儂もおどろいたが鷲もおどろいた
昔々、あるところに九藤という、へんてこりんな生き物の、まだ子供がおりました。
家の人間がみな出払い、退屈だった九藤は、彼らの帰りを待ち侘びておりました。
九藤はマンションの三階に住んでいたのですが、玄関の外に出て、コンクリに立って家族の帰りを待つこと頻り。
ついに待ち望んだ足音が下から聴こえて、九藤は嬉々としました。そして、九藤の心に湧いたいたずら心。
こっそり隠れ、飛び出て、わ!!と驚かしてやるのだ。くっくっくっく。やつらはどんな顔をするだろう、くっくっく。
九藤は、足音が近づくのをドキドキしながら待ち、すわここぞ、とばかりに「わ!!!」と大声を上げて相手を驚かせました。しっかり、びっくりと。
相手は「うわっ!!!おっどろいた!!」と叫びました。
全然、知らないお兄さんでした。見たこともなかった。
浅はかで子供だった九藤は、足音の主が家族以外である可能性などこれっぽっちも考えなかったのです。
九藤は、茫然としました。ただただ、茫然と隣家のドアに消えるお兄さんを見ていました。あまりに茫然としていたので、謝ることすらできなかったのです。
若き日の過ちでした。