第9話:偽りの聖女、禁忌に触れて自滅する
母国ロセリア王国。
賠償金と領土の割譲により、国力は底をついた。民衆は王城を取り囲み、「エルナ様を返せ!」「偽物の聖女を差し出せ!」と怒号を上げている。
「……私のせいじゃない、私のせいじゃないわ!」
王城の奥深く、リリアは禁じられた「魔塔」の最下層にいた。
彼女の手には、代々の聖女が「決して開けてはならない」と封印してきた【深淵の書】が握られている。
「精霊が言うことを聞かないなら、悪魔の力でもなんでも使ってやるわ! お姉様さえ、あのお姉様さえいなければ、私はまだ聖女でいられたのに!」
リリアが禁忌の呪文を唱えた瞬間、王城の地下からどす黒い泥のような魔力が溢れ出した。
それは彼女の体を蝕み、美しいはずの顔を醜く歪めていく。だが、狂った彼女は気づかない。
「アハハ! 見てなさいエルナ! あなたの愛する帝国を、この『死の呪い』で飲み込んでやるんだから!」
◇◇◇
一方、ガラルド帝国。
結婚式を数日後に控え、私はアルカード様と一緒に、精霊たちが作った「花の庭園」を散歩していた。
「――エルナ、下がれ」
突然、アルカード様が私の前に立ちふさがった。
南の空から、不気味な黒い雲が急速に迫ってくる。それは雲ではなく、形を持った「悪意」の塊だった。
「これは……母国の方向から? 精霊さんたちが、悲鳴を上げています!」
「……ふん、あのクズ共、まだ死に足りないようだな。禁忌の魔法に手を出すとは、国ごと滅びたいらしい」
アルカード様が手をかざすと、彼の影が巨大な龍のような姿に膨れ上がった。
だが、私はその腕をそっと抑えた。
「陛下、私に行かせてください。……あれは、私が終わらせなければならない因縁です」
「だがエルナ、あれはただの魔力ではない。命を削る呪いだぞ」
「大丈夫です。私には、この国の人たちが、そして陛下がついていてくれますから」
私は一歩前へ出ると、帝国の全精霊たちに呼びかけた。
(みんな、力を貸して。あの悲しい鎖を、断ち切るために!)
私の呼びかけに応え、帝国の全土から虹色の光が集まってくる。
かつて「死の森」だった場所に宿った、何万、何億という精霊たちの輝きだ。
黒い呪いが帝国に触れようとした瞬間、私の放った光の壁がそれを真っ向から受け止めた。
「消えなさい、悲しい悪意。……あなたはもう、誰の心も支配できない」
眩い閃光が走り、黒い霧は悲鳴を上げながら霧散していった。
そして、その呪いの「逆流」が、発動主であるリリアのもとへと襲いかかった。
「……あ、あああああああ!? 私の顔が、私の魔力がぁぁぁ!」
母国の王城で、リリアの絶叫が響き渡った。
禁忌を破った代償として、彼女は二度と魔法を使えない「ただの醜い罪人」へと堕ちたのだ。




