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「来やがった」
カイは素早くリヤカーの陰から上半身を出すと、突撃してきたゴブリンに向かってクロスボウの引き金を引く。
ゴブリンが接近してきた為、距離は縮まり命中率が上がったおかげかクロスボウのボルトはゴブリンの胴体に命中し、一体のゴブリンの体をよろめかせる。
もう一体のゴブリンはその醜悪な緑色の顔を歪ませ、怒りの咆哮を上げながらカイ達に向かってくるスピードを速めた。
「速いな 散火 」
センリの手のひらの上にマッチの種火が移され、精神力によって増強され、手のひらの上で渦巻き球体を作る。
センリが手をゴブリンに向けて振るうと、火の球はゴブリンの激突し弾ける。
しかし、ゴブリンにダメージは残念ながらほとんど無い。
ゴブリンの毛皮が焦げた程度だ。
しかし、元々その炎で敵を焼き尽くせるとは、元々二人とも思ってはいない。
接近してくるゴブリンが、火球によって足を止めた瞬間に二人はリヤカーを押し、ゴブリンに向かって突撃を敢行する。
何も入っていないリヤカーは二人の力で直ぐに加速し、煤けたゴブリンに激突した。
「くらえ」
カイは腰からナイフを抜くとそれをゴブリンに向かって投げる。
しかし、残念ながらそれはゴブリンが右手に持つシミターによって弾かれた。
だが、ゴブリンがナイフに気をとられている間に、センリはゴブリンとの間合いを詰めていた。
村の自警団仕込みの剣術で、ゴブリンの首を豪快に薙ぐ。
二人は戦いが終わり、安堵した。
が、それがいけなかった。
カイが最初にクロスボウで射ぬいたゴブリンがいたが、それくらいでは生命力が人間より強い魔物を完全に殺す事は出来ないのだ。
ゴブリンは油断している二人の内の一人に向けて弓を引き、矢を射出した。
ゴブリンの矢は油断していたセンリの右手に刺さり、センリは焼けるような痛みに声をあげ、思わず手に持つ長剣から手を放した。
「センリ!この猿野郎が」
カイはセンリが射たれる光景を見て頭に血が昇り、地面に落ちた長剣を拾おうとする。
しかし、そこには丁度雀蜂程の大きさのある蟻、ラージアントの巣があり、長剣を持ったカイは一匹の蟻に噛み付かれる。
だが、アドレナリンが脳内から分泌され痛みをほとんど感じなかったカイは、怒りに任せてその蟻を潰すと、ゴブリンに向かって駆け出した。
カイの後ろから何故か声が聞こえてくるが、カイはまともに聞いておらず、反応する事はない。
ゴブリンは近づいてくるカイを見ると弓を放り投げ、シミターを構えて威嚇するような唸り声を上げるが、カイは躊躇わず長剣を振るう。
単調な長剣の軌道はゴブリンにあっさりと読まれ、シミターによって弾かれた長剣があっさりと宙を舞う。
更にゴブリンは短い足で更に一本踏み込み、カイの心臓目掛けてシミターの刃を突き出した。
金属と金属がぶつかり合うような音が聞こえる。しかし、カイとゴブリンの間には誰もいない。
シミターがカイの心臓を貫くのを防いだのは、何故か突然体からを覆うように現れ始めた黒い甲殻だった。
カイの突然の変化にゴブリンは驚き、一度距離を取ろうとする。
しかし、変化している最中にも関わらず、カイは離れようとするゴブリンの片腕を掴み、距離を取られるのを阻止した。
いや、実際にはそこまで思考して、ゴブリンの腕を掴んだ訳では無いかもしれない。
カイの全身は黒い鎧のような甲殻で覆われ、そのゴブリンを掴む右手は万力のような力でゴブリンの右腕を締め付ける。
カイの規格外の握力にゴブリンが呻いた瞬間、カイの左手がゴブリンの顎を殴りつけた。
ゴブリンの頭は大きく右に移動し、カイの攻撃はゴブリンの意識をたった一発で刈り取った。
それでもカイは攻撃を止めない。
二発目の拳でゴブリンの頭部を粉砕すると、更に強烈な蹴りでゴブリンを巨大な岩がある方向まで蹴り飛ばす。
そこまでの動作を行った後、カイは急によろめき始める。
カイは今まで無能力者だった為か、突然の精神力の消費によって意識を保てなくなっていた。
やがてカイの能力は解除され、意識を混濁させたカイは地面に倒れ込んだ。