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第6話:私が幸せになるほど、あの国は干からびていくようです

 ライナス伯爵を追い返してから数日。

 ガラルド帝国は、かつてないほどの活気に沸いていた。


「エルナ、これを見てくれ。君が精霊と話してくれたおかげで、北の鉱山から最高品質の魔石がザクザク出ている」


 執務室でアルカード様が、嬉しそうに真っ青な大粒の宝石を差し出してきた。

 これまでは「呪いの地」として誰も近づけなかった場所が、今や世界屈指の資源地帯に変わったのだ。


「よかったです。精霊さんたちも、『やっと土が綺麗になったから、宝物を掘り出しやすくしてあげた』って喜んでいましたよ」


 私が微笑むと、アルカード様は宝石を私の首元に当て、満足げに頷いた。


「ああ、やはり君の瞳の色によく似合う。……エルナ、君が来てからこの国は変わった。民は腹一杯に食べ、冬の寒さに凍えることもなくなった。すべて君のおかげだ」


 彼はそのまま私の腰を引き寄せ、耳元で甘く囁く。


「もはや、君を離すことなど、万に一つもあり得ない。あの愚か者たちがいくら金を積もうと、軍を動かそうとな」


 その頃。

 エルナを捨てた母国・アシュバッハ公爵領は、まさに地獄絵図だった。


「……リリア! なぜ雨が降らない! お前は聖女だろう!?」


 王太子カイルが、土埃の舞うバルコニーで叫んだ。

 かつて美しかった王都の並木道は枯れ果て、飢えた民衆の怒号が城門まで響いている。


「そんなこと言われても! 精霊様たちが、私が歌うと耳を塞いで逃げていっちゃうのよ! あいつら、お姉様に毒されてるのよ、きっと!」


 リリアが泣き叫びながら杖を振るが、出てくるのは弱々しい火花だけ。

 精霊たちは、自分たちの愛したエルナを追い出したこの国を、徹底的に見捨てていた。


「このままでは次の冬を越せん……。おい、ガラルド帝国から聞こえてくる噂は本当か!? 死の森が消え、砂漠のような大地に花が咲き乱れているというのは!」

「ほ、本当です、カイル殿下! 追い出したエルナ様が微笑むだけで、大地から泉が湧き出していると……!」


 報告を聞いたカイルの顔が、絶望と悔恨で歪む。


「……そんなバカな。あんな地味な女に、そんな力があったというのか? リリア、お前は『お姉様は精霊に嫌われている』と言ったよな!?」

「そ、それは……お父様もそう言ってたもの!」


 二人は醜く責任をなすりつけ合い始めた。

 自分たちが手放したものが、実は「国を支える唯一の基盤」だったという事実に、ようやく気づき始めたのだ。


「……こうなれば、力ずくでも連れ戻すしかない。エルナは我が国の公爵令嬢だ。帝国の皇帝が、不当に拘束していると言いがかりをつけてでもな!」


 カイルの瞳に、身勝手な狂気が宿る。

 一方で、帝国ではエルナのために「世界一豪華な結婚式」の準備が着々と進んでいた。

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