思いやりの省エネ
思いやりの省エネ
九藤はスーパーにお買い物に行きました。
そのスーパーのレジでは、お支払いの前に。
「袋、ご入り用ですか?」
そう丁寧に訊いてくれます。
九藤はマイバッグを持参するので、訊かれる前に、「袋、あります、」と、レジの方に声をかけるようにしています。
そうすると大抵は、「ご協力ありがとうございます」とにこやかに言ってくださいます。
エコ。省エネ。
環境対策です。マイバッグを持ってない場合、有料の袋を買うことになるので、そろばん勘定が皆無とは申せませんが。
今日のレジの女性は、先日、九藤が「袋、持ってます」と言った時、無言で通した人でした。
九藤は、無言で買い物カゴを置きました。
女性もやはり無言でした。
「袋はお持ちですか?」とも訊かれません。
お買い物のお釣りは八千五百円になる計算でした(九藤がお金持ちなのではありませんよ?たまたまです)。
しかしレジのお釣りの表示は八千四百八十円になっていて、九藤は首を傾げました。
どうやら、一万円札と一緒に置いた二十円を見落とされたようなのです。
女性は少ししてそれに気付き、二枚の十円玉を見ました。
「あ、二十円ありますね。それだと…」
「五百円になりますね」
九藤は怒ってはいない、でも明確な声で告げました。
こうした場合、九藤はまず、人は間違うものですから気にしないで~、ぽく相手に対応します。ミスした人は(特にお客相手に)、ひどく恐縮される方が多いですから。
けれど今回は、あえてフォローするような態度は取りませんでした。
もし九藤がそうしたら、彼女は気が咎めることもなく、フォローに乗っかるであろうと思えたからです。
女性は悪びれると言うより、「あら、やっちゃったわ」てな感じで。
機械のように働くとはよく聞く言葉ですけど、本当に機械のような心で、他の人の生身の心に漫然と甘える感じは苦手です。
彼女の心の代わりに、他の人の心が使い減らされるのです。
がむしゃらで辛くて余裕がない人に、余裕のある人がそれをおすそ分けするのは、いいんじゃないかと思います。
助け合い精神ウェルカムです。
けれど、がむしゃらでもない、ただ出来るだけ楽したい、て人に心や手間を割けるほど、九藤は大きな人間ではないのです。
袋の省エネもしましたが、九藤は思いやりの省エネもしてしまいました。
でも、思いやりの省エネの悪循環って悲しいですよね。
 




