第17話:たとえこの身が尽きようとも、あなたと子を守り抜く
ゼノスの呪いは執拗だった。
私の体温は奪われ、意識が遠のくたびに、お腹の中の小さな鼓動が弱まっていくのがわかる。
「エルナ! 目を開けろ、エルナ!」
アルカード様の怒号に近い叫びが聞こえる。
彼は私を抱きしめ、自らの膨大な魔力を流し込んで呪いを食い止めようとしていた。だが、皇帝の強すぎる魔力は、弱り切った私の体には毒にもなりかねない。
『主を助けて!』『私たちが盾になる!』
その時、部屋中に溢れんばかりの精霊たちが集まってきた。
彼らは自らの意思で、私の体と呪いの糸の間に割り込み、身代わりとなって次々と消滅していく。
一匹、また一匹と光が消えるたびに、私の意識がわずかにつなぎ止められる。
「……みんな、やめて……消えないで……っ」
「エルナ、喋るな。……ゼノス、貴様が狙っているのはこの命だろう。ならば、くれてやる。ただし――地獄で後悔させてからだ」
アルカード様の背後から、漆黒の翼のような影が噴き出した。
彼は私の額に最後の手を当て、精霊たちに命じる。
「精霊どもよ。私の魔力の半分を食らえ。その代わり、私が戻るまで、何があってもエルナと子を守れ。……一秒でも長く、彼女に光を見せておけ」
それは、皇帝としての力を捨てかねない、命懸けの契約だった。
精霊たちはアルカード様の強大な魔力を受け取り、まばゆい黄金の繭となって私を包み込んだ。
◇◇◇
次の瞬間、アルカード様の姿は寝室から消えていた。
彼が向かったのは、北の果て。呪いの源流が渦巻くゼノスの居城だ。
「……来たか、呪われた皇帝。だが、魔力の半分を失った貴様に、何ができる?」
不敵に笑うゼノス。だが、アルカード様は無言で剣を抜いた。
その瞳に宿っているのは、魔力などという高尚なものではない。愛する者を傷つけられた、一人の男としての「純粋な殺意」だった。
「魔力などいらん。……貴様の魂を、この手で直接引きずり出し、永遠に続く影の拷問にかけてやる」
城全体が、アルカード様の放つ漆黒の影に飲み込まれていく。
一方で、繭の中で眠る私は、夢を見ていた。
お腹の中の子が、小さな手で私の指を握り、「お母さん、大丈夫だよ」と笑いかけてくれる夢を。




