ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい 5
「く、黒川さぁん...助けてぇ...」
ぐす、こんばんはこんにちは。サリンです。私の身の上はカットね。もう面倒だから。知りたかったら「ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい」シリーズの1を見てね。
「あぁ、私が黒川さんを必要とする時が来るだなんて、予想外」
波角さんが黒川さんを殴りに行くとか言って部屋を出て行ってから、約一時間。多分、家に乗り込んでたらフルボッコになってるだろう。
私は、どうしても手、足、首の拘束器具が取れない。仕方無いから、声も届かない黒川さんに助けを求めていた。正直、来なくても良いかもしれない。もう黒川さんに抱き枕にされずに済むしね。
黒川さんは、日本最大のヤクザグループ「黒川組」の組長であり私の義理の兄でもある。借金のカタにね、うん。あの日から毎晩、私は黒川さんの抱き枕になってたりするのだが、もう好い加減慣れて来た。
というか、あの人力強すぎです。剣道で鍛えたこの体が、筋肉痛に襲われたんだよ? 一体何処の筋肉を使ってるかは不明だけど、もの凄く痛いです。
もしかしたら、文句を言えば良いと言う人も居るかもしれない。でも私はそんな事出来ない。私には、一人で私を一生懸命に育ててくれていた父が居る。
もし私が逃げたり反抗したりしたら、父が殺される。ついでに私も酷い目に遭わされるかもしれない。
「うぅ...監禁辛いぃ」
黒川さんはとりあえず、私を拘束したりはしなかった。休みの日は屋敷の中しか動けないが、平日は学校にだって行かせてくれたし基本的に部活も自由だった。一応、優しいんですあの人。独占欲は強いですけど、私の気持ちは考えてくれる人なんです。
だから、あんまり恨んだりはしてない。私と父を不幸のドン底に突き落とした人物でもあるけど、今の生活も中々楽しいし、父だって新しい人生歩んでるんだから。
「波角さん、大丈夫かなぁ...」
正直、私を監禁しているにしても、波角さんは良い人だから。もし黒川さんにこの事がバレたら、波角さん殺されるよ? ねぇ殺されるよ? うぅ、言ったのに。言ったのに。
しばらくすると、この部屋のドアがバン!と大きな音を立てて開いた。
「サリン! 無事?!」
「ふぎゃ!」
あ、このパティーンはあれですかね。あの方ですかね。
入って来たのは、息を切らして黒川さんだった。黒川さんは、私に飛びついた。おかげでまた奇声を発してしまった。
「”ふぎゃ”ってぇ...可愛いなぁもうぅ」
「うぅ...」
あ、頭撫でないでください黒川さん...。
「大丈夫? 何もされてませんか?」
「はい...」
まぁ良いか。黒川さんは私を助けに来てくれたんだし。やっぱり良い人だ。
「それにしても、どうしてこの場所が?」
「ん? そりゃあ、サリンの体にGPS埋め込んでいるからに決まっているでしょう?」
今の前言撤回します。全然良い人じゃない!! GPS体に埋め込むとか外道だ! というか、一体何処に埋め込んだんだよぅ...。
「ちょっと待ってください。今拘束器具を外しますから」
「あの、波角さんは?」
「あぁ、あの馬鹿なら返り討ちにして今病院ですね。自業自得です」
「え?! 病院?!」
黒川さんは頷くと、ポケットから鍵を取り出して手錠や足枷を外し始めた。
「はい。私のサリンをこんな目に遭わせて、ただで済むと思ったら大間違いですね。後、彼の会社とも話をつけました。謝罪として、お金を提供してもらいます。バレたら逮捕ですね〜」
波角さん、うちの兄がすみません。本当にごめんなさい。
「よし、外れました。もうこれで良いですね」
「あのぅ...首輪は?」
「え? 私的には、その非道徳的な首輪は良いと思うのですが...」
「外してください。私は嫌です」
ただでさえ抱き枕なわけで、私はペットにまで成り下がりたくない。
「さぁて、帰りましょうか」
家に戻った。波角さんの姿はなし。病院送りって本当だったんだね...。
黒川さんは家に戻って私をベッドに入れると、一回だけ強く抱きしめてから部屋を出て行った。少し用事があると言っていた。
黒川さんが夜に私を抱き枕にしないなんて珍しい。普段、黒川さんは夜仕事もしないし用事も作らない人なのだが、一体なんだろうか? まぁ明日聞くか。
こうして、黒川さんの抱き枕にならない貴重な一夜を私をゆっくり堪能した。
翌日、
「ねぇサリン。サリンは、接客とか出来ますか?」
「接客?」
この日は祝日で学校は休みだった。黒川さんは、何時の間にかベッドに横になる私の隣に居たわけだが、何だか機嫌の悪そうな顔をしている。
「出来ますよ一応。苟も、バイトしてましたからね。お店で」
「うーん、水商売とか無理ですよね?」
「無理ですよ。子供ですから」
「あぁ、そうですね。すみません、何となく聞いてみただけです」
流石にキャバ嬢とかやってたわけじゃないから、水商売は無理。...黒川さんは私に何させようとしてんですか...。
「そういえば、昨夜は何処へ行っていたのですか?」
「あぁ、犬飼さんは覚えていますよね? 仕事仲間の」
「修くんのお兄さんですよね。勿論覚えてますよ」
というか、忘れろという方が無理な相談。ーー話では出さなかったけどーーあの取引が中止になった日、私が警察に情報を流したんじゃないかって犬飼さんも疑ってて、黒川さんが私にナイフを押し当てる前に、私を銃で撃とうとした人です犬飼さんは。
「彼に誘われて、銀座のクラブに行ったんです」
「へー。黒川さんそういう趣味がーー」
「死にたいですか?」
「い、いえ...」
く、黒川さん...毛布の下から銃を突き付けないでください怖いです。
「そのクラブは、『チェリー』というのですが、『黒川組』のクラブでもあります」
「あーあれですか? 上納金とか受け取りに?」
「えぇ。そこで、犬飼さんが酔って、サリンの事をペラペラと喋りまくったんですよ...」
あー、何て事するんですかー。
「それで、犬飼さんにベタベタしていたホステス達が、サリンに会いたいと言い出して...」
「はぁ...」
「犬飼さん調子に乗って、今度連れて来るって言ってしまったんです。そこで本題なんですが...」
「私行かなきゃいけないんですか?」
「いいえ。絶対に行かせません。私のサリンを、あんな女共にぐちゃぐちゃにされたくありませんからね」
ぐちゃぐちゃって...。でもそれが本題でないのなら、一体何?
「実は、そのクラブに警察官が数名来ていまして...犬飼さんが喋っていた事を全て聞いていたようです」
「...」
あ、そうですか。警官さんが聞いてたんですね。
私が心の中でガッツポーズをしていると、黒川さんは私をギュッと抱きしめた。
「これはマズいです。サリンが警察につきまとわれます」
「何でマズいんですか? そんな事前にもあったじゃないですか...」
「うぅ...犬飼さんが、私がサリンの事を何よりも大事にしていると大声で喋りまくったんですよ...。戸籍を弄ったとはいえ、貴女は血縁上私の妹ではない。もしサリンが警察に捕まったりしたら、私は言う事聞くしかないんですよー」
黒川さんが泣きそうな声で言った。
というか、血縁上妹ではないとか関係なくない? っていうか犬飼さん、貴方何してくれちゃってるんですか。折角平穏が訪れたというのに...。
「というわけで、しばらく学校は休んでください」
どういうわけだよ。