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じょいふる! Music♪  作者: 一奏懸命
第01章 ダメ金スクール
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第010話 羞恥心なんて飛んでけ!


「はい! ほんじゃ、合奏始めようか!」

 大地がご機嫌で指揮台に立つ。愛美はやはりまだ複雑そうな表情で「起立、礼」と挨拶をした。部員たちは一応、大声で「お願いします!」と挨拶をする。大地はその一応、という雰囲気を察知したのか、微妙な笑みを浮かべるだけだ。

「ほんじゃ、じょいふる行こか。どないや、竹中と森田。踊り、できるんか?」

「はい!」

 将輝がやる気マンマンという様子で答える。

「森田も、大丈夫やんな!?」

「う、うん」

 周平は初めて将輝に笑顔を向けられた気がしていた。悪い気はしない。

「そんじゃ、頭から通すから1回、踊ってみてくれへんか?」

「はい!」

 未央と朋子が顔を合わせる。こんなテンションの将輝は確かに今まで誰も見たことのないものだ。

 周平は将輝と並んで前に立つ。後ろから部員たちの視線が刺さっているような気がする周平は、なんとなく落ち着かない。一方の将輝はと言うと、踊る気マンマン。心なしか頬が紅潮しているようにも見えた。

 とりあえず、PVの流れどおり冒頭は箒をギターに見立てて弾く素振りを見せることにしている。そして歌詞が始まる部分から箒を置いてダンスを始める。サビの部分で一番有名な、あのポッキーのCMと同じ踊りを披露することにしているのだ。

 ふと周平が大地を見ると、笑いをこらえているのが丸わかりの状態だった。周平は思わず赤くなる。すると、その様子に気づいた将輝がダンスを止めて大地に文句を言い始めた。

「ちょ、先生! なんで笑うんですか!?」

「いや……ホンマごめん! ごめん……でも、ちょっとだけ……アハッ、アハハハハハ!」

 大地が笑い始めると、すぐにその笑いが連鎖していき朋子、未央、悠馬、利緒が笑い、気づけば部員のほとんどが大笑いしていたりクスクスと堪えつつも笑っていたのだ。

「なんなんですか! 俺ら真剣やのに!」

 将輝も真っ赤になって地団駄を踏み始める。

「いやいや……えぇよ、コレ! えぇと思う!」

「ほななんで笑うんですか!?」

「いや……竹中、お前身長何センチ?」

「178ですけど?」

「森田は?」

「168です」

「その10センチ差! それがえぇねん! 可愛い!」

 大地は相変わらず笑い声を上げながら改めて二人を見つめる。

「ふん……えぇな。おもろい、おもろい。今度は笑わんからさ、ちょっと初めから終わりまで通してみよう」

「約束ですよ?」

 将輝と周平はなんとなくまだ恥ずかしさが吹き飛ばせずにいたが、やはり安定した部員たちの演奏を聴きながらであれば、ダンスは完璧に覚えている二人にとって、踊ることはまったく苦ではなかった。

 ふと、将輝と目が合った周平は、その瞬間に笑みを浮かべていた。

「!」

 それに気づいた将輝も少しだけだが、ニッコリ笑ってくれていた。誰も気づいていない、二人だけのわだかまりが溶けた瞬間であった。

 合奏が終わってからすぐだった。

「森田」

 将輝が周平を呼んだ。

「ん?」

「お前……今日部活終わった後、予定ある?」

「いや……。なんもあらへんけど。どないしたん?」

「ちょっと俺とメシ、行かん?」

「お前と俺が?」

「嫌か?」

 将輝が少し残念そうな顔を浮かべる。周平は何だか断るのも悪い気がしてしまい「嫌なわけないやろ。ちょっとビックリしただけ」と答えた。

 将輝はすぐにイタズラっ子っぽい顔になる。

「やった。ほな、片付け終わったら部室で待ってる」

 どういう風の吹き回しなのか。将輝の考えがまったく読めずにいた周平は、イエスと返事したことを今になって若干後悔していた。

 楽器を片付け終えてから、いつもなら周平は特に用事もなく、悠馬や大輝、洋平とタイミングが合えば一緒に帰る。そうでなければ、サッサと一人で帰ることがほとんどだ。しかし、今日は将輝が来るまで待たねばならない。

 ソワソワ落ち着かない周平。目の前から次々と後輩や同級生が出て行く。気づけば、残っているのは将輝、周平、未樹。それからトランペットの木下(きのした) ()(さと)、バスーンの八木沼久美、ホルンの安本(やすもと) (もも)が残っていた。

「もーりたっ!」

 将輝が嬉しそうに周平の前に顔を出す。

「お、おう。片付け、終わった?」

「うん。ちょっとな、音楽室来てぇな」

「へ?」

「お願い! ちょっと教えて欲しいことあんねん!」

「……はぁ」

 周平は将輝に促されるまま、音楽室へと向かっていく。そして、音楽室に入って開口一番、将輝が言った。

「お前……俺らに黙ってること、あるやろ」

「へ?」

「隠そうったって、無理やで」

 将輝はそう言ってひとつのDVDをセッティングした。それを見た瞬間、周平の胸がドキドキと激しく脈を打ち始めたのだった。







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