ETとの出逢い
ETとの出逢い
彼もしくは彼女もしくはそのどちらでもない、その個体は、雨降るとある大きな神社の蚤の市の一角にじっと座っておりました。
それを人は「ET」と呼ぶ。
そう、あの映画のETのぬいぐるみ、身の丈五十センチほど、がお店の棚にぽつねんと座っていたのです。
グレーのふかふかした身体。品の良い体つき(九藤視点)。何より知的な青い瞳が九藤を魅了しました。
他に置いてある人形たちはもう少し世間受けしそうな物だったと思います。よく憶えていませんが。
なぜなら九藤のハートはETに鷲掴みされていたからです。お店の方、グッド・チョイス。そんな攻めの姿勢、九藤は好きです。
き、君はもしや九藤を待っていたのかい?
ETはあのしゃがれた声で、「ク~ド~オ~」、とは言いませんでした。残念ながら。
そしてもっと残念なことにETの腕にはケチャップのような染みまでついていました。
ああ、と九藤は心の中で悲しく呻きました。
ぬいぐるみに清潔感は不可欠。
九藤の信条です。部屋を散らかす九藤ですが、いや、ゆえにこそ!そこは譲れないのです。
例えこのETをお持ち帰りしたとしても、クリーニングに出さなくてはならない。
するとお金が余計にかかる。
ただでさえ値札がついてないのが怖いところなのに!
九藤は葛藤しました。
その間もETはずっと青い目で静かに九藤を見つめていました。言うなれば禅の境地に通じる茶道を極めた人はこのようであろうか、と。実に泰然自若とした構えでした。
そして決断の時は来ました。九藤はふかふかしたETを元の場所にそっと置きました。
「さよならだよ、ET」
心の中でお別れを言いました。ちょっと束の間、少年エリオットになった気分だったかもしれません。
そしてぬいぐるみ通の友人に即、これこれこんなETのぬいぐるみの情報求む、のメールを送ったのでございます。
いつの日かまた、ETに出逢えることを九藤は願っています。