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人間よりも遥かに強靭な肉体を持ち、人類を補食対象と見て襲い掛かって来る魔物達。
人類はそれに対抗する為、驚異的な進化を遂げた。
十人に一人の割合で、覚醒する魔物に対抗する為の人類の能力。
魔物に対抗している二人もまた、数種類ある能力の内の一種類ずつを二人は有している。
ナイフを出現させる能力はウェポン系能力と呼ばれ、その名の通り虚空から自らの武器を出現させる。
呼べる武器は一人につき大抵一種類だが、例外も勿論存在する。
ウェポン系の特徴は使用者の精神の力に応じて武器は鋭さを増し、使用者の身体能力や体の神経伝達の伝達速度を上昇させる所だ。
しかも武器によっては刀身に稲妻を帯びたりする場合もあり、能力の凡庸性は非常に高い。
高速で飛来するクロスボウを回避するまでに俊敏性は上昇し、ゴリラと同等の力を持つオークが振るった剣をウェポン系能力者はあっさりと受け止める。
「おい、見てないでいい加減手伝ってくれないか?数が多くてなかなか片付かん……って他の奴らはどうした?」
狼に変身した男が通常では持ち上げられそうに無い鉄の棍棒を楽々と魔物達に向けて振るいながら、門の前で煙草に火をつけ一服している男に向かって尋ねる。
「オジさん最近体がえらくてな、体を無理に動かすのは遠慮したい。
そこの魔物達は陽動だったらしい、他の奴らは別方面に向かったぞ」
煙草を吸いながらそう言う男に狼に変身している男が、手伝わないならば今夜酒を奢るように要求すると、今月は懐が厳しいのか煙草を吸っていた男がようやく重い腰を上げた。
「全くこれくらいなら二人で十分だろ」
煙草を吸っていた男はそう言いながら上半身の服を脱ぎ、肉体を変化させ始める。
皮膚を覆うように赤い甲殻が出現し、全身を隈無く覆う。
尾骨からは、赤い甲殻に覆われた尻尾が生え、尻尾の先は針のような形状をしている。
狼に変身している男も、この蠍のような見た目に変身している男も能力は同系統の能力だ。
動物変化系能力、肉体をこの世界にいる動物に変化させ、身体能力をウェポン系以上に上昇させる能力だ。
それ以外にも狼ならば嗅覚が強化され鋭い牙と爪を、蠍ならば鋭い切れ味の鋏と猛毒の尾を得る事ができる。
蠍人間となった男の体は硬い甲殻に覆われ、刃を通さない。
男は片腕だけ鋏に変化させると近くの魔物を切り裂き、暴れ回る。
動物変化系能力とウェポン系能力、この二つの能力の内の一つを持っていれば銃弾すらも驚異では無い。
原初の銃が開発され、実用化されそうになった時にこの能力者達に全く通用せず、そのせいで銃が一部の国以外では普及しなかったという逸話すら存在する。
三人の能力者が魔物の群れと奮闘している最中、二人の子供が櫓の上からその戦いを覗いていた。
「オークか、この特製クロスボウの相手に不足は無いな」
黒髪の少年はニヤリと笑うとゴブリンに向かって照準を定める。
「おい、早く撃たねぇとオヤジ達がオークを肥料に変えちまうぞ」
短髪で金色の髪を逆立てた少年が、望遠鏡越しに戦いの様子を見ながら黒髪の少年を急かす。
「わかってる。だが、冷静に一発でヘッドショットを決めるのがクールらしいぜ」
黒髪の少年は、父親が街に行くときいつも趣味で買っている漫画の内容を思い出し、冷静に目標のゴブリンが静止する瞬間を待つ。
数瞬後、黒髪の少年はクロスボウの引き金を素早く引いた。
クロスボウからボルトが射出され、空中で弧を描きゴブリンの頭を狙ったボルトは空中で逸れて、オークの頭に突き刺さる。