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第19話:もう、あなたの声は届かない

 呪いの雲は晴れ、ガラルド帝国にはこれまで以上の輝きに満ちた春が訪れていた。

 私の体調も回復し、お腹の中の命も精霊たちの歌声に包まれてすくすくと育っている。


「エルナ、あまり動くなと言っているだろう。庭を歩くだけなら私が抱えていこう」

「ふふ、陛下。それでは私が歩く練習になりませんわ」


 相変わらず過保護なアルカード様と笑い合っていた、その時。

 国境の警備隊から、一通の緊急連絡が入った。


「報告します。我が国の門前に、ボロボロの姿をした男が立ち尽くし、皇妃様に面会を求めて喚いております。名は……カイル・フォン・ロセリアと」


 アルカード様の瞳がスッと細まり、冷たい殺気が漏れ出す。

 私は彼の手にそっと触れ、静かに首を振った。


「……会いましょう。それが、本当の最後になるはずですから」


 ◇◇◇


 城門の前にいたのは、かつての輝かしい王太子とは似ても似つかぬ、浮浪者のような男だった。

 カイルは私とアルカード様が現れるなり、地面に額を擦り付けて泣き叫んだ。


「エルナ! エルナ、頼む! 俺が悪かった! リリアは禁忌に手を染めて狂い、父上も病で倒れた! 国はもうめちゃくちゃなんだ……。君さえ、君さえ戻ってくれれば、精霊たちも戻ってくるはずだ!」


 彼は私のドレスの裾を掴もうとしたが、その手はアルカード様の影によって冷酷に弾かれた。


「戻ってくれ? ……カイル様、あなたはまだ、私があなたの『持ち物』だと思っているのですね」


 私は彼を見下ろした。怒りすら湧かなかった。ただ、ひたすらに哀れだった。


「私が母国にいた頃、精霊たちの声を聞いてと何度願ったか覚えていますか? あなたはそれを『無能の戯言』と笑い、私をこの国に売った。……今のこの幸せは、あなたが捨てたゴミの中から、陛下が見つけ出してくれた宝物なんです」


「そ、それは……! でも、俺たちは家族だろう!?」

「家族なら、私を死の森に送りませんでしたわ。……カイル様、今の私の名前はエルナ・ガラルド。あなたの国の再生を祈る力は、もう私には一滴も残っていません」


 私は精霊たちに命じ、カイルの周囲に不可視の結界を張らせた。

 二度と、彼がこの国の地を踏むことも、私の視界に入ることもできないように。


「連れて行け。二度と私の前に出すな」


 アルカード様の冷徹な命により、カイルは衛兵たちに引きずられていった。

「エルナァ! エルナァァァ!」という叫び声が遠ざかる。


 私はアルカード様の胸に顔を埋めた。

 これで、本当にすべてが終わったのだ。

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