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古代叙事詩  作者: 猫田33
深緑の女
3/15

3.襲撃

村では、建物と人が燃えていた。家畜は、放されたのか不安げな声をあげているのが聞こえる。そして明らかに村人じゃない男達が何人も村の中を探し回っていた。


「耳長族を探せ!耳長族以外の男は殺せ!!」


「酒と食いもんだぁ!」


「若い女は、いねぇのか!」


「ヤー!!」


村にいるのは、300年近く生きているジャオにとって息子や娘そして孫のように思っている人物ばかりだ。そんな村人が次々と殺され捕まる。さらに酒や食料が強奪されるのを見てジャオは、目に熱いものがこみあげる心地がした。あの酒や食料は、寒さ厳しい冬を乗り越え祝うために貯めていったもの。どうしたらこんなひどいことができるというのだろうか。


「あの男達から村人を助けなければいけませんね」


ジャオは、フェイの言葉によりまだこの騒ぎが終わっていないことに気がついた。なんとかしたいけどどうすればいいんだろう。このままじゃ、みんな死んでしまう…。


「父さんどうしよう。みんなが…」


「私が眠りの魔法を全員に掛けます。それと火を消しましょう。ジャオ出来ますね」


「はい」


ジャオが返事をするとフェイは、穏やかに微笑む。そしてそれが合図とばかりにジャオが虚空に話始めた。


「Φίλοι του νερού、村の火を消してくれないかしら。対価は、ダキリーの蜜を壺二つ」


ジャオがそういうと空中の一点が明滅し、火が燃え広がる村に大量の水が降った。襲撃者たちは、雨とも違う現象に顔を青くし辺りを見渡す。


「慌てるな!これは魔法だ。近くに耳長族が近くにいるはずだ。探せ!」


その声に煽られたのか顔を青くしながらも襲撃者たちは、村やその周辺を探し始めた。だがいままで辺りを照らしていた火は、消え失せ月明かりだけが頼りとなっている。


「あそこにも誰かいるぞ!」


「耳長族か!」


ついに襲撃者たちに発見されたがフェイは、詠唱を終わらせる寸前だった。襲撃者たちがこちらを捕らえる前に魔法が完成する。


「Σκοτάδι της νύχτας」


村が闇に包まれるとすぐに闇が晴れた。だが先ほどまで暴れていた襲撃者や泣き叫んでいた村人もすべて眠りについている。これは女神の(カイナ)に抱かれ深い眠りにつく魔法の一つだ。精神に働きかける魔法のため非常に扱いが難しい魔法の一つでもある。


「みんな眠ったよね」


「そのはずですが、油断してはいけません。今のうちに襲撃者たちを捕まえた方がいいでしょう」


ジャオは、頷いて返すと手に持った剣を抜いたまま村へ入っていく。フェイの魔法を信用しているが万が一ということがあるので、慎重に足を進め襲撃者たちを一人一人拘束していく。どの襲撃者たちもここら辺では見られない浅黒い肌しており、薄く長い布を巻き頭を隠している。


「どこから来たんだろう」


この襲撃者の目的が食糧でないことは、建物に火をつけた時点でわかっている。耳長族というのを探していたようだがそんな一族などここにはいない。

などと考えたときジャオは、背中を切り付けられたような殺気を後ろに感じてその場を慌てて飛びのいた。


「逃したか」


そこにいたのは、他の襲撃者と同じように頭に布を巻き浅黒い肌をした男。男は、相も変わらず殺気を放っていたがジャオはいまがどんな時か忘れて男の瞳に見入っていた。

男の瞳は、ダキリーの蜜のようにトロリとして甘そうな美しい黄色だった。それか時折訪れる商人が売っていたコハクという石にも似ている。


「お前耳長族だな。大人しくついてきてもらおうか」


「私は、エルフよ。耳長族という一族ではないわ」


「俺のいた国では、エルフを耳長族という。だからお前に間違いない。お前が大人しく俺達についてくるならばここの連中に手をださない」


「大人しくいうことを聞くと思っているの。Έδαφος τοίχο!」


土の壁が男を覆ったが男の行動を制限出来ず土の壁が粉砕した。


「この程度じゃ効かないな」


「Βέλος του ανέμου!」


風で出来た矢が男に向かって放たれる。矢と言っても小石が当たった程度の衝撃しかないので痛みで剣を落とす程度にしたものだ。矢を落とそうとするか避けようとして時間を稼ぎ次の手を出すつもりだった。だが男は止まる様子もなくジャオへ走ってくる。


