第15話:授かったのは、世界を祝福する小さな命
「星降る離宮」での休暇を終え、城に戻ってから一ヶ月。
私の体に、ささやかな変化が起きていた。
「……エルナ、顔色が優れないようだが? 精霊たちが騒いでいる。『主の体の中に、太陽が生まれた』と……」
アルカード様が心配そうに私の顔を覗き込む。
確かに、最近は精霊たちがいつにも増して過保護だった。私が一歩歩こうとするだけで、花の精霊が足元に絨毯のように敷き詰められ、風の精霊が私を浮かせようとする。
お抱えの医師が私を診察し、震える声で告げた。
「お、おめでとうございます……! 皇妃様のお腹の中に、新たな命が宿っております。それも、かつてないほど強大な精霊の加護を纏った、奇跡の御子です!」
その瞬間、アルカード様の動きが止まった。
いつも沈着冷静な皇帝陛下が、見たこともないほど動揺し、やがて膝をついて私の手を取った。
「私の、子供……。エルナ、君との間に……」
彼の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
呪いに苦しみ、誰からも愛されないと絶望していた孤独な皇帝にとって、それは何よりも尊い「救い」だった。
このニュースは瞬く間に帝国全土、そして世界中を駆け巡った。
「精霊の聖女が、皇帝の御子を授かった!」
民衆は祭り騒ぎとなり、かつて死の森だった場所からは、祝福の輝きを放つ「聖なる大樹」が芽吹いた。
しかし、光が強まれば、影もまた深くなる。
◇◇◇
大陸の北の果て。
どの国にも属さない禁忌の地で、一人の男が水晶球を覗き込んでいた。
彼はかつて母国ロセリア王国で、リリアを唆して禁忌の魔法を使わせた黒幕――亡国の魔導師ゼノス。
「……見つけたぞ。純粋な精霊の巫女と、強大な魔力を持つ皇帝の血。その間に生まれる御子の魂こそ、私の『根源の魔法』を完成させる最後の鍵だ」
ゼノスは不敵に笑う。
教国や王太子のような小物ではない。エルナの存在そのものを「素材」として狙う、真の邪悪が牙を剥こうとしていた。
「おめでとう、エルナ。……お前の幸せも、そこまでだ」
闇の中で、巨大な魔法陣が不気味な脈動を始めた。




