルテとアモルで一組。ヘンティルとイノセンテの姉妹でもう一組。

 最後は騎士団で対峙することにした。


「マッスル・ガスト!!」


 フロント・ダブル・バイセップスのポーズを取る。まずは出会い頭に決めてみた。

 グラットンの口が縦に裂け、血が噴き出すも致命傷には当たらないようである。

 じろりとにごったスイカのように大きい眼を向けた。それに見られると魂を吸い取られそうな感じになった。


 ヘンティルはあらかじめ井戸から水をがぶ飲みする。

 もう一体のグラットンが巨大なベニテングダケをつかみ取ろうとしてきた。

 だがヘンティルが口から噴き出す水圧カッターにより、手の平は切断される。


 まるで木の柵みたいにぼとりと落ちた。

 手を切断されたのに、グラットンは平然としている。植物の遺伝子が組み込まれているので痛覚は鈍いのかもしれない。


 残りの一体は騎士たちが健闘していた。槍を握りして、遠くからクロスボウでちくちくと攻めている。

 誰か一人が狙われれば、すぐさま別方向から一斉に攻撃するのだ。

 そして丸太のように太い腕で薙ぎ払おうとしたら、すぐにしゃがんで退避する。

 その隙をついてクロスボウの雨を降らせるのだ。

 練度の高い騎士たちである。


「こんなビッグヘッドは見たことがない。おそらくエビルヘッドが作ったのかもね」


 プリンスヘッドが戦いの様子を見ながら独白した。


「人を襲うようなビッグヘッドは大抵エビルヘッドに作られているのです。

 彼は人類を憎んでいる。憎み切っている。

 自分を断りもなく生み出した人間に憎悪を抱いているのです。

 人間たちを喰らいつくせば幸せになると思い込んでいると言います。

 彼を倒さないと人間たちに平和は来ません」


 その言葉を聞きながらフエルテは立ち回っていた。

 グラットンは特殊な能力を持たない。その分タフさと生命力の強さは桁外れだ。

 それに一度狙いを定めると執拗に追いかけてくる。足は鈍いがスタミナはこちらのほうが上だ。

 いずれ追いつかれ、しらうおの踊り食いのような目に遭うだろう。


 相手がフエルテに目を向けている最中、アモルは拳銃で応戦していた。

 弾が当たってもなかなか致命傷にはならない。無駄弾ばかり使う羽目になっている。

 フエルテは作戦を変えた。


 まずバック・ダブル・バイセップスのポーズを取る。


「マッスル・タイフーン!!」


 つんざく音と共に、グラットンの顔に無数の傷が走った。目や鼻、口に細かい傷ができる。

 その瞬間、視界が遮られ、うずくまった。


「マッスル・トルネード!!」


 モスト・マスキュラーのポーズを決める。グラットンの眉間に大きな風穴が開いた。

 これがとどめになったようで、どがっと地べたに倒れる。

 そして大きな杉の木に変わったのであった。

 他のメンバーたちも勝利したようで、歓喜の声が沸き上がったのである。


 ☆


「あともう少しで猛毒の山なのですね~。楽しみです~」


 イノセンテは無邪気そうに言った。ヘンティルもそれに同意する。


「そうね。でもその山にはビッグヘッドの親玉、エビルヘッドが待ち構えているのでしょう?

 褌を締めて気を引き締めないとね」


 ちなみにエビルヘッドの居場所は騎士たちが調べてくれたのだ。

 なんと猛毒の山に向かったそうである。途中でスマイリーなどが襲ってきたため、尊い犠牲を払っての情報だった。


「やだ~、お姉さまったら~。女の子は褌なんかしないです~」

「おほほ。そんなことはないわよ。大人の女性は赤い褌を締めるのが身だしなみだと聞くわ。それが大人のファッションですって」

「わ~初耳です~。お姉さまは物知りです~」


 姉妹の騒がしい会話をよそにアモルとフエルテは明日の事を考えていた。


「いよいよ猛毒の山に行くのですね。まさかエビルヘッドが待ち構えているなど夢にも思わなかったけど」

「俺だってそうだ。だがやるしかないんだ」


 二人は覚悟を決めている。


「ぼくも及ばずながらお手伝いいたしましょう。山中のビッグヘッドはぼくの命令通りに動きます。

 エビルヘッドのいる場所まで邪魔はさせません。安心してください」


 プリンスヘッドがない胸を叩く。

 彼はパインクラスのビッグヘッドだ。プラムクラスどころかバンブークラスだって彼の言いなりである。

 旅はもうじき終わる。フエルテはそう確信していた。

 だが彼らは知らなかった。儀式のための旅から、長い人生の苦難が続く旅になるなど、夢にも思わなかったのだ。

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