第3話:生贄のつもりが、一晩で帝国最強の寵姫になりました
翌朝。
豪華すぎて落ち着かない天蓋付きのベッドで目を覚ました私は、視界に入った光景に固まった。
「……おはよう、私の救世主。よく眠れたか?」
そこには、仮面を外し、彫刻のように整った素顔を晒したアルカード様が座っていた。
昨晩の冷徹さはどこへやら、その瞳にはとろけるような甘い光が宿っている。
「へ、陛下!? なぜ私の寝室に……」
「言っただろう、君を妃にすると。君がいなければ、私はまたあの泥のような呪いに飲み込まれる。……君を、一秒も離したくないんだ」
そう言って、彼は私の指先に熱いキスを落とした。
……重い。この皇帝陛下、愛が重すぎる。
「さあ、着替えよう。君に似合うドレスを百着ほど用意させた。好きなだけ選ぶといい」
「ひゃ、百着!? 私、地味な服で十分です!」
「却下だ。君の美しさに釣り合う宝石も、国中から集めさせている。君を蔑んだ母国の奴らが後悔で泡を吹くほど、着飾ってもらうからな」
彼は本気だった。
次々と運び込まれる、最高級のシルクと魔石をあしらったドレス。
精霊たちが「これエルナに似合うよ!」とキラキラ輝いてドレスに飛びつき、私の周りで舞い踊る。
呪われていたはずの「死の森」の城に、温かな光が満ち溢れていく。
◇◇◇
一方その頃。
エルナを追い出した母国・アシュバッハ公爵領。
「……おい、どういうことだ。なぜ庭の噴水が止まっている!?」
王太子カイルは、公爵家の庭園で声を荒らげていた。
昨日まで咲き誇っていたバラは炭のように黒ずみ、豊かな水量を誇っていた川は干上がっている。
「カ、カイル様ぁ……。精霊様が、言うことを聞いてくれないの。なんだか、みんな怒ってるみたいで……」
自称「真の聖女」のリリアが、冷や汗を流しながら杖を振る。
しかし、彼女が魔法を使おうとするたびに、精霊たちは「イジメっ子め!」とばかりに小石をぶつけたり、髪を引っ張ったりして拒絶する。
「無能なエルナがいなくなったのだぞ! 本物の聖女であるお前がいれば、国はもっと豊かになるはずだろう!」
「そ、そうよ! きっと何かの間違いだわ!」
彼らはまだ気づいていない。
精霊の加護とは、力で従わせるものではなく、対話によって授かるものだということに。
そして、唯一対話ができたエルナを、自分たちの手で「最強の隣国」へタダでプレゼントしてしまったということに。
「おい、次の収穫祭はどうするんだ……? このままでは、民に食わせるパンも無くなるぞ……」
カイルの震える声に、答える者は誰もいなかった。




