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古代叙事詩  作者: 猫田33
深緑の女
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9.女神の罰

男達は静まりかえったが鳥の羽ばたきで我にかえった。こんなところで止まっている場合ではない。問題は、次に誰が行くかだ。


「次は、俺が行くぞアミン。イカルが行けたんだ。俺にも行けないはずがねぇ」


「ファム…!」


「行かせてくれ」


止めるアミンを押さえてファムが湖へと足を踏み入れた。足を踏み入れたのをみて踏ん切りがついたのかアミンは引き下がる。

それからアミンは、転ばないようにか足元を気をつけながら進んでいった。


だがやはり花の前まで行くと躊躇するようで動かない。摘み取るファムに殺人のがあっても摘み取ろうとする花に罪はない。

なぜこれが罰だとあのエルフの女はいうのだろうか。

だがこの罰をうけねば己の主たるアミンの元へ帰るわけにはいかない。イカルはなんともなかったが自分も同じとは限らないのだ。


「アミン、俺はお前に仕えられて誇りに思ってる。お前がそんなことないっていっているが、お前が長になったら一族は絶対によくなる」


「ファムの旦那、突然なにをいいだすんです。まるで死ぬ間際のようですよ」


「死ぬつもりはないが万が一のことがある。アミンを頼む」


ファムが花に手をかけると、一人の天使が微笑んでいる。美しい黒髪に虹色の翼の天使でおよそこの世の人物のものではない。

ファムは、偶像を崇拝する宗教ではなかった。だがあの天使を像でもいいから見られるならば鞍替えしたいと思わせる。


「生きてる…!ファムの旦那が花を摘み取っても生きてるぞ!!」


湖の端にいた連中はおおはしゃぎでファムを出迎えた。だが本人は考え込む様子で空中を見つめている。


「どうしたんですか。ファム」


「黒髪に虹色の翼が生えた天使が見えた」


「たぶん戦天使長のクロカでしょう。戦いに関する天使ですが…なぜ現れたのでしょうね」


ジャオはクロカについて考えこみはじめた。明らかに何かがおかしいとジャオの本能が囁くが理由なんてわからなかった。


「そりゃあ、ファムが戦士の中の戦士だからだろう。天使の加護があるなんてさすがだな」


「敵だと悪魔だと思うが味方だとこれほど心強い御仁はいないっすからね!」


鼻息荒くイカルが自信満々に言っているが等の本人からすれば非常に不服な内容である。


「おい、イカルお前そんな風に思ってたのかよ」


「あっ、不味いや」


「イカルの奴を怒るのは後でも出来る。アミン…次行くんだろ」


「次こそは私がいきましょう」


アミンが今度こそ自分が行くと言い出した。今度は止めるつもりがないようで落ち着いた雰囲気だった。


「いや、次は俺が行かせてもらう」


「ガジャル殿が行くのですか」


「俺が行ってなんか問題あるのか」


ガジャルは、この中では異質な存在だった。

見た目は、他の男達と同じで浅黒い肌に茶色の瞳をしていて細身ながらもがっしりしている。


だが決定的に他の男達と異なるのは、ガジャルの目付きだ。常に余裕があり自分が上位者だという優越感に染まっている。

こんな状況で不安になっているがガジャルの表情は、変わっていなかった。


「いいえ、何もありません」


「ならいいよな。行かせてもらうぞ」


ガジャルが湖に足を踏み入れる。

ところがいままで引き留めもしなかったジャオがガジャルを止めた。


「待ってください」


「なんだあんたも止めるのか」


「私からは忠告を一つ。ツインズ聖書の"女神の呪い"について知っていますか?」


「知ってるに決まってるだろ」


「ならかまいません」


ガジャルは、ジャオを馬鹿にしたように嘲笑うとザブザブと湖へと足を踏み入れる。このときガジャルの頭には、罪や罰のことなど残っておらず不老不死の実を手に入れたらどうするかということだ。

不老不死になる実を族長に献上すれば確実に最高の地位を得られるだろう。もしくは自分が食べてもいいのだ。老いることも死ぬこともないなどなんと素晴らしいことか。


「これがそうか」


花は水面に浮き輝いていた。前の二人の馬鹿は、実をとらなかったようだがなぜこんな花程度に躊躇するのか。

屈んで茎の下を触ると茎とは異なる触感のものが手に触れた。たぶんこれが実だろうと思いきり引っ張った。


「これで俺は不老不死だ!」


ガジャルが立ち上がると嘲笑うかのような笑い声が響いた。それはガジャルの手に持っている花の根から発せられており根だというのにその形は狂気に狂った人間の顔のようだった。


その顔に驚いていると自分の足が湖へと沈んで行くのが見える。ズブズブとゆっくりふくらはぎが、膝が、腿が沈んでいった。


慌てて岸へ戻ろうとするが暴れるほどに沈むのが早くなる。


「たっ、助けてくれ!助けてくれれば族長に話をつける!!」


ガジャルが必死に手を伸ばすが誰も助けようとしない。気の毒そうに見るもの、親の敵のように睨むもの、ただ見ているだけのもの。

唯一助けようとしているのは、あの方に命じられ殺そうとしていたアミンのみだった。忌み子に押さえつけられながもこちらに手をのばそうとする。


「なぜだ…!」


「あんたが天国に行くか、地獄に行くかしらねぇがあの世でちゃんと死天使の話を聞け」


「俺は…死なん…!」


死にたくないと足掻いたがとうとうガジャルは、底無しと化した湖へと引きずり込まれた。完全に暗闇に閉ざされると"女神の呪い"が脳裏によぎる。

罪深きアマルティアは、悪魔の誘惑に負け食べてはいけない実を食べてしまった。実を食べるとアマルティアは、知性に目覚めみずからの感情を理解した。

それと同時に一つだった体が二つに別れ原初の男アマルと原初の女ティアが生まれた。二人は、女神であるシャルトラを愛していたが半身たるお互いに惹かれた。

それを知ったシャルトラは破壊神としての本性を現し、寿命の概念のない天界から二人を落としこの地上に住まわせたのだ。


(あの実は…誘惑に負けて取ってはいけない実。落とされた先は、この世界だったがこれより下にいけばどこにつくというのだろうか)


肺から最後の空気を吐き出すとガジャルの意識は、最後に聞いたあの根の笑い声が聞こえてからぷっつりと消えた。






「これが試練…?」


呆然とした様子でイカルが呟く。他の全員も同じようでガジャルが沈んだ辺りを見ていた。


「邪な考えがあれば彼のようになります。次に行くのは誰ですか」


「なら今度こそ行きます。かまいませんよね?」


「順番などありませんからお好きにどうぞ」


アミンは、頷くとゆっくり湖へと足を踏み入れる。たどり着いたようだが花を摘むにしては姿勢が低い。


「アミン!」


ファムに呼ばれるとアミンは、花を摘み取った。アミンは、岸まで戻ると不思議そうに花を見ている。


「この花を間近で見ると根をとりたくなる誘惑に駆られますね…」


「そうですか。次の方お願いします」


このあと、受けた半数が戻ってきたがもう半数は湖に沈んでしまった。


「残ったのは4人か…なんでアトラとクジャイ、ガイは根を獲ろうとしたんだ…」


「その理由は、後で教えましょう。急がないと夜が来てしまいます。森に慣れない貴方たちを野宿させるわけにはいきません」


試練は終わったとばかりにジャオは、急いでその場を後にしようとする。この大きな森で置いていかれると困るので全員有無を言わずに帰った。


夜になると水面から4本の花ドラ・メディアーマが姿を表したが誰もそれを知らない。

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