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じょいふる! Music♪  作者: 一奏懸命
第02章 風向き、変わる
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第027話 部長×副部長×副部長×雑用係



「……。」

「……。」

 職員室の横にある印刷室。愛美、洋平、大輝、周平の4人が並んで黙々と楽譜のコピー作業をしていた。特に会話は生まれず、ただコピー機の機械的な音だけが響き渡る。普段から仲の良い洋平、大輝、周平の3人であれば会話も弾むのだが、そこに愛美が加わるだけで妙な緊張感のようなものが生まれ、一気に会話が途絶えてしまうのだ。

 コピーを取っているのは愛美と洋平。楽譜のパートごとへの仕分けを大輝と周平がやっていた。

 不意に愛美が呟いた。

「あのさぁ……3人とも、あたしに気ぃ使ってる?」

「え。何やねん、急に」

 洋平が笑った。しかし、明らかに愛想笑いであるのは大輝にも周平にもすぐにわかった。愛美がそれに気づいているかどうかはわからかったが。

「だって、普段みんなもっと楽しそうにしてるやん」

「いや~あ。別にそんなことあれへんよ。なぁ?」

「せやな。別にこんな感じやでな?」

「悪い。俺トイレ行ってくる」

 急に周平が立ち上がり、印刷室を出て行った。

「なんやアイツ」

 洋平と大輝がククッと笑っている。しかし、その横で突然愛美が涙をこぼし始めた。

「お、おいおい!」

 洋平が慌てて愛美の隣に戻る。

「どないしてん! え? 金木ってそんなキャラやったか!?」

「せやでぇ! どないしてん! 急に泣くなや! なんか俺らが泣かしたみたいに見えるやん!」

「ごっ、ごめん!」

 愛美はすぐにゴシゴシと涙を拭って顔をブルブルと左右に振った。

「あたしらしくないよな……」

 愛美は苦笑いしながら鼻声でそう言った。

「あのさ。金木」

 洋平が優しい声で言った。

「俺ら、副部長やろ? 曲りなりに」

「うん……。いや、曲りなりやなくて、副部長やん?」

「ほな、もっとこう……俺らを頼りにしてほしいっていうか……なぁ。大輝」

 大輝もうなずく。

「せやで、金木。お前、何でも一人で背負い込んでしまうクセあるんや。俺も洋平も、前からそれ気になっててん。特に部長になってから、めちゃそれが目立つようになってる気がする」

「あたし、そんなつもりは全然なかってんけど……」

「せやろなぁ。金木、1年生のときからせやもん。なぁんでも自分でがんばろーとしてもうて、結局オーバーヒートして爆発しよんねん」

「そ、そんなことあった!?」

 愛美が慌てて大輝たちに尋ねる。すると、彼らはいろいろと愛美が入部以降に起こした出来事を次々と上げていった。1年生の冬のアンサンブルコンテストで練習しすぎて本番前に唇を壊したこと、始業式や終業式では友人がいるので力んで校歌などを吹いて毎回派出に音を外したこと。

 合宿でも気合いを入れて楽器運びをしていたら、足を滑らせて思い切り転んで鼻を擦り剥いたこと。

「も、もうやめて! そんな恥ずかしいことホジクり返さんといてよぉ」

 愛美が情けない声を出す。洋平と大輝が大笑いし出した。

「せやけど、ホンマはめちゃおもろい子やのに。なんでそないにツンツンした感じになるわけ?」

 洋平がもっともなことを聞いた。すると、愛美は胸のうちを初めて彼らに打ち明けた。

 愛美は入部当初から、由緒ある全国大会常連校であるこの浜唯高校に入学し、入部できたことをかなり誇りに思っていたのだという。自分も練習を頑張り、必ず普門館の舞台に立つ。1年生当時はそう意気込んでいた。

 しかし、入部して待っていたのは1年生という立場上、致し方ないことであるが雑用の連続。それが当然という風潮があったので、特に疑問も持たずに愛美は日々、活動に取り組んだ。

 1週間足らずで、見学に来ていた1年生で次々と仮入部の時点で退部する者が増えていった。けれども、愛美は諦めなかった。普門館という言葉が愛美を支えていたのだ。

 ところが、必死で頑張る愛美に予想外の出来事が起きる。それが周平たちの起こした行動であった。それが、先輩たちの逆鱗に触れた。そしてあっという間に愛美たちにもその影響が及んだのだ。

 雑用が以前にも増して増えた。練習時間は割かれ、雑用ばかりになる。それでも愛美は耐えた。2年生になれば、この苦痛から解放される。

 そして、気づけば3年生になっていた。正直言って、2年間の記憶はほとんどない。2年生のときにもコンクールメンバーになったが、結局関西大会はダメ金で終わった。いつの間にか、愛美の目的は全国大会出場から、部を仕切ることに変わっていた。

 そして、部長になったときには自分がかつて経験させられた雑用などを2年生たちに押し付けるようになっていた。そして、すべての元凶を作った周平には特にキツい雑用などをさせた上に、精神的にも負担を与えた。

 だが、周平はちっとも気にする素振りを見せなかった。それどころか、周平はかつて愛美が持っていたような強い意志を持っていることに彼女は気づいた。そして、そのときに彼女はようやく気づいたのだ。

 自分のやっていたことの空しさを。

「……これが、あたしの本音なんよ。ホンマは、森田くんに謝りたい。ホンマ、何を今さら……って思われるかもしれへんけど」

 すると、洋平が優しく愛美の頭を撫でた。愛美の顔が真っ赤になる。

「え! ちょ、何!?」

「言えばいいやん」

「……今さら、遅すぎる気がする」

「全然そんなことないで」

 大輝が言った。

「まだ、4月や。コンクールまでたっぷり時間がある。とりあえず……周平にだけやなくって、部員みんなに1回、金木の気持ちをぶつけてみたらどないや?」

「えっ……」

「上が動かんかったら、何も変わらへんぞ」

「……。」

 愛美の眼差しが変わった。

「せやね……。うん。あたし、言うてみるわ」

 愛美の目の中に、かつてのような強い意志が蘇る。

「あ、せや。二人にお願いがあんねんけど」

「何でも言うてや」

「今日、部活に来てへんかった人らに、連絡取ってほしい。明日は絶対、部活に来るようにって」

 洋平と大輝がニッと笑う。

「おやすい御用」

 そしてその話が終わった途端に周平が戻ってきた。

「ん? なんや、この微妙な空気……」

「なんでもあれへん! それより周平、楽しみにしとけよー!」

 洋平が思い切り周平に飛び掛かる。

「わ! 何を楽しみにすんねん!」

「まだ内緒じゃー!」

「意味わからん!」

 じゃれあう洋平と周平を見ながら、愛美は必ず自分も部活を変えてみせると密かに誓うのだった。





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