第24話:影を継ぐ愛娘と、永遠に続く家族の絆
アルエルの時とは違い、二人目の子の兆しはとても穏やかだった。
庭の精霊たちは騒ぐ代わりに、夜な夜な子守唄のような優しい光を放ち、アルカード様もまた、以前よりも落ち着いた……。
いえ、やはり私の側を片時も離れない過保護ぶりは健在だった。
「エルナ、気分は悪くないか? 少しでも寒ければ、私の影で温めよう」
「ふふ、陛下。影に包まれたら、真っ暗で何も見えなくなってしまいますわ」
そんな冗談を言い合えるほど、私たちの心は満たされていた。
そして訪れた、柔らかな月光が差し込む夜。
帝国に新しい産声が響いた。
「……おめでとうございます。今度は、愛らしい王女様です!」
生まれたばかりの赤ん坊を腕に抱いたアルカード様は、目を見開いて絶句した。
その子の小さな指先からは、精霊の光ではなく、彼と同じ「漆黒の影」がゆらりと立ち上っていたのだ。
「私の……呪いだったはずの影を、この子はこんなに美しく……」
かつて彼を苦しめ、孤独に突き落とした「影の魔力」。
けれど、私との間に生まれたその子は、影を自在に操り、私の精霊の光と楽しそうに混ぜ合わせて遊んでいる。
呪いは今、愛し合う二人の結晶として、「祝福」へと完全に書き換えられたのだ。
「アルカード様。この子の名前は、ルナ……『ルナ・ガラルド』にしましょう。あなたの夜を照らす、月のように」
「ルナ……。いい名だ。エルナ、君は本当に……私から地獄を奪い、天国を与えてくれるのだな」
翌朝、窓の外を見ると、アルエルが幼い妹の手(と影)を引いて、精霊たちと一緒に庭を駆け回る姿が見えた。
それを見守るアルカード様の横顔には、かつての冷酷な皇帝の面影など微塵もない。
◇◇◇
一方で、世界の片隅。
もはや誰も気に留めない、かつての母国・ロセリア王国の跡地。
そこには、もはや名前すら忘れ去られた男と女がいた。
「どうして……どうしてこんなはずじゃなかったのに……」
カイルは、帝国から流れてくる「幸福の光」を遠くから見つめ、ただ虚空を掻きむしる。
リリアは、泥で作った王冠を頭に乗せ、かつての栄光をぶつぶつと呟き続けている。
彼らにとっての本当の罰は、死ではない。
自分たちが捨てた「ゴミ」が、今や世界で最も尊い「宝石」として輝いていることを、永遠に指をくわえて見ていることだった。
私はもう、後ろを振り向かない。
私の手は今、最愛の夫と、二人の宝物によって、温かく満たされているのだから。




