表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古代叙事詩  作者: 猫田33
深緑の女
7/15

7.道中にて

村に近い森は、適度に木が切られ視界が明るい。だが奥へ行くほど木が太く間隔が狭くなっていき暗くなってきた。その中をジャオ達は、女神の裁きを行う湖に向かって歩いている。ジャオは、後ろの男達が遅れていないことを確認しながらさらに進んでいった。


「湖はまだなのですか」


アミンがジャオに尋ねる。その顔には、疲労がみられた。ジャオは、さらに後ろを見ると他の男達も似たようなものだった。


「あと少しです。つらいですか」


「少し」


「さすがは頭脳派のアミン様。我々みたいな肉体労働が苦手みたいですなぁ」


アミンにへりくだりつつも馬鹿にした言い方をしたのは、ヨルドというニヤニヤした表情の男だ。このヨルドという男は、なぜかやたらと色々な人物に喧嘩を売っている。この男達の中で一番偉いらしいアミンのいうこともあまり聞かない。


たぶんこの前の話で出てきた序列が関係しているのであろうとジャオは思っている。推測だがヨルドは序列の高い人物の部下なのではないか。だから序列の低いアミンの言うことを聞かない。


「まぁ、湖はまだ先ですからここでいったん休みましょう。好きな場所に座ってください」


「はい」


座ってよいと言った途端に崩れ落ちるように座り始める。ハーフエルフであるジャオにとって森を歩くのは散歩のようなものだ。だが男達は、整備されておらず根や折れた木ばかりの道がきつかったようだった。


「果汁水です。全員に行き渡るように飲んでください」


ジャオは肩掛け鞄から水筒を4本とりだし渡した。男達は8人なので半分ずつ飲めば行き渡らないことなどない。


「あんたのそのローブなんでそんな派手ないろなんだ?その色は目立つだろう」


「お互いがいることを知るためです。猟をするとき間違えて射らないようにこういう色を着て相手に知らせるんです。もし茶色や黒といったローブだと熊と間違えられても仕方ないですからね」


「熊とはなんですか?」


ジャオは熊がわからないと言われてなんて説明すればいいのか困った。


「熊は大きくて鋭い爪とどっしりとした体を持っています。

でも実は臆病なので敵意を向けたり子どもの近くにいなければ安全です。

ただ狂い熊が出たときは男衆が罠と弓で戦わないと勝てませんね。出くわしたら目をあわせて後ろを向かずゆっくりと後ろに下がってくれれば大丈夫です」


「わかった」


危険性と対処法だけを知っていれば問題ない。ジャオとしては、今のところ罪人とはいっても殺したいわけではないのだ。森が人の血で汚れると熊や狼が血に狂う。普段はよりもしないのに人間の血肉欲しさに襲ってくるようになる。そんな獣達を見るのがジャオは嫌だった。


「熊というのに出会わないことを祈りましょうかね」


「そうですねぇ…」


「ジャオさーん、こいつに何かあげてもいいっすかぁ?お腹空いてるみたいなんすよね」


小太りで背の小さい剽軽(ひょうきん)者のイカルが腕に黒いものを抱えている。明るく性格のよい人物であるがどこか抜けているのだ。


「イカルさん、その子をもといた場所に戻してきてください」


「戻しますけど何か食べ物あげてからじゃだめですかね」


「あなたが持っているのは熊の子どもです。親に見つかる前に早く置いて来ないと駄目なんです」


「熊?」


イカルが首を傾げそのイカルの真似なのか小熊も首を傾げた。小熊の真似っこがとても可愛らしいが親熊が近くにいるかもしれないので安心できない。


「イカル早く置いてこい!」


「わっかりやしたー」


そんなイカルのはるか後ろに黒い生き物がいた。二本足で立っているが周りの木と比べるとその生き物がジャオ達よりもだいぶ大きいことがわかる。その生き物は、ジャオ達の方を向くと腕を前に出し四つ足になると恐ろしい勢いで近づいてきた。


「なっ、なんだありゃあ!」


「あれが熊よ!小熊を盗られたと思ったんだわ。早く離して逃げないと…!置いたら着いてきて!」


ようやくイカルも状況を理解したらしく小熊を離した。そしてジャオを先頭に8人が着いてくる。ジャオは、なるべく走りやすい場所を通っているが木の根や石、枝の低い木にひっかかり後ろが思うように進まない。


なんとか少し開けた場所に着いたのでそこに止まった。熊の位置に対して風下にあたる場所のため、視界上に姿を見つけることが出来なければ撒けるはずだった。


「たぶん…もう行ったかしら」


追ってくる足音がしないことと、子どもがいるので子どもさえ無事ならば追ってくる理由も無くなるはずだ。


「助かりました…」


「イカルさん、あんた勝手に色々拾うなと言ってただろう」


「すまねぇ、次気をつけるさぁ」


そして今度こそしっかり休みをとると湖へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