プロローグ 僕らは毎年ダメ金だ
今年もやって来た、全日本吹奏楽コンクールへの予選となる、関西吹奏楽コンクール。この時間は、審査の結果発表となっていた。
「プログラム15番 私立 浜唯高等学校吹奏楽部……」
皆の心臓が嫌でも高鳴る。コンクールは中学の時から経験している者も多いが、やはりこの瞬間は慣れない。
「金賞、ゴールド!」
「うおおおおおおお!」
「やったああああああ!」
悲鳴に近い喜びの声が上がる。けれども、この先が重要なのだ。
その後、金賞受賞団体から全国大会へと出場できる、代表の選出が発表された。今しがた喜びの声を上げた私立浜唯高校の部員たちは祈る思いで手を合わせていた。
やがて、プログラム7番と13番の団体が代表に選出される。
(頼むで――!)
「プログラム」
心臓が爆発してしまうのではないかというほど緊張していた。
「じゅう」
(頼む!)
(お願い!)
「ろくばん!」
「……っ!」
全員が顔を上げた。歓声が、彼らとは違う場所で起きる。
(また……アカンかったんか……!)
大粒の涙が、少年の頬を伝った。
「ハッ!」
目を覚ますと、全身が汗だくだ。まだ4月1日というのに。
少年はグシャグシャと前髪を摩った。
「この時期になったら、なんか知らんけど思い出してまうなぁ」
首を横に振り、少年はベッドから起き上がった。
2010年4月1日、兵庫県 神崎市。新しい門出を迎える人々に、春麗らかな日差しが降り注ぐ中、彼は少し面倒そうに部屋から出て行く。
「ん?」
彼の部屋にどこから紛れ込んだのか、桜の花びらが一片、落ちていた。
「……綺麗やな」
少年は思わず微笑んだ。
「よっしゃ、頑張ろうか」
彼は伸びをして、部屋を出て行った。