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じょいふる! Music♪  作者: 一奏懸命
第01章 ダメ金スクール
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第014話 今年の面子



 4月20日火曜日。

「ふーん……」

 大地は職員室で提出された入部届けを見つめていた。現時点で入部届けを提出したのは以下のとおり。


フルート:柳下 明莉/粟田 雛

オーボエ:葛和 良平

クラリネット:住友 麻衣/竹中 美波

アルトクラリネット:上杉 翔太

アルトサクソフォン:秋吉 和洋

テナーサクソフォン:榊 郁斗

トランペット:下条 都夢/琴弾 音弥

トロンボーン:島本あずさ

ホルン:小林 樹/古舞このは

チューバ:皆見 陽菜

ストリングベース:脇川 美琴

パーカッション:稲葉 紗重/吉田 達矢


「バランスはまぁまぁ取れてるんか……。せやけど、ユーフォが欲しいところやなぁ。クラリネットも2年後のことを考えると欲しいし……。トランペットが2人おるのは助かったけど」

 ボールペンをクルクルと回す大地。ため息が漏れた。

「しっかしなぁ……。パーカッションが2人とも初心者ってどないやねん。それも、入部理由聞いたら、『立花先輩がカッコ良かったからですぅ』かいな! えぇ加減にせぇよ!」

 これは稲葉 紗重の口調を真似しているのである。

「ほんでもってコレもややこしそうやで……」

 ホルンの小林 樹。実際は相内良輔、岡本充香と同い年である。つまり、留年して1年生として入学したのだ。しかし、彼も好きで留年したのではなく、病気によって不可抗力で留年したというわけである。

「岡本が偉そうに言いそうやしなぁ……。なんかトラブりそうやわ」

 他にも初心者がまだいる。今回、初心者として入部したのは稲葉、吉田に加え古舞、粟田の4名。大地が今まで聞いた話では、浜唯高校は全国レベルで奏者レベルもかなりずば抜けている。

「足を引っ張るとかギャアギャア言われて、辞めんかったらえぇけど……」

 初心者とはいえ、貴重な部員であることに変わりはない。一瞬、稲葉と吉田の入部動機に文句を言った自分が少しだけ、大地は嫌になった。


「なぁ」

 その頃、周平は優花に質問をしていた。

「何?」

「お前がやっぱり、ソプラノ吹いたほうがえぇんちゃうか?」

「えぇ? なんでよ? 今までずーっと、森田くんが吹いてたんやん。それに秋吉くんより森田くんのほうがえぇ言うたやん。島崎先生」

 優花が不思議そうに笑う。

「えぇ? あぁ……まぁ……」

 周平の微妙な反応に、優花が「あ……聞いたらマズかった?」と聞き返した。

「いや! そういうわけちゃうねん。実際なぁ、その島崎先生にお前、大西にソプラノ譲れって言われた」

「エー! えらい急やんなぁ。どういうつもりなんやろ?」

「先生いわくな……」

 周平は一連の大地の説明を優花に再現した。

 大地が言うには周平は息が分厚く、温もりのある息だそうだ。その息がアルトサックスを通すと、色っぽい音になる。その音が活かされるのは、スピードのある音楽よりもゆったりした音楽だそうだ。

「じゃあつまり、島崎先生が言うのは」

「多分、ウィークエンド・イン・ニューヨークなら前半部分のアルサクのソロがえぇってことやと思うねん」

「へぇ~……。あの先生、テキトーそうに見えていろいろ見てんねんなぁ」

 2人は天井を見上げながらため息を漏らす。

「あ。でもちょっと待ってよ」

「何?」

「中盤にもアルトサックスのソロあるやん」

「あ……ホンマやなぁ」

 そこでまた新たな疑問が生まれる。

「ほな、俺の音色のことは何やったんや? 意味不明ちゃうんか」

「さぁ~……」

「何やお前。長いこと楽器吹いてて自分の音色の特徴もわからへんのか」

 驚いて2人が振り返ると、大地がいた。

「先生……」

 優花が目を丸くする。

「俺の音色の特徴って?」

 周平が興味深そうに尋ねる。

「エロいねん!」

「……は?」

 周平と優花は呆然とした様子で聞き返した。

「エロいって何スか!」

「お前の音色はちょうどえぇんや! まさにお前の音色はウィークエンド・イン・ニューヨークのソロを吹くためにあるようなもんやな」

「……。」

 大胆発言に唖然とすることしかできない2人。

「とにかく! 大西はソプラノ練習しといて。ほんで、森田はアルトサックスのファーストな! よろしく!」

 そう言い残すと大地は部屋を後にした。

「なんかもう……マイペースすぎてぶっ飛んでる」

 ヘヘ、と周平がおかしそうに笑った。


「下手すぎるー!」

 フルートのパート練習の部屋で怒声が飛んだ。その声に初心者の粟田 雛が首をすぼめた。しかし、その怒りの対象は雛ではない。明莉なのだ。

「アンタ、ホンマに経験者!?」

「は、はい……」

「それやのに、ビヴラートもろくにかけられへんの!?」

「す、すみません!」

 いきなりブルブルと震える明莉。この険悪な雰囲気には、さすがの由里や照も口が出せる状況ではなかった。

「もー! 経験者も大したことないし、初心者やしもう一人は! もうアカンわぁ今年も!」

「そうやって端から諦めんのかい」

 5人が驚いて振り向くと、大地が腕を組んで不機嫌そうに立っている。

「そういう程度なんか? お前らの意識」

「どういう意味ですか?」

 菜々香が不機嫌そうに返事をする。

「なぁ、大平。お前、生まれた時からフルート吹いとん?」

「は? 何言うてるんですか。そんなわけないじゃないですか」

「そやろ? 誰だって練習を重ねて、今のレベルにまで持ってきてるんやろ。でも、それが限界か?」

 今度こそ菜々香が怒りをあらわにした。

「いい加減にしてくださいよ! あたしは限界とは思ってません!」

「んじゃー練習するよな!」

「当たり前やないですか!」

「やって! そういうわけやから、柳下も粟田も頑張れ!」

 雛と明莉の顔が赤くなる。

「は、はい……」

「下条! 氷室!」

「は、はい!」

 由里と照が思わず大声で答える。

「1年生にや・さ・し・く! 教えたってや」

「は、はい……」

 由里と照をも黙らせる大地。そんな彼の背中を、菜々香だけが悔しそうに見つめていた。








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