表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょいふる! Music♪  作者: 一奏懸命
第01章 ダメ金スクール
19/44

第016話 思いのほか厳しい



「うぅ……」

 未樹、航平、陽菜の3人が青ざめている。

「思ったより……難しくない?」

「はい……」

 未樹の問いかけにうなずく二人。

「そっちは、どう?」

「全然合いませんなぁ」

 悠馬がフーッとため息を漏らした。パーカッションとチューバ、弦バスがしているのは前打ちと後打ちによる伴奏練習であった。大地の強制的な変更に伴い、課題曲はマーチでなくなった。そのため、前打ち後打ち伴奏から解放されたと思っていた彼らであったが、実は自由曲となった『ウィークエンド・イン・ニューヨーク』にも前打ち後打ちの部分があったのだ。

 チューバ、弦バスは前打ち。そして、後打ちはドラムセットのスネアとウッドブロックである。実は、既にチューバ3人で時々ズレることがあるのだ。それに加えて、スネアドラムとウッドブロックもズレる。そしてさらに、チューバとパーカッションでズレる。ズレ放題の5人なのだ。ちなみに、ドラムセットは悠馬、ウッドブロックは詩音が担当している。

「とりあえずさ、俺としーちゃんで先にしっかり合わせんとアカンわな」

「……はい」

 詩音が小声で答える。

「しーちゃん、ここはどんな風に叩いてる?」

「え……と……。とりあえず、黙々と……」

 それだけ言うと黙り込んでしまう詩音。

「黙々って……お経違うねんぞ、野田」

 航平が苦笑いして言うが、詩音は真っ赤になったまま何も返さない。

「どないしてん」

 たまたま表を通りかかった洋平が声をかけた。

「あ……ちょっとね。前打ちと後打ちで上手いこと合わへんから困ってて」

「ふーん……」

 洋平はメトロノームを未樹たちの前に置いた。コチコチと規則的に鳴るメトロノーム。

「はい。ほんじゃ、ユーマとしーちゃんは前打ち」

「え。後打ちやなくて?」

「うん。前打ち。ほんで、チューバの3人と弦バスの2人は、後打ち」

「え! 俺、そんな急に無理やねんけど!」

 拓久が顔をしかめる。しかし、洋平は気にせず「はい、グチャグチャ言うてんといきまーす! 1、2、3、はい!」と始めてしまった。

 パチ、パチ、パチ、パチと規則的になる手拍子。しかし、未樹たちの後打ちはてんでバラバラである。それに釣られて悠馬たちまで乱れてしまう。

「はい、ストーップ!」

 洋平の声に全員が手拍子を止める。

「はい! じゃあ下手くそ選手権!」

「は!?」

 全員が唖然とした。

「この中で一番、後打ち下手くそな人決めます!」

「なんでやねん!」

 悠馬が不服そうに声を上げた。

「後打ちができへん人は、前打ちもマトモにできるわけがありません!」

「なんでそないなるんよ?」

 これにはさすがの未樹も不服そうであった。

「だって、前打ちはそりゃメトロノームで合わせるんやから誰でもできるわいな。大事なんは、後打ち。後打ちがしっかりできれば、きちんとリズムを体で感じ取れてるってこっちゃ。結局、後打ちもわからへん人に前打ちなんてできへんよ。できてるフリしてるだけ。真髄はわかってへんわ」

 誰も上手く返せなかった。

「はい、ほんじゃ……皆見さんから」

「わ、私ですか!?」

「そ、私から。はい、行くで!」

「は、はい!」

 規則的に鳴り響く手拍子。陽菜の手拍子は乱れることなく安定を保ったまま、2分近く続いた。

「オッケー! はい次! ワッキー!」

「はい!」

 ワッキーというあだ名を急につけられたことも気にせず、美琴が手拍子を始める。彼女も安定を保ったまま、2分近く続いた。

「次、航ちゃん」

「はい!」

 航平。彼も安定した様子で問題なく続けられた。

「オッケ! んじゃ、ユーマ」

「おうよ!」

 自信満々という様子の悠馬。しかし、30秒ほどするとリズムが乱れ始めた。

「はい! ストーップ!」

「ぐあー! クソー! できへんかったあ!」

「はい! 残念でした! 次!」

 拓久が自信ありげに笑う。そして始まった拓久の手拍子。しかし、ものの20秒ほどでリズムが乱れ、あっという間に前打ちになってしまった。

「はい下手!」

 下手、とハッキリ言われて唇を噛み締める拓久。

「はい、最後はごとちゃん」

「う、うん!」

 未樹も必死でリズムを刻もうとするが、すぐに乱れてしまい「ストップ!」と止められてしまった。

「はい。お疲れ様です」

 洋平が笑う。

「オモロいことに……下手くそ勢は全員3年生でしたぁ!」

「……。」

 あからさまに凹む3人。

「ちょお待てや! ほな、お前はどないやねん佐藤!」

「俺?」

 拓久が必死で洋平に聞く。

「いいで。やったるわ」

 洋平が自信満々の表情を浮かべる。そして、未樹たちよりも明らかに速いテンポで安定した後打ちの手拍子を2分近く続けた。

「……。」

 明らかに動揺する未樹たち3人。

「どない? これで文句ないやろ~」

 ニッと笑う洋平。

「ほな、まぁ。お三方は後輩に負けへんように頑張っておくれ~。頑張ってな!」

 ガラガラと引き戸を閉めて、洋平が退散する。それと同時に、一気に未樹、拓久、悠馬の闘志に火がついた。

「しーちゃん!」

「脇川さん!」

「航ちゃん! 皆見さん!」

 3人が一斉に同じ言葉を口にした。

「俺を指導してくれ!」

「オレを指導してくれ!」

「あたしを指導して!」

 後輩全員がしばらくポカンとした後、小声で「はい……」とうなずくのだった。

「やーっちゃったぁ」

 ご機嫌な様子で歩く洋平を見つけた周平が尋ねる。

「何したん?」

「んー? 低音の闘争心に放火してきたぁ」

「はぁ?」

「ま! 俺らもガンバロってこっちゃ」

「はぁ……」

 洋平はご機嫌なまま、ホルンの部屋に入っていく。

 周平は洋平の言葉がわかるような、わからないような微妙な気分のまま、サックスパートのパー練部屋に向かうのだった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