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黒髪の少年が放ったクロスボウはゴブリンからの戦利品を改造した物であり、威力は上昇しているが命中率は下がっている。
それでも敵に命中させる事が出来たのは、かなり運が良かったかもしれない。
「うし! ヘッドショットが決まったぜ。ゴブリンには当てられなかったけどな」
黒髪の少年は櫓の上でガッツポーズをし、金髪の少年も笑みを浮かべる。
しかし、ボルトが頭部に刺さったオークは簡単に倒れはしなかった。
オークの硬く分厚い頭蓋骨が、ボルトの先端が脳に達する前に受け止めていたのだ。
オークは憤怒の表情を浮かべてボルトが飛来してきた方向を睨むと、サッカーボール程のサイズがある石を掴み、カイ達がいる櫓に向かって投てきした。
石は木製の櫓の屋根に命中し、櫓の屋根を粉砕する。
少年二人は衝撃音と屋根から降って来る木片に驚き、直ぐに櫓から降りていく。
「あのバカ餓鬼供が」
蠍人間に変身している男はその様子を見てそう呟く。
二人の少年には恐らく後で何らかの罰が下されるだろう。
そして、余所見していたのがいけなかったのかもしれない。
蠍に変身している男の死角から棍棒を装備したオークが、男の背中に向かって全力で木製の棍棒を振るう。
「……ッ」
蠍に変身した男の肺から強制的に息が排出され、男は声も出せずに前方に吹き飛ばされる。
男の体は村の周辺に生える気に激突し、木は大きくしなり、衝撃を吸収仕切れず音を立てながら二つに折れた。
蠍に変身している男は、しばらく地面に突っ伏して呻いていたが、やがてゆっくりと起き上がった。
「骨にヒビが入ったかもしれん、一旦村に戻らせてくれ」
男はそう言うと、脇腹を慎重に摩りながらゆっくりと村に歩を進めて行く。
すると、村に向かって来る魔物にだけ対処していた能力を持たない村人がすぐに蠍に変身している男をカバーし、村に退避するのを手伝った。
まもなく村を襲った魔物達は掃討され、村の外で戦っていた村人達は村へと戻って行く。
「センリ、カイ、このバカ供が!」
村に戻って来た村人の一人が、カイ達に向かって怒りで顔を真っ赤にしながら歩み寄り、二人に拳骨をお見舞いした。
その村人は狼に変身していた村人でもあり、金髪少年であるセンリの父親でもある。
センリの父親は既に元の人間の姿に戻ってはいたが、畑仕事と魔物の戦いで鍛えられた腕力は人間の状態でも十分強い。
センリとカイが頭を押さえ悶絶していると、センリの父親から二人は魔物達の死体の処理を命じられた。
死体の処理は当然嫌な仕事だ。二人は不満そうな表情を見せたが、センリの父親に一喝され、慌て村の門から外に出ようとする。
「おーい、この辺りにまだゴブリンくらいは彷徨いてるかもしれんから、武器はちゃんと持っていけよ」
村人の一人がそう言うと、カイはクロスボウとナイフを持っていたが、もう一人のセンリは所持して居なかったので、直ぐに自分の家に進路を変更させた。
「じゃあ、俺はリヤカーを持ってくる」
カイは進路を変更するセンリを見てそう言うと、クロスボウを腰に取り付け村の共同の農具倉庫へリヤカーを持ちに行った。
二人は直ぐに集まり、リヤカーの中が血塗れにならないようにリヤカーの中にシートを敷くと、村の門から外に出る。
「ここから村の門まで少し距離があるな」
二人は戦闘が行われた場所に着き、カイは村の門がある方向に視線を向けながらそう言った。
村には東西南北にそれぞれ一つずつ門があるが、全ての門が同じ大きさの訳ではない。
カイ達二人はリヤカーに魔物の死体を放り込むと、リヤカーと人が一人並走できる程度のサイズがある北の門を通り、目的地に向かって台車を引いた。
「門から魔物駆除した場所より、門から葡萄畑の方が遠いんじゃないか?リヤカーを引くのを交代しよう」
センリはリヤカーを引くカイにそう言うと、リヤカーを引く役目を交代し、カイは坂道になるとリヤカーを後ろから全力で押して、どうにか登って行く。