生贄とされた少女
生贄のために存在した少女。今、何を思うだろう?
その神社は不思議な造りで、真ん中の庭が「格子」で囲まれた、ちょうど座敷牢のような造りになっていた。なんでも、京の都から十二歳の子供を招いて、御山の神に生贄として捧げた少女の魂を祀ってあるとか……ないとか。
大人でもその中に入ることは「タブー」とされており、いたずら盛りのはずの小学生ですら、一人もそこには入らなかった。
その夕暮れの時間、金城学院の制服を着た一人の女性がある人の助言をうけて訪ねてきた。茶色く染まった髪が風でなびく。
「出雲の血筋は絶えてなかったんだね。どうして教えてくれたの?」
神宮寺月子。彼女は微笑みを浮かべ、格子の奥に居るモノへ語りかけた。あたかもソレが視えるかのように。
『出雲、竜神、大塚。我が談山の恩師からは、大塚の血筋は当に滅びたと聞いていたんでね』
雲蔵寺にある銀杏の木。
樹齢何千年も生きてきた老樹が語り始めた、並みの人間ならばそう見えるだろう。一周して彼女の視界には、銀杏の影があった。
『それにいつ教えたかが問題では無い。これから何をするかであろう』
その影に映った老いた男性の口元がうごく。
彼女は黙って「格子」に指を指した。
すると、たくさんの手が、そう……手だけが
中から格子をつかんだ。
まるで、「出してくれ……」と言わんばかりに。
それはまだほんの始まりに過ぎない。