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フユイチゴ惨敗記と「パネエ」

 疲れました。


 のっけから何を言ってんだ、てな文ですみません。


 九藤、野生の力にノックアウトされてとぼとぼ帰ってきたんです。

 

 奴の名は、フユイチゴ。

 

 その名の通り、キイチゴ属にも関わらず、冬に実の成るバラ科植物。

 トゲは無いけど茎をがっしと握るとチクチクしてしっかり痛い!


 はい、経験者は語る、です。


 おいそれとは触らないように。

 ちゃんと、痛いですからね。


 久し振りの晴れ間、九藤は散策中、これがこぼれんばかりに成ってるのを発見したんです。

 場所は荒れた竹林の脇。

 どうするか?答えは一つ!


 摘んで食べます。

 いえ、帰って、水で洗ってからです。


 でもあんまり見事に実をつけていたので、茎ごと一本、折って失敬しようと思ったんです。

 ここでたくさんの突っ込みが予測されますので、前もって謝っておきます。

 ごめんなさい。なんか謝ってばかりじゃないか、九藤?


 まあそれで(どれで?)。

 茎をがっしと掴み。

 小さな毛虫がいましたが、知ったこっちゃないです。こっちはうまそうな果実がかかってんです。持って帰って家人にもドヤ顔で自慢したい!


 でもね。

 ちぎれないんですよ。

 ちょうど爪が伸びてたので、茎に爪で切れ目を入れても。

 それでも茎は、折れません。

 これが人の心なら大したもんです。


 あ・ま・り・に・も、


 折れてもちぎれてもくれないので、九藤はだんだん、変な心境になりました。


 例えるならばメロドラマの。

 金に物を言わせて好きな女性と結婚式を挙げたはいいが。

 彼女は九藤を見向きもせず。

 あなたに手折られるくらいなら舌を噛んで死ぬわと言う。

 そんなにお前は俺との結婚が嫌なのか・・・・・・


 そんな妄想劇場が、九藤の脳内で繰り広げられました。


 そして、某和菓子屋さんの会員カードや、しまいには百円玉まで持ち出して、茎を切ろうとしましたが。

 九藤の奮闘も空しく、茎は表皮をはいだだけでした。


 あなた蔦植物か!?


 そう訊きたくなるくらいの屈強さでした。

 野生、強い。

 九藤がもっと若ければ、「パネエッ!」とか叫んでたかもしれません。実際にそう叫ぶ人を見たことはありませんが。


 そんで渋々、実だけをちょうだいして。


 はい?


 はい。実だけは、摘んでちょうだいしましたよ。

 負けたのは茎にです。

 九藤は敗れるところにも実だけは掴むのです。

 それから神社に寄ったりもして。

 九藤は膝に疾患があり、ここ数日は湿度が高かったためか調子が悪かったんですけど、意外に長いこと歩けました。


 そして神社の石碑に書かれた土地の名前の由来に呆れたり。


 何でも、昔の貴族さんが立ち寄った時、「月が見えねえんだよ!」と言ってあたりの樹を伐採させて、一晩中、琵琶をかき鳴らしたのだそうな(九藤解釈)。


「…アナタナニシテンダ?」


 人を言えた身ではありませんが、九藤はそう思いました。

 ロック魂かもしれません。今であればきっと、ライブハウスにおられるような方でしょう。

 石碑にも風流ぽい行いだとありましたが(九藤解釈)。


 そのためだけに森林伐採!!


 おののきました。

 平安朝の貴族は毎夜の宴に松明(たいまつ)をどんどん使って森を丸ごと一つ消した、と学生時代に聴いたことを思い出しました。


 これもある意味「パネエッ!」です。


 フユイチゴを入れた袋を手に、石碑を読みながら、「パネエ」ことの多い世界だなあ、としみじみ思いました。


 帰り道、民家の塀からミニトマトの実が突き出しておりました。

 先日、作品に「塀からこちらは皆の物です」という台詞を書いたことを思い出しましたが、もちろん素通りしました。

 フィクションはフィクションです。


 けれどもっとわか(ばか)かったならどうかわからない。

 などと思ったり。

 散歩に剪定ばさみは必須と痛感したり。

 そんな「実のある」散策でしたとさ。



挿絵(By みてみん)





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