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じょいふる! Music♪  作者: 一奏懸命
第01章 ダメ金スクール
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第022話 かかってこんかい!



「よーし。そしたら次の曲を……」

 大地がそう言って総譜を捲ろうとしたところで、視線が窓の外へ向いた。

「先生?」

「あー……いや……ちょっと待ってくれへんか?」

 そう言うなり、大地は思い切り窓から身を乗り出して大声で叫んだ。

「こらー! なんで黙って帰ってるねん!」

 あまりの大声に周平も未樹も、音楽室にいる全員が目を丸くして言葉を失った。それはもちろん、その声を差し向けられた人物――葛和 良平も驚いてそちらを見て目を丸くしていた。

「は……」

 良平は突然の出来事に呆然としてしまい、思うように足が動かない。帰ろうとしているのに、足が言うことを聞いてくれないのだ。

「なんか用事かー?」

 飄々とした雰囲気で大地は良平に聞き続ける。良平は苛立ちが出てしまい、つい大声で返してしまった。

「先生には関係ないでしょ! 俺、もう今日は練習する気ないから帰るんです!」

「関係ないことあるかぁ! 俺、吹奏楽部の顧問やぞ。お前の入ってる吹奏楽部の顧問やぞ~」

 紛れもない事実をあっさり告げられ、モヤモヤとした気持ちがますます募る良平。知らん振りを決め込んでそのまま帰ろうとしたのだが、その背中にまた大地の声が飛んできた。

「まぁ、お前も今年で16歳になるし! そろそろ大人に指図されへんでもいろいろ物事決めれる年齢や思う! 練習したくなったら、いつでも音楽室来いよー」

「……。」

「ほな! 今日は気をつけて帰れ! よし! 練習続きやるでぇ」

 大地の声を聞こえないフリをしながら良平は帰ろうとする。しかし、その後聴こえてきた、大好きな吹奏楽の曲。それが良平の足を止めた。

「えーっと……よし。ほな『明日の記憶』出して」

「はい!」

 曲が進んで行き、そしてオーボエのソロに差し掛かる。オーボエの朋矢も良平も本番には欠席なので、フルートの雛が代吹きをする。しかし、やはりオーボエとフルートの音色は根本的に違うため、響きも大きく異なってくる。

 物足りへんなぁ、と大地が言う前にボソッと同じ声が聞こえてきた。

「物足りへん気がする……」

 その声は未樹の声だった。

「後藤?」

 未樹がハッとした様子で大地のほうを見た。

「何て言うた?」

「え……いや、別に……」

 未樹は恥ずかしそうに俯きながらごまかそうとする。

「言いたいことは、ハッキリ言えばえぇんやで?」

「え……いいん、ですか?」

 未樹が驚いたように聞き返す。

「いいって……誰かアカン言うたんか?」

 その言葉で音楽室の空気が一瞬で変わった。周平や洋平、弓華、久美などほぼ全員が何かに怯えるような、そんな表情をしたのだ。大地もそれをすぐに察知した。そしてその方向――空席になった下条 由里のほうを見ていた。

「はは~ん……なるほどね」

 大地がニカッと笑う。そして、教師の立場であれば普通は言わないようなことを言ったのだ。

「下条のこと、お前ら気にしとんねやろー」

 周平には地雷を踏む予感がした。しかし、地雷を踏んだところで本人はいない。

「気にせんでえぇって! アイツ、高飛車なとこあるけど、実際そんなに偉そうな権限とか持ってへんやろ? 2年生やしな! まぁ、部長も下条と仲えぇみたいやけど、俺、あんな澄ましたヤツ嫌いやしな! アイツおっても、なぁんか空気悪いっていうか。あれやろ? みんな今、それを一瞬気にしたやろー!」

 あまりに言いたいことを全部大地が言い切ってしまったため、全員が唖然としている。

「ん? どないしてん?」

 全員がポカンとしているので、大地は不思議そうに部員たちに聞き返した。

「いや……」

 悠馬がポカンとしたまま答えた。

「俺の思ってること、全部言われたから……」

「え? 立花、俺と同じこと思ってたんか!」

「う、うん……」

「じ、実は」

 久美が手を挙げた。

「あたしも思ってました」

「え。やだ。久美も?」

 菜砂が驚いた様子で久美に聞く。

「え? 菜砂も?」

「そうなの! 私、由里のこと正直苦手でさぁ~」

 いつの間にか久美と菜砂から始まった部活内での不平不満が噴出し、ぶっちゃけたことを言い倒す時間のような状態になっていた。周平は特にその話の輪に入ってはいなかったが、部員たちが思い思いに自分たちの思っていることをハッキリと言っている様子に、新鮮な雰囲気を感じ取っていた。

「はーい! ストップ!」

 そこで大地がストップをかけた。

「お前ら、文句多すぎるねん!」

「だぁーってぇ。なぁ!」

 久美が口を尖らせている。

「あんなぁ、えぇか? 文句とか不満があるんやったら、その場で言わなアカン!」

「せやけど先生」

 洋平が手を挙げる。

「なんや、佐藤」

「金木とか、櫻井とかがそんなこと言わさん嫌な雰囲気作ってきよんねん。せやから、部員が何かハッキリ物を言う機会っていうのがウチの部、極端に少ないねん。こういうの、なんて言うんかはわかれへんねんけど」

「あれやな。独裁政治的やねんな」

「そう! それ!」

 ドッと音楽室が笑いに包まれる。

「それにハッキリ言い返すような気持ちを、お前らも持たなアカン。えぇか? 音楽するのにもなぁ、そんな中途半端な気持ちやったらアカンねん!」

 そこで全員がハッと顔を上げた。大地がニカッと笑う。

「音楽的なことでも、それ以外の不平不満でも何でもえぇ! 俺にガツーンぶつけてこい! かかってこい!」

「……。」

「返事―!」

「はい!」

 それと同時だった。音楽室のドアが勢い良く開いた。

「そ、そしたら俺もこの合奏に入れてください!」

 そこには譜面台と譜面、そしてオーボエを大切そうに抱えた良平が立っていた。

「葛和くん……!」

 雛が嬉しそうな声を上げる。

「よっしゃ! ほな、オーボエも入れてもう1回『明日の記憶』!」

「はい!」

 先ほどとは少し違う、明るさのこもった返事が音楽室から響き渡った。






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