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第25話:届かなかった光

 建国記念祭の夜。帝国はかつてない祝祭の熱気に包まれていた。

 私は城のテラスで、アルカード様の腕の中にいた。彼は私の腰を強く抱き寄せ、何度も髪に唇を寄せる。


「エルナ、見てごらん。民も、精霊も、みんな君を祝福している。君はこの世界の宝だ」


 彼の視線の先では、息子であるアルエルと娘のルナが、光り輝く精霊たちと追いかけっこをして無邪気に笑っていた。


「ええ……本当に幸せ。あなたとこの子たちがいれば、もう何もいりませんわ」


 アルカード様は私の指に、誓い直すように深く口づけをした。


「愛している、エルナ。たとえ何が起きようと、私の瞳に映るのは君だけだ」


 夜空に大輪の花火が打ち上がり、私たちは見つめ合って微笑んだ。誰もが、この幸福が永遠に続くと信じていた。


 ――だが、その直後、アルカード様が唐突に胸を押さえ、苦悶の表情で膝をついた。


「……っ、が……あ、あああぁ……!」


 彼の肌に、赤黒い呪いの紋様が浮き出る。私は動転しながらも、すぐに両手をかざした。


「陛下! すぐに治します、精霊さん、お願い!」


 私は全魔力を込め、精霊たちの力を借りて光を注いだ。けれど、私の光が彼に触れた瞬間、精霊たちは恐怖に悲鳴を上げて霧散し、光は虚しくかき消された。

 喉が枯れるほど祈りながら光を注ぎ続けるが、私の実力では、この呪いに傷一つつけられない。あんなに自信のあった私の「奇跡」は、ただの無力な輝きでしかなかった。


 そこへ、一人の女が歩み寄ってきた。


「どいて。あなたじゃ無理よ」


 女が、呆然とする私の横を通り抜け、アルカード様に手をかざした。彼女が放った重苦しくも洗練された魔力が触れた瞬間、あんなに頑固だった呪いが、嘘のように消えていった。


「……あ……」


 アルカード様がゆっくりと目を開ける。それまで心配そうに見守っていたアルエルとルナは、父親が助かったのを見て、ぱっと表情を明るくした。


「お父さま! 治ったんだね!」


 子供たちはもう安心し、救い主である女と父親を見上げている。アルカード様もいつもの穏やかな手つきで子供たちの頭を撫でた。


「ああ、もう大丈夫だ。心配をかけたね」


 アルカード様は吸い寄せられるように立ち上がり、目の前の女を熱烈に見つめた。


「感謝する。命の恩人に、ぜひ礼をしたい。名前を聞かせてくれないか」

「ミラ。……ミラ・ヴァレンシュタインよ」


 その名を聞いた瞬間、アルカード様の瞳が、かつて私を森で見つけた時のような輝きを帯びた。


「ミラ……。ああ、例の話していた新しい『筆頭魔導師』か。まさか、これほどまでの逸材だったとは……」


 アルカード様の意識は、すでにミラに完全に奪われていた。彼はミラの横顔を陶酔したように見つめたまま、横に立ち尽くす私の方へ、振り返ることなく穏やかに声をかけた。


「エルナ。……悪いが、ミラと今後の魔導戦略について話をしてくる。子供たちを、ちょっと見ていてくれるか?」


 それは、日常の些細な頼み事をするような、あまりに自然で軽い口調だった。

 彼はそのまま、一度も私の瞳を見ることなく、ミラの腰に手を添えてエスコートするように歩き出した。


「さあ、ミラ。君の理論を詳しく聞かせてくれ。君こそが、今の帝国に……私に必要な力だ」


 二人は睦まじく言葉を交わしながら、光り輝く城の奥へと消えていった。

 私は、自分の無力さを証明するように震える手を見つめ、無邪気に笑い合う子供たちの傍らで、ただ一人、冷たい地面に立ち尽くしていた。


 夜空には、花火の消えた後の暗い煙だけが、いつまでも漂っていた。

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