食べたかったんじゃないんだ
食べたかったんじゃないんだ
子供時代、お堅い家庭で育った九藤はたくさんテレビは観られませんでした。親がテレビの前に、ガードマンのように立ちはだかったのです。
理由は目に悪いから。
おかげさまでと言うべきか、今現在、裸眼で日常生活を営めております。
少ないテレビ鑑賞時間が九藤に与える影響とは大でして、CMなどももちろん。
その日、九藤の家には九藤の父の兄、つまりは九藤の伯父が遠方からいらしてました。
リビングで両親と談笑。
小学生の九藤は台所で、ガラスコップに入った牛乳を飲んでいました。
ガラスコップだったのが災いしました。
プラスチックとかなら良かったんです。もしくは木製とか。そしたら悲劇、またはコメディは発生しなかったでしょう。
牛乳を飲みながら九藤は思い出したのです。余計なことをっ。
「そういやCMで、女の子が笑いながら牛乳を飲んでたな、よし!九藤もやってみるぞ!」
やってみました。
口の両端を釣り上げ、歯が(誰も見てないのに)見えるようにして、牛乳を飲んでみたのです。
結果としてガラスコップを歯で噛み砕いてしまいました。
何も知らずリビングで談笑していた大人たちは、台所から聴こえた「ベキャッ」という破壊音に(当たり前ですが)驚き、話を中断してすっ飛んで来ました。
そしてそこに、砕けた透明なガラス片の中に茫然と佇む九藤を見たのです。
みなさんびっくり。何度も言いますが当たり前です。牛乳もちょっとこぼれちゃいましたし。
怒られるより先に、口を切ってないかガラスを飲んでないかと心配され、九藤は洗面所で何度もガラガラペッてしました。
笑い方が良かったのでしょうか、九藤の口は無傷でした。
無傷ですまなかったのはガラスコップだけでした…。
なぜそんな事態になったのか。
大人たちに尋ねられた九藤は、恥ずかしながら理由を述べました。
なまぬるう~く、笑われ微笑まれました。ばつが悪かった。
お腹が空いてたとかそういうことではないのです。
ちょっとした、ちょっとした、可愛い出来心からの愚行なのです。
CMの真似を安易にしてはいけないのだとその日学びました。




