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じょいふる! Music♪  作者: 一奏懸命
第01章 ダメ金スクール
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第013話 音楽は世代を超える!



「え!? ウソやん! あんなに見てる人おんの!?」

 クラリネットの近江亜梨沙が大声を上げる。

「シーッ! 静かに!」

 それに気づいて将輝が注意を促す。

「す、すいません」

「気持ちはわかるけど。近江さんたちは去年、見てる側やったもんな」

 慣れてしまっている将輝、未央、朋子の3人は冷静に楽譜の準備を整える。それを見て2年生の雅貴、亜梨沙、明巳、晴菜の4人も慌てて楽譜の準備をする。

 一方の周平たちサックスパートも楽譜の準備を整え、いつでも表へ出られる状態だった。

「すまんけど、よろしく頼むわな」

 周平は華名に両手を合わせて言った。

「いいですけど……」

 華名がジーッと周平の衣装を見る。

「先輩、思い切りジャージですね」

「え? あー、これ? なんか、竹中がじょいふるのPVの雰囲気出したいからって……」

 そのいきものがかりの『じょいふる』という曲は、学校内で撮影されているためほぼ全体に渡って学生服やジャージを着た学生の姿が映っている。将輝としては、それを反映させた衣装にしたいと強く言っていた。そしてジャンケンの結果、将輝が浜唯高校男子の冬服を、周平が3年生の指定ジャージである青色の上下ジャージを着ることになったのだ。

「いいんちゃうの? ウチらの部、なんかお高く留まった人らの集まりって思われてるみたいたし」

 横から優花が笑いをこらえながら言う。

「おい大西! なんで笑ってんねん!」

「別に笑ってなんかおらへんよ~」

 優花の顔がニヤケっぱなしのまま、否定の言葉を発するので周平は真っ赤になった。

「ウソつけ! その緩みっぱなしの顔のどこが笑ってへん言うねん!」

「やかましな! 静かにせんかい!」

 大地の声に3人が口を塞ぐ素振りを見せる。

「えぇか? 本番は本番やねんから、気ぃ抜くなよ」

「はい……」

 口を塞いで小声で返事をする3人。

「それから森田」

「はい?」

「お前、まだ恥ずかしがってるやろ?」

「そ、そんなこと」

「あるやろ?」

 否定の言葉を言おうとしたが、大地に聞かれて周平は小さくうなずいた。

「えぇか? 森田。こういうな、踊りとかマーチングとかそういう動きを入れてやるヤツは恥ずかしがって中途半端にするほうがもっと恥ずかしい」

「……。」

「恥ずかしがって、ナヨナヨでヘナヘナなことやったら、見てる側としてはそっちのほうが恥ずかしくて仕方ないからな」

「はい……」

「竹中見てみ」

 大地に促されて将輝を見てみると、彼はやる気マンマンでなぜか準備体操までしている。

「……。」

 しかし、それを見ても周平はあまりやる気が沸いてこないようであった。

「お前、なんか知らんけどローテンションやな」

 大地が本当に心配そうに周平に聞く。

「まぁ……いろいろありまして」

 周平が苦笑いすると、優花と華名も困ったように笑った。

「そんな暗い顔されたら、新入生が入ってくるモンも入ってけーへんなるで!」

 そして大地がバシバシと周平の背中を叩いた。

「しっかりせーよ! 3年!」

「痛って……」

 周平は苦笑いしながらも、自分より年上の大地があのテンションなのだから、まだ高校3年生の自分はもっとテンションを上げて行ってもいいのではないか、と思った。

「よっしゃ!」

 突然の様子の変わりように、優花と華名が驚いて目を丸くする。

「一丁やったろやないか!」

「その気合いや! よっしゃ! ぼちぼち本番行くで! みんなテンション上げて行きや!」

「はい!」

 舞台が暗転する。椅子や打楽器の搬入が始まった。その様子を見ながら、将輝と周平は最後の打ち合わせをする。

「打ち合わせってほどのモンやないけど」

 将輝が笑う。周平も笑ってから言った。

「ノリと勢いでドーン!やろ?」

「よぉわかってるやんけ! ほな!」

 右手をグーにして重ね合わせる。

「ご武運を!」

 大地が指揮台に立つ。

「ア、ワン! ア、トゥ! ア、ワン、トゥ、ワントゥスリーフォウ!」

 悠馬の掛け声を合図に『じょ・い・ふ・る』が始まった。その上昇音系と同時に周平と将輝が思い切り部員たちの前に立つ。

「おぉー!」

 男子からどよめきが起きる。無理もないだろう。周平がジャージ姿、将輝が詰襟の制服姿なのだ。ちなみに、浜唯高校の制服はブレザーである。詰襟学生服は周平の中学時代のものであった。

 箒を持ってギターを弾くような素振りを見せる周平。その調子に合わせてテンションが上がってきたのか、普段は冷静な拓久が同じようなノリを見せ始めた。まだ前奏部分であるにも関わらず、周平と将輝のテンションはかなりハイになっていた。

 歌部分に差し掛かる。将輝が最前列にいた1年生を呼びかけるように踊りを見せる。そしてサビ部分で周平がクラリネットのメンバーに立つように指示した。はっきり言って予想外の展開であったが、そういったアドリブには慣れている吹奏楽部員たちはすぐに立ち上がった。そして、何度か周平と将輝の踊りを見て自然に覚えたのか、雅貴や未央が一緒になって飛び跳ね始めた。これには朋子も合わせなければマズいと思い、いつの間にかそれがクラリネットの全員に伝染していた。

 再びメロディ部分に戻る。周平が1年生のど真ん中に飛び込んでいく。大地はまさか将輝と周平がここまでアドリブを利かせるとは思っていなかったので、驚くばかりだ。

 2回目のサビ部分に差し掛かると、将輝がホルン、サックスメンバーに起立を促した。バリサクの猛まで飛び跳ねて踊っている。

「あんな大きい楽器でも踊れるんやなぁ!」

 男子生徒の一人が声を上げているのが、周平の耳に入ってきた。

 間奏部分のような、曲調が他のものとは異なる部分に差し掛かる。ここで将輝と周平は元の位置に戻る。そして「ぴぷぺぽぱぴぷぺ」の部分で全員に起立を大地が促した。

(なるようになれ!)

 愛美も何かを吹っ切ったようで、立ち上がった。メロディや伴奏も乱れなく踊ったり飛び跳ねたりしながら演奏を続ける。いつの間にか教頭先生や校長先生まで立ち上がって手拍子をしていた。さらに、本来であれば見学できない2年生や3年生が外から見ていた。部活をしていたが、気になって見に来ているようであった。裏方を仕切っている放送部員や生徒会の生徒も出てきて一緒になって手拍子をしていた。

 最後の最後で、周平と将輝が放送部員のマイクを借りて、大声で叫んだ。

「じょーい!」

 それと同時に拍手が沸き起こった。周平と将輝は4月にも関わらず汗だくになっていた。

「森田!」

 将輝が笑顔で右手を上げてきた。

「よかったで!」

「お前こそ!」

 周平も右手を上げてハイタッチする。一気に吹き終えた部員たちも、予想外の1年生や先生の反応に満足そうな笑みを浮かべていた。








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