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じょいふる! Music♪  作者: 一奏懸命
第01章 ダメ金スクール
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第002話 離任と着任


 一見ダラけている周平は、決してこの現状に甘んじているわけではなかった。今年を最後のチャンスだとむしろ彼は捉えているのだった。

 今日は入学式があったほかに、離任式と着任式があった。離任式で、昨年度まで吹奏楽部の顧問をしていた堅物教師・新橋(しんばし) (たけ)()が異動となったのだ。そして、入れ替わりでやって来た明らかに周平たちと10歳も離れていない(新任ということなので、おそらく20代前半)、島崎(しまざき) (だい)()という教師がこのたび、吹奏楽部の顧問に着任したのだ。

 周平はその島崎に期待していた。若いのだから、ひょっとすると自分の考えに同調してくれるかもしれない。そう期待していた。

「今年は何とかなるかもしれへんな」

 そう思い、密かに笑みを浮かべていると背後からキツい言葉が飛んできた。

「ちょっと、雑用係」

 ムッとした様子で周平が振り返ると、部長である(かな)() 愛美(えみ)が立っていた。

「なんやねん。雑用ちゃうわ。美化係っちゅー名前があんねん」

「アンタなんか昔っから雑用しかしてへんねんから、これくらいがちょうどえぇ名前やんか」

 周平はすぐにそっぽを向いた。

「それより、今日の指示先生から聞いてきてくれへん?」

「は? なんでオレが行かなアカンねん。部長の仕事やろうが」

 周平は不服そうに振り向きながら反論する。

「何言うてんのよ。新しい先生が来はってんで。会いたい思わんの?」

「全然。どうでもえぇわ」

 周平が立ち上がり、部室を出ようとしたときだった。

「金木部長は新入部員にこの部の伝統を説明するために大変お忙しいんです。ヒマな先輩が行くべきやと思います」

 完全なる愛美の腰巾着である2年生代表・(さくら)()智香子(ちかこ)がドアを塞いだ。この櫻井のことが周平は苦手を通り越して生理的に受け付けなかった。彼女と喋るくらいなら、雑用をしているほうがマシだと思うほどであった。

「うっさいコシギンやな。お前と口利くくらいなら指示聞きに行ってるほうがマシやな!」

 周平は怒りに任せてドアを開け、部室を出た。後ろで愛美と智香子がニヤニヤと笑っていることくらい、わかってはいたが振り返りもせず、周平は職員室に向かって歩いていった。

 職員室の扉を開けるなり、大声が飛んできたので周平は思わず顔をしかめた。

「アッカンわー! こんな堅すぎる曲選んどったら、ほんまアカン! それに課題曲はコイツら向きちゃうやろー、これは!」

 おそるおそる周平は声のする方を覗いてみた。声の主は、吹奏楽部顧問に着任したばかりのあの島崎 大地だった。

「ったく~……ん?」

 カチッと周平と目が合う大地。大地は周平に気づくと「おっ! 吹奏楽部のアルトサックス吹いてた男の子やん! どないしたん?」と陽気に挨拶した。

 周平は姿勢を正して挨拶をした。

「はい! えっと、その前にいいですか?」

「うん。何や?」

「えっと、俺……吹奏楽部でアルトサックス吹いてます、森田 周平といいます。以後、よろしくお願いします」

 大地は呆気に取られた表情をしていたが、すぐに「あぁ! よろしくな!」と笑顔で返してくれた。

「そんで? 用事か?」

「はい。あの……今日の部活の指示を聞きに来ました」

「おっ。そうか。ほんなら、今日は皆に大事な話あるから……そうや。1年も何人かもう見学来てるんやろ?」

「はい」

「その子らも含めて、話あるから音楽室に午後5時半に集合って伝えといて」

「はい。わかりました」

 周平はペコリとお辞儀をして職員室を出ようとした。

「あー! ちょっと待て、森田!」

「はい?」

「これ、持って行っといてくれるか?」

 そう言って渡されたのは楽譜が入った分厚い封筒だった。

「なんですか? これ」

「新しい曲が入ってる」

「吹くんですか?」

「ほぼ決定やな」

「いつ?」

「それを話すから、とりあえずそれ持って音楽室行っといてくれるか?」

「はぁ……わかりました」

 周平はあまりの分厚さに少し驚きつつ、職員室を後にした。

「なぁんの曲やろなぁ……」

 周平は気になって封筒の中身を出してみた。すぐに出てきたのはフルートの楽譜。タイトルには『A Weekend In New York』とあった。成績が優秀な生徒に入る周平には、なんてことない英語である。

「A Weekend In New York……。ニューヨークの週末か」

 聞いたことのない曲ではあったが、作曲はあのフィリップ・スパークである。見ると、それほど簡単ではない曲であるのは一目瞭然であった。

「こんなムズい曲、いきなりどないするつもりなんやろ?」

 周平には大地の考えることがよくわからずにいた。首を何度も傾げながら、周平は音楽室の重い扉を開け、楽譜を片手に中へ入っていった。








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