「終わりだ」


男は、ジャオを突き飛ばし首に刃を突き立てる。命の灯火を奪う残酷な光がジャオの目に映り、心臓の鼓動を早くさせ神経が研ぎ澄まされた。


「選択はない。俺達についてきてくれればいい。長命で有名な一族だが命が惜しいわけではあるまい」


「それならエルフが誇り高い一族ということも知ってるわよね」


「そりゃあ!?」


男に大量の蔓が絡みつき体の自由を奪う。男が手や腕で蔓を引きちぎるが次々に絡まり最終的には頭以外を蔓で覆われ動けなくなってしまった。


「大丈夫かい?ジャオ」


「父さん!」


ジャオは、幼子の如くフェイの後ろに隠れた。いくら300年生きているとしても死の恐怖が薄れるものではない。頼れる背中があるならば迷いなく頼る。


「ずいぶんうちの娘をいじめてくれたようですね」


「娘…?あぁ、その耳はあんたも耳長族か。だからそっちの嬢ちゃんと同じような歳に見えるのか」


「そういうあなたは“理から外れる者”のようですね。どうやら本気で私達を狙うものがいるということでしょう」


男は“理を外れる者”と言われた時にフェイへ鋭い視線を向けた。


「あなた達の主と目的を教えなさい」


「わっ私が説明します!」


物陰から現れたのは、眉尻が下がったやけに気弱そうな男であった。だが頭はいいのではないかと思う。いままでおとなしく隠れていたことと、さらに揉める寸前に現れて謝罪をするタイミングもバッチリだった。


「ならあなたが説明なさい。妙な真似をするようでしたら…」


「滅相もない!ここから東南の位置にあるジャンナトの長、ジャリル・ビンアリー・アマド様が私どもの主です。この村に来た理由は、エルフの秘技を用いて砂漠をこの森のように緑で覆い尽くしていただきたく…」


気弱な男は、上目使いでチロチロとフェイを見た。どうやらフェイの様子を見ているようだが特にさっきと変わっていない。


「アマド一族は、別名“砂漠の悪魔”と呼ばれる一族だったはずですね。それを考えると本当に砂漠の緑地化が目的というのは眉唾です」


「確かにアマド一族は、砂漠の悪魔と呼ばれています。族長が本当にただ砂漠を緑地化したいだけなのかは私にもわかりません。でも私は、砂漠が森になり飢えることがなくなるのならば、アミン・ジャリル・アマドの名であなた方に偽りを語っていないことを誓約します」


「あなたのその行為がどういうものかを知っているのですか」


「アミンやめろ!名に誓約なんてかけたら…!」


アミンは、男が騒いでいるのも気にせずフェイの問いに頷いた。男は、なおも藻掻き抵抗を続けるが簡単には抜け出すことができない。


「存じています。ただ最低限の信用を得るにはこれくらいしなければ足りないでしょう」


誓約というのはもともと固く誓うことだった。だが誰が始めたかわからないが大事なものをかけて誓うことが主流になっている。これは、大事なものをかけることにより誓約が破られた時に大事なものを失う非常に重い誓いである。実際に命をかけて誓約を行い破ったために死天使に命を取られた男の話まであるのだった。


「父さん、名前に誓約をかけるのは重すぎます」


「それはお門違いですよ。彼は誠意を見せようとしているのです。ここで断っては、彼に対して失礼ですよ」


「でも…」


ジャオは、アミンを見たがずっと唇を青くしてこちらをみるばかりだった。


「相変わらず優しい子ですね。娘に免じて名で誓約をしなくとも信じることにします。それに貴方は、利用されているだけのようですし」


「あの業突張り爺がアミンに族長命令をだしたんだ。アミンは悪くねぇ!」


「業突張り爺とは、アマドの族長のことですか?」


「おう、族長の命令は逆らえねえし。俺を含めた村の役立たずを連れて耳長族(エルフ)を捕まえて来いってさ。捕まえてくるまで村に入れねぇなんて脅しつきだぜ」


フェイは、男の言葉を黙って聞いていた。ジャオは、フェイがどんな判断を下すのかと耳を済ませる。フェイは、ため息を吐いてアミンと男を見た。


「手足を拘束して納屋に入れておきましょう。この者たちの処遇は、村人の安全を確保してからにします。ジャオは、この二人を。私は他の人物をしましょう」


「はい、父さん。Εντολές Πέτρα」


アミンの手に石の戒めをさせた。同じように蔓の男の腕にも戒めを施す。そのときに気がついたが男の腕には、大小いくつもの傷が刻まれておりいくつかは引きつり酷いものまであった。


「お嬢ちゃんにゃ。気味の悪い傷だったか」


「いや、痛そうだと思った。痛くない?」


「餓鬼の時の傷だからいまは痛くねぇな。それにしても本当に嬢ちゃんお人好しだな」


男は、先ほどの死闘が嘘のようにカラカラと笑った。だがジャオは、ずっと嬢ちゃんなどと呼ばれいい気がしない。見た目は10代後半だが歳だけみれば男の何倍も上なのだ。


「その嬢ちゃんというのはなんとかならない?馬鹿にされてるようで嫌だわ。私の名前はジャオっていう名前があるの」


「そりゃ悪かった。俺はファムだ」


「じゃあファムさんとアミンさん。悪いけど自分の足で納屋まで歩いてくれる?」


「わかったよ」


それからは、なんの問題なく襲撃した人物を納屋に入れた。何人か亡くなった人物がおり丁寧に弔いを行う。焼けていない建物に眠った村人を寝かせているうちに朝日が登ったのだった。

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