君の死んだ夏、群青にて秋
「汚いよ」
君がそういうからシニカルな口調で僕が答える
「死んだ奴が遠慮すんなって」
夏が終わる。
少し肌寒く感じるのは、1つの生命が寿命を終えてゆっくりと体温を失う感覚に似ている。僕は前をしっかり向いて歩いている様に見えて、目をつぶっていた。
何かを足下で蹴った感触がして、目を開くと君が横たわっていた。君はクラスの女の子で、僕は密かに君の事を思っていたりした。その君が口からトマトジュースみたいな血を流し、お腹からは市場で見かける様な臓物が顔を出していた。非現実的の程度が過ぎて頭を強く打たれた様な、強い炭酸水を飲んだ様な衝撃が走って背中が痺れていく。真っ青な爽快感が突き抜けた。
しばらくして僕は「あぁ、勿体ない」と口惜しく思って君を綺麗にしようと考えた。そして女の子が臓物を露わにするのは恥ずかしいだろうと思って上手にしまい込んだ。すると、君の顔が少し体温を取り戻した。
「あら、あなたは?」
訝し気に僕を睨む。丁寧に同じクラスである事を話したら、君は少し安堵した様に「そう」と呟く。ポツポツと雨が降りだした、今にも止みそうな小雨が。
「君はなんで死んだの?」
聞くと、君は眉をひそめて思案した。眉の間の皺寄る仕草は君のクセだって事を僕は知っている。よく見るから。
「分からないわ。なんかつまらなくなっちゃって、そしたら生きている実感が薄くなって。ぼんやりした何かがお腹いっぱいになって。気付いたら裂けてた」
君は今も何処か退屈そうに見える。紺色の瞳が遠くを見ていた。僕は君の吐いた血で汚れたその顔を拭いていた。灰色の空はまだ泣いている。
僕の出来る事はほとんど終えてしまった。君がまたゆっくりと冷たくなっていく。死んでしまうんだろうなって静かに心が揺らいだ。心が揺らいで、揺らいだ心が弾けて
「夏が死んだ、僕も死んでる。君を待っているから、世界を楽しくして待っているから死んでないで早く戻って来いよ。つまんないだろ、君が楽しんでなきゃ」
君は少し驚いて僕を見た。紺色の瞳に僕が映る。
「あなたに出会えて良かった」
白い歯を覗かせて笑う。そんな顔を死に間際で見るとはね。
「結構綺麗になったろ?」
「そんな事はどうでも良いのよ」
僕が調子に乗って鼻高く言うと君は眉をひそめて一蹴した。
「すぐ戻るわ。次の夏には戻るからちゃんと見つけてよね」
君がまた少しだけ微笑んで言う。僕が頷く。そうして、君が行ってしまった。君の抜け殻を持って僕は空を見上げた。君の紺色の瞳を少し薄く塗り広げた群青の秋晴れに僕は強く誓った。