第4話:呪われた森を花の楽園に変えたら、帝国全員に跪かれました
「エルナ、少し外へ出よう。君に見せたいものがある」
アルカード様に手を引かれ、私は城のバルコニーへと連れ出された。
目の前に広がるのは、どす黒い霧に覆われ、枯れ果てた「死の森」。帝国の民を苦しめ、外敵を阻んできた絶望の象徴だ。
「この森は私の呪いに同調している。……呪いが解け始めた今でも、精霊たちが怯えて、心を閉ざしたままだ」
アルカード様の横顔はどこか悲しげだった。
私は、バルコニーから身を乗り出し、森に向かってそっと手を広げた。
(みんな、もう大丈夫だよ。怖い人はいないから……)
私の心に呼応して、足元から小さな光の粒が飛び出していく。
それは城を囲む黒い霧に触れた瞬間、パァン!と弾けて、虹色の輝きへと変わった。
「……えっ?」
アルカード様が息を呑む。
私が精霊たちに「お仕事の時間だよ」と歌うように囁くと、一瞬で風が吹き抜けた。
ドロドロとした霧が晴れ、真っ黒だった木々から一斉に若葉が芽吹き、見たこともないような大輪の花が森を埋め尽くしていく。
ほんの数分の出来事だった。
死の森は、誰もが息を呑むような**「精霊の楽園」**へと姿を変えたのだ。
「奇跡だ……。伝説の『初代聖女』でも、これほどの浄化は成し遂げられなかったぞ」
アルカード様は私の肩を抱き寄せ、震える声で囁いた。
城下では、異変に気づいた帝国の民たちが次々と家から飛び出し、森の変貌を見て泣き崩れている。
「女神様だ!」「皇帝陛下の妃が、呪いを解いてくださった!」
地響きのような歓声が城まで届く。
地味で無能と笑われた私が、ここでは、たった一晩で「帝国の希望」になってしまった。
「エルナ、もう二度と君を離さない。……例え神が君を連れ去ろうとしても、私は世界を敵に回してでも君を守る」
アルカード様の瞳が、愛おしさと、恐ろしいほどの独占欲でギラリと光る。
……陛下、嬉しいんですけど、ちょっと抱きしめる力が強すぎます!
そんな幸せな空気の中、一人の騎士が慌てて駆け込んできた。
「報告します! 国境にて、アシュバッハ公爵家の使者が到着! 『聖女エルナを連れ戻しに来た』と、無礼な要求をしております!」
アルカード様の顔から一瞬で温度が消え、冷酷な皇帝の顔に戻った。
「ほう。……捨てたゴミを拾いに来たと? 面白い。八つ裂きにして送り返してやろうか」
私の溺愛生活に、ついに「母国からのクズ」が接触してくる。




