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村人達によってある程度整備された道を通り、魔物の死体を運ぶセンリとカイの二人は、村の畑に到着した。
そこには等間隔に木が生え、きちんと 肥料 を与えれば三ヶ月に一度ワイン作りに適した葡萄のような物を取る事が出来るようになっている。
葡萄擬きの成長に必要な肥料は腐敗もしていない、生き物の新鮮な死骸だ。
カイ達が葡萄擬きの木の根の辺りにある底無し沼に嵌まらないように気を付けながら、二人は魔物の死骸から金属製の装備を剥ぎ取ると、葡萄擬きの木の根元に向かって放り投げていく。
この葡萄擬きの実で作ったワインは村の特産品であり、他の村の収入源は魔物からの戦利品だけだ。
村で食べ物はほとんど自給自足されているが、塩や香辛料、家庭用品等は港町や街から購入する必要がある。
カイ達はリヤカーに積まれた魔物達を全て投げ終えると、残った魔物達の防具や武器を村の鍛冶屋に届けに行く。
魔物が使っていた武器は一度融かすとインゴットにし、武器の材料にしたり鍬にしたりするのだ。
そして、二人はまた門を通り魔物達の死骸が散乱している場所へと向かった。
「おい、カイ。あれって」
センリが腰に帯びた鉄製の長剣の束を軽く握り、ある方向を指さしながら隣のカイに話すと、カイは直ぐにセンリが指さした方向に目を凝らした後、素早くしゃがみリヤカーを盾にした。
一本の矢がカイの頭上を通過し、もう一本同じタイミングで放たれたボルトがリヤカーに刺さる。
「ゴブリンだ、二匹いるな」
カイは同じくリヤカーの陰に隠れるセンリにそう言うと、クロスボウのボルトを装填する。
カイ達の前方には二匹のゴブリン。恐らく戦場でゴブリンの死体から装備をはぎ取っていたのだろう。
ゴブリン達が背負う木の篭の中には、血塗れになった鉄製の剣や鉄製の槍が入っていた。
「どうする、勝てるのか?」
センリは隣でクロスボウの引き金に指をかけているカイに向かって尋ねる。
カイ達が現在いる場所は、丁度拓けた場所なので遮蔽物はリヤカーと離れた場所にある一本の木しか無い。
ゴブリン達は相手が子供だとわかり、しかも能力を使って来ないのを見て油断しているのか、物陰に隠れようとはしていない。
しかし、カイがクロスボウでゴブリンを撃ち抜けるかと問われれば、難しいと答えざるを得ない。
カイの持つクロスボウはそれほど命中率が良いわけではないからだ。
「接近戦を挑むとしたら、俺の短剣とセンリの長剣で戦う事になるのか。
接近戦も厳しいかもしれないな」
カイは自分の腰に取り付けられた短剣と、センリの長剣を見ると接近戦も厳しいと判断する。
ゴブリンはオークより身体能力はかなり劣るが、それでも一般人よりは勝る。
センリは能力者ではあるが、小さな火を操る位しか出来ず、しかも種火が必要な種類の能力だ。
カイに至っては能力者ですらなく、特殊な力は一切持ち合わせていない。
「マッチが一箱あるから、それで脅して逃げるのが最善じゃねぇか?」
センリがカイにマッチの箱を見せながらそう言うと、カイも仕方なく頷こうとする。
幸い村は目と鼻の先なので、直ぐに逃げ帰る事が出来る。
鐘が何故鳴らないのか疑問だが、死骸が散乱する中に小柄なゴブリンが二匹混じっていてもわかりにくく、見落としていたのかもしれない。
カイ達は方針を決め、早速センリがマッチを取りだし、マッチを点火しようとする。
しかし、カイ達は作戦に時間を掛けすぎていたようだ。。ずっとリヤカーの後ろに隠れるカイ達に二匹のゴブリンは業を煮やし、シミター片手に突撃してくる。