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古代叙事詩  作者: 猫田33
深緑の女
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4.美味しい食事

朝になり日が指すと村の酷い状態が浮き彫りとなった。何軒かは完全に焼けて一から建てねばならないし、家畜が逃げてしまっている。獣に食われるか野生化してしまうことが目に見えているので、無事にすべての家畜を連れ戻すのは不可能であろう。


「冬を越せるかしら…」


心配気なジャオの言葉に周囲が点滅し始める。ジャオは、まるでその光が言葉でも発しているかのように表情を変えていった。


「ジャオちゃん、精霊さんとお話?」


「うん、そうだよ。ルルちゃんは、お腹空いたのかな」


村で最年少のルルは、昨夜の騒ぎがあってもいつもどおり起きてきたようだった。本来なら村人が起きてきて朝ごはんを作り始める時間だが昨日の騒ぎでだいぶ疲れている人が多い。


「私じゃなくてモコがお腹すいたって言ってるの」


ルルが手に持った妹分の人形を見せて言う。人形がお腹が空いたということはないがお姉さんぶりたい年頃なのだろう。人の世話をしようとするのは偉いのでジャオは否定せずに褒めようと思った。


「それじゃあモコちゃんとルルちゃんに朝ごはんを作ってあげようね。うんと美味しいの作ってあげる」


「ありがとうジャオちゃん、モコもありがとうって言ってる」


「あらそう?ならお利口さんのルルちゃんにお手伝いして欲しいけど出来るかな?お家の薪を10本くらいここに持ってきて欲しいな」


「やる!」


ルルは元気よく返事をして駈け出していった。たぶんルルが一回に持てる薪の数は、1本か2本なので食材の準備や下ごしらえの時間は充分にある。


「村のみんなの分も必要だからいっぱい作らないとね。作るなら具沢山のスープとたぶん芋かな」


ジャオは、焼け焦げた村長宅の中へと入る。大人数用の鍋は、村長宅にあるのでそれを拝借する必要があったからだった。建物が焼け焦げていても陶器の鍋ならば無事であるはずだからだ。実際に探してみると少し焦げていたが擦って落とせば問題のない程度で料理に充分使える。

さらに周辺に海がない村では貴重品の塩も壺に収まっていたので拝借した。塩と周辺の薬草を煮ればほどほどの味になるので、畑から根菜と無事な家から乾物を頂けば腹に貯まるスープが出来上がりそうだった。


「ジャオなにをしているのですか」


「村人全員分の朝食作りをしようと思って鍋を取りに来たの」


「そうですね。確かにいくら大変な目にあってもお腹が空くでしょう。私に手伝えることはありますか」


ジャオは、まさかフェイが手伝ってくれるとは思っていなかったので何を頼むか考える。生粋のエルフであるフェイに頼めることは、血に関係ない薬草や果物などの採集に限られた。


「果物やスープに使う薬草を取って来てもらっていい?」


「わかりました。料理は任せますね」


「うん」


フェイを見送るとジャオは、持っていた鍋に畑で収穫した根菜を入れていく。収穫された野菜は、鍋に入る前に淡い光に包まれると同時に土が落とされ鍋に落ちた。これは、ジャオが収穫した野菜を綺麗好きな水の精霊が洗ったからである。精霊は気が向けば手伝ってくれるのだった。しばらくすると野菜を入れて重くなったが鍋を斜めにしながら地面を転がし運ぶ。


「よしっ、まずは野菜を切ってと」


ポーチから採集用のナイフを取り出すとジャオは野菜を切っていく。ジャオの手伝いのつもりなのか風の精霊も野菜を切って鍋の中に入れていった。だが気まぐれの風の精霊の手伝いなので、大きさがまちまちで皮が残っているがご愛嬌と思ってもらう。精霊の手伝いもあってすべての野菜を切り終わると鍋に水を満たす。


