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古代叙事詩  作者: 猫田33
深緑の女
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6.罪と罰

それから幾日と経ち、憔悴していた村人も活気を取り戻しつつあった。だから捕まえた男達の処分についての話し合いが行われたのは自然な流れということか。


その日は、料理をする一部の女以外は、村の広場に全員集まり隣同士で話をしていた。こういった処分に関して村では、全員集まり意見を述べることになっている。もちろんその場には、ジャオとフェイもいて皆の言葉に耳を傾けていた。


「皆集まったようだな。それでは始めよう、意見のあるものは手をあげよ」


村長が現れ話し合いが始まった。次々と意見があがるが襲撃者達を殺すべきだと言うものや襲撃者の後ろにいると思われる砂漠の悪魔が怖いので、ここで恩に着せて返してしまったほうがよいという意見も少数ながらある。中には、奴隷にして働かせればいいのではないかという処刑よりも過激かもしれない意見をいう人物がいた。


「最後にジャオ殿とフェイ殿の意見を聞かせて欲しい」


ジャオに村人の視線が集まってくる。それは期待であったり観察する目であったり様々で、自分の意見によっては今後付き合いにくくなる人も出てくるだろうことが予想された。


「私は」


決定的なことを言う前にジャオは、己に向けられた視線に声が出なくなった。その頭によぎるのは村人達と襲撃者の顔である。頭では村人を殺した襲撃者達を殺すべきだとだしているが、心は砂漠のつらい生活を良くするために無我夢中だったのだろうと同情していた。だがこれは襲撃者に与えられる罰の話しである。

まったく罰がないということも…問題であった。


「悪いことをすればそれ相応の罰が必要だと女神シャルトラ・ドラフィリア様はおっしゃいました。だから盗人ノアルは、女神の伴侶ホルンを盗んだ罪で子を生む時痛みに苦しむことになりました」


「ジャオ殿それは、襲撃者達を処罰し死刑にするということなのか」


「いいえ、私は襲撃者たちを死刑にしないで苦役を与え苦役を終えたのちに彼らを郷里に返します」


「それは軽すぎる!殺された私の息子は…ギギがどんなに痛かったか…辛かったか。ジャオさんは悔しくないのかい!」


ジャオの言葉を遮ったのはギギの母だった。あの襲撃で殺された人物の中にはギギもいて、エルフの居場所を吐かなかったがために見せしめに殺されている。昼に魚と交換で野菜をもらったのが最後の会話になっていた。


「シャルトラ・ドラフィリアは、創造と破壊の女神です。女神は、破壊の力をもってノアルを滅ぼすことが出来たのにも関わらず痛みという罰で許した。ならばこの村で起きたこの悲劇もまた同じことです。死は一瞬ですが苦役を与え自らの罪を認めた時こそそれがもっとも思い罰となる」


「罪を認めなかったらどうするんだ」


「死後償うこととなるでしょう。女神の子、天使が罪を罪として償わせる。これでは駄目でしょうか。怒りは収まりませんか」


村人達は、皆が皆黙りこむ。ジャオが言ったものは、襲撃者の行ったことに対してずいぶんと軽いものに思えただろう。だが死刑というのはジャオの中の何かが嫌だとじりじり苛んだ。そのときにフェイが言い出した。


「ジャオが言うような償い方もあると頭に入れて欲しい。私たちエルフは、元々血を好まない。例え血がみることがなかろうと必要性がないのに殺すというのが好きではない。私もジャオの意見に賛成だ」


「フェイ殿おっしゃる意味がわからんのですが。村人が襲われ殺されたのですぞ」


「殺された人物は、戻りません。だからいま生きている私たちが今後どのように生きるのかという選択でもあるのです。

壊された建物や逃げられた家畜を捕まえることを条件に開放する。これの利点は、労働力の確保とこれから訪れる冬の時に食料を渡すということをしなくてもよい点です。

すぐに殺すというのは殺した後のことも考えるのですよ。死体を弔うことなく放置するとアンデットになりますから。

それと奴隷というのは必要最低限食べ物が必要になるはずです。いま残っている食料は、彼らを奴隷にしても足りる量ではないはずです」


フェイの淡々とした説明に村人がだんだんと静かになっていった。ただ一人ギギの母のみがフェイとジャオを強く睨み続けている。


「私はそんな理由で納得なんかしません!あなた達は悔しいと思わないのですか。ギギの名付け親は長老だし、ジャオちゃんだってうちの息子が小さい時よく遊んでくれただろう…?なんか言っておくれよ!」


ギギの母の言葉を瞳を閉じてフェイは、耳を研ぎ澄ませているかのように聞いていた。その様子をただジャオは、黙って見ていた。


「これから村を率いていけるギギのような若者が先に行ってしまうのはとても残念なことです。この村は、森に恵まれている。でも冬の生活が辛く、獣の危険があり、常に変わらぬ生活に飽きて、同じ年頃がいない者はこの村を出て外に出て行ってしまう。そんなところでギギがここに残り己の役目を見つけ根差そうとしていたのは、この村に300年ずっといた私は見ていたよ。だからなぜこの村に留まったのかもわかっています」


「村に留まった理由は…!」


ギギの母は、そこでジャオを強く睨みつけた。突然向けられた殺気とも怒気ともつかない強い意思にジャオは、身が竦んだ。


「ジャオ落ち着きなさい。精霊が戸惑っているよ」


ジャオが周りを見ると周りにいた精霊たちが、ジャオの戸惑いに感化されて明滅を繰り返し飛び回っていた。深呼吸をしてジャオが落ち着くと精霊は飛び回るのをやめ漂う。


「あなたも落ち着きなさい。ギギがいたら確実にあなたのその行動を止めるはずですよ。ずいぶんと奥手な子でしたからね」


「そうかもしれないけれど、あたしは悔しいよ。大事な息子を奪われて夫もいないっていうのに。せめてあいつらに報いを与えたいじゃないか」


いつもつけているエプロンでギギの母は、顔を覆い涙に濡れている瞳を隠した。息子は大きくなっていたが旦那に先立たれ不安に思うことが多かったはずだったが耐えていた。息子の成長と幸せ、そして孫を見ることが夢だったのだ。


「優しいメイベル。大事な子を亡くしたばかりだというのに辛いことを聞かせてごめんなさい。でもメイベルが乗り越えてくれることを信じている。私はたくさんの死を見てきたわ。でもそれと同時にその死を乗り越えてきた人もたくさん見てきた。だからこそギギは、自分の仇をうってもらうよりもメイベルの幸せを願っていると私は思っている」


「だから許せというの?それがとても残酷なことだとわかっているだろうに。あたしが何をしたというんだい…」


「わかってる。でもこれが一番良い方法だと思ったの。昔のよしみで今回は許してほしい」


メイベルは、しばし考え込み思いついたのか村人に聞かせるかのようにまっすぐと背を伸ばし口を開く。ジャオは、優しくて泣き虫だったメイベルがどんな答えをだすのか母のような眼差しで見つめた。


「わかった、でも条件があるよ。その条件ができたらあの連中を許す」


「聞きましょうメイベル。あなたにはその資格がありますから」


「“女神の裁き”に行ってもらう。それが私の条件だよ」

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