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じょいふる! Music♪  作者: 一奏懸命
第02章 風向き、変わる
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第033話 ここからがスタートや



「おはようございます!」

「おはようございます!」

 5月1日土曜日、午前6時ちょうど。浜唯高校吹奏楽部の部員たちの大半が音楽室前に集合していた。部長の愛美が意気揚々とした表情で中央に立っている。

「今日から3泊4日で、いよいよ沖縄への合宿です! 今年は、顧問の先生も変わったばかりですが、こうした例年にないことをいろいろと取り組んでいきます。私としても、できればコンクールで上の大会を目指したいと、正直思っています! なので、皆さんも今日ここへ来たということは、やる気があると見なしていいですか!?」

「はい!」

 愛美がニッコリ笑う。

「それでは、頑張りましょう! 先生、ひと言お願いします!」

「はい。皆さん、おはようございます」

「おはようございます!」

 大地の話は大多数の部員が真剣に話を聞いている。しかし、一人だけ上の空であった。それは他でもない、周平である。

 彼が上の空である理由はふたつ。まずは、苦手どころか嫌いな飛行機に乗って行かなければならないこと。そして、芦尾駅での本番後の出来事が彼の意識をさらに上の空にさせていた。


 芦尾駅での本番終了後。

「森田くん」

 片付けも終えて、音楽室も戸締りされてしまったので一人帰ろうとしていた周平を呼び止めたのは、愛美だった。

「あ、お疲れさん」

「お疲れ様……」

「ほな」

「あ、ちょ、ちょっと待って!」

 周平はあまりに大声を出すので目を点にする。

「どないしたん?」

「あの……」

 周平は乗りかけた自転車を降り、愛美のそばに歩み寄る。

「どないしたん? 何か言いたいことあるん?」

「うん……」

 しかし、愛美はそれっきり何も言わない。周平は特に苛立ったり焦ったりする様子もなく、ジッと待ち続けている。

 愛美はふと視線を上げた。相変わらず周平は視線を逸らさず、愛美のほうを見ている。しばらくすると、心臓が激しく鳴り、顔が真っ赤になってきたのだ。さすがに異変を感じた周平が聞く。

「どないしたん? 顔……赤い……けど……」

 周平も雰囲気を察したのか、言葉が詰まり始める。

「あっ……の、わた……し……」

 その様子を校舎の影から二人の人物が見守っている。

(ちょっと! 押さんといてぇよ!)

(やかましな! 大声出すなや! いまえぇ雰囲気やろがい!)

 二人とも見たくて見たくて仕方がないのだ。その二人とは、将輝と(いま)(なか) ()()であった。実は、二人は部内でも極秘で、誰にもバレずに密かに彼氏彼女の関係だったのだ。

「私、森田くんのこと……好きやねん!」

 周平の顔が途端に真っ赤になった。直球な告白に、将輝と美紅も赤くなってしまう。

「……えっと」

「ま、待って!」

 答えようとする周平の言葉を愛美が遮った。

「今すぐ返事ちょうだいなんて言わへん! あの……合宿、終わるまでに答えくれたら、それでいい!」

「……うん」

「そ、そしたら私、帰るわ! ゴメンな、疲れてんのに」

「いや、それは別に構わへんねんけど……」

「ほ、ほな!」

 慌てて自転車置き場に向かう愛美を周平がもう一度呼び止めた。

「金木!」

「は、はい!」

「あ、あのさ……」

「う、うん……」

「あ、ありがと……」

「え?」

 周平は真っ赤になりつつも続けた。

「俺……誰かに告られたん、初めてやから……う、嬉しい」

「ん……そ、そっか!」

 愛美は、今度は嬉しそうに笑う。周平も恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑った。

 

 そして迎えた、合宿当日。周平は恥ずかしさのあまり、まともに愛美の顔を見ることができずにいた。

「はい! じゃあ楽器を積んでこれから伊丹空港に向かいます! バスに乗るんで、まぁ贅沢にも2台で分かれて乗ります! 点呼、パート内でしっかり取ってください!」

「はい!」

 ふと愛美と目が合う。思わず逸らしそうになるが、愛美がいつもどおりの様子なのでなんとか平静を保つことができる周平だった。






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