「ジャオちゃん」


「これくらいで大丈夫よ。ありがとうねルルちゃん」


「えへへっ、ルルお姉ちゃんだもん!」


「あとは煮るだけだからモコちゃんと待っててね」


「うん」


ルルは、モコを持ったまま大人しくジャオの手元を見ていた。大人しくしてくれる方が助かる。野菜が切り終わったので水の精に頼んで鍋に水を入れてもらい火打ち石で木に火を着けた。途端にルルが震えだす。


「ルルちゃん?」


「火…嫌…」


「ごめんなさい、ルルちゃん!」


鍋はしばらく大丈夫そうなので、ジャオは震えるルルを抱きしめた。明るい調子なので昨日のことについてよくわかっていないと思っていたが、村が火に包まれ悲鳴が響き渡ったことをしっかり覚えていたのだろう。それなのに火を使い心底怖がらせてしまった。


「大丈夫、怖いことは終わったの。火は、怖いものだけど優しい子なのよ」


「そうなの?」


「そうよ。冬の火は、温かいでしょう?今私たちを照らす太陽も火。それに私たちの中にも火があるの」


ジャオは、ルルの胸を指し示す。ルルは、ジャオの言葉の意味がわからず心配そうに見た。


「火があったら燃えちゃうよ」


「そう、ずっと命の火が燃え続けているの。この命の火は、女神様の贈り物なのよ。私もルルちゃんも、だから火を怖がらないであげて」


創造の女神シャルトラは、自身に似た存在を創るために火を核にし土で体を水で血を風で血を循環させたと伝承されている。これは、幼いころからフェイに聞かされてきた物語。


「私にも火があるの?」


「うん、そうよ。まだ怖い?」


「ううん」


「そう、なら美味しいご飯を食べようね。腕によりをかけるから」


「うん!」


ルルが納得したところでフェイが姿を表した。実はもっと前からいたのだがでてこないで暇を潰しているのを風の精霊が面白おかしく伝えてきていたのだ。出てこない理由はなんとなく想像がついていたがまだそんなことに悩んでいたのかとため息を吐きたくなる。長い時を生きるエルフなのだから仕方ないとは思うが今は、昔と違うということを理解してほしい。


「ジャオ、頼まれたものを持ってきましたよ」


「父さんありがとう。そこに置いておいてくれる?」


フェイが持ってきたものは、狙って探したのだろう疲労や気の疲れを癒やすと言われる薬草がほとんどだった。その薬草は、もちろん料理にも使えるのでスープに入れる。薬草以外のものは、果物でやっと色づき始めたカッキやそろそろ実りの時期がすぎるアプルがあった。果物の数は、少ないので食後に出すのを諦めてまだ小さい子や、離乳食が必要な子優先で渡すことにする。


「それじゃあ、煮ていきますか」


ジャオは、鍋に火を着けてじっくりと野菜に火が通るのを待つ。時折火の加減を見たり水を足して中のスープが焦げないようにしていた。しばらく煮立たせて野菜に火が通ったら薬草を入れてさらに煮る。最後に味を見ながら塩を加えて具沢山のスープ完成だ。


「ジャオちゃん出来たぁ?」


「出来たよ。他の人がまだおねんねみたいだから先にルルちゃんが味見をしてくれる?」


「うん!」


器にスープを盛ってルルに渡す。ルルは準備がいいことにスプーンを持ってきていてすぐさまスープを食べはじめた。


「美味しい!」


「まだまだあるからどんどん食べてね」


ジャオがそういうといい匂いと楽しそうな声に大人たちが起きてきた。一晩経ってもなお顔色が悪いがその目には、生きる気力があるのをみてジャオとフェイは安堵する。そしてやってくる人物に次々と鍋の中身を分けていった。お腹の中に温かいものが入るとどの人もだいたい顔色が少し良くなる。そして予想以上に村人がスープを食べたために第二弾のスープを元気になった奥様方と作ったのは笑い話だ。お腹がいっぱいになると村人の顔に笑みが戻ったのだった。

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